変化
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私は自分の弱さを自覚し、そして私自身を嫌いになった。
その日から自分を変えようとしました。
そして始めるようになったことがモデル業。
どうすれば変われるか考えながら、再び駅前を歩いているとモデル業の話を持ち掛けられました。
もしかしたらこの仕事で私は変わることができるかもしれないと、そう思い受けることにしました。
仕事の時は眼鏡をやめて、コンタクトにしたり、人と目を合わせなくていいように伸ばしていた前髪を分けたりと雰囲気を変えてみたりしている。
まるで別の人間になったつもりで仕事をする。
ーーこうやって少しずつでも私は変わっていくんだ。
私のことを助けてくれた基山君の側にいられるように……。
彼の為になれるように……。
だけど私は学校ではいつまで経っても変わることができなかった。
時々入る仕事の時は、別の私で入れたのに……それなのに学校では変わらず嫌いな私のままだった。
そうこうしている間に半年以上が経ってしまい、私たちは2年生に上がってしまった。
学校のみんなにはモデルのことを一切話していなかったけど、仕事の方は順調だった。
私は今年こそ、その勢いで変われる……いや、変わるんだと思っていました。
しかし、先に変化が訪れたのは基山君の方でした。
新入生の子で噂になってしまうほど可愛いと言われる子が入学してきたらしいです。
そしてその子、原田奈美さんが積極的に基山君のところに訪ね始めました。
始めは嫌そうな顔をしていた基山君でしたが、ゴールデンウィークに入る前にはなんだか人が変わったように穏やかな顔をすることが増えました。
多くの周りの人たちは彼の変化に気づいていませんでした。
しかし私には、普段彼の側にいる秋山君や優子ちゃんを含めて、彼の周りは変化している気がします。
2年生に上がってからの、この1ヶ月で彼らに一体なにがあったのだろうと疑問に思いつつ、私はぼーっとしながら廊下に出ようとする。
「キャッ‼︎」
「わっ⁉︎」
ドンっと音を立てながら誰かとぶつかってしまった。
ーーいたた……ぼーっとしすぎて周りをちゃんと確認してなかった。
思いっきりぶつかってしまった勢いで、尻もちをついてしまったみたいでお尻が痛い。
「大丈夫か?」
しばらく倒れた格好のまま固まっていると、そんな心配するような声を誰かが掛けてくれた。
けれどぶつかった拍子に眼鏡も外れてしまったらしく、誰が声を掛けてくれたのかよく見えない。
「いたた……せんぱーい、お尻打ったみたいで痛いです」
すると、私とぶつかったと思われる人が先に答えた。
ーーな、なんだ、私にじゃなかったんだ。 先に答えなくて良かった。
「お前じゃねーし、知らねーよ。 えっと、鷲尾だったか? 大丈夫か?」
でもどうやら、やっぱり私に対して言ってくれていたらしい。
今度は私の名前を呼びながら、再度大丈夫か聞いてくれる。
私はその人から差し出された眼鏡を受け取り、掛け直した後その人を見る。
「は、はい。 大丈夫です……って、えっ? き、ききき、基山くん⁉︎」
顔を上げると左手を差し出す格好で、私を心配するような顔をしている基山君が目の前にいて、びっくりしました。
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ゴールデンウィークは1日だけ仕事に入った以外は特に何事もなく平凡に過ぎました。
だけど連休が明けて、5月に入って初の登校日、私にとって大きな変化が起こりました。
私はいつもと変わらず、少し早めに登校して、教室で先生が来るのを待っていました。
徐々に教室に人が集まり始めたタイミングでポケットに入れていた私のスマホが振動した。
どうやらメールが届いたらしく、HRまで時間があったのでメールの内容を確認してみる。
私はその内容を読んで驚き、そして嬉々とした。
メールの内容には女優業の仕事が舞い込むかもしれないということが書かれていたからだ。
ーー女優……これなら私はようやく今の私を捨てることができるかもしれない!
詳しい話は次のモデルの仕事のある土曜日にするとも書かれていたが、私は高ぶった気持ちを抑えきれず、担当のマネージャーに電話しようと席を立った。
相当浮かれていたのだろう、またしても周りを確認しないで廊下に出ようとする。
「きゃっ!!」
案の定、誰かとぶつかってしまいました。
「あっ、わりー。 大丈夫か?」
私は倒れてしまったけど、ぶつかった相手の人は大丈夫だったみたいで、謝り心配するような声を掛けてくれながら手を差し出してくれました。
「は、はい。 大丈夫です……って、えっ? き、ききき、基山くん⁉︎」
顔を上げ、ぶつかった相手の人を確認すると今度も基山君でした。
急な基山君との接触に、私は思わず前と全く同じ反応をしてしまった。
手を差し出したまま基山君は私の顔を見て、なにか複雑そうな顔をしていました。
しかし、私が呼び掛けるとハッとしたように起こしてくれました。
その後も基山君は私の顔を見て、さっきと同じような顔をしましたけど、お互いに謝ることでこの件は終わりました。
そして基山君は私に背を向けて、自分の席に戻っていきます。
「もう少しだけ待っててね」
自分の席に向かう基山君の後ろ姿にぽそりと一言だけ残し、私も廊下に出ました。
ーーそう。 もう少しで私は…………。
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土曜日に撮影スタジオとなっている駅付近のビルに着いた私に待っていたのは、嬉しそうにしているマネージャーの姿だった。
「おめでとう! 女優の仕事が正式に決まったよ!」
そのマネージャーの一言に私も心から喜んだ。
その後、具体的に仕事の内容を聞いてみる。
私の担当のマネージャーはここの会社の社長の息子だということは知っていましたけど、どうやらそのコネを使ったらしいです。
別の地方に住んでいるそこそこお金持ちの方が、自分を主役で個人的に撮影を行ってみたいと言いだしたらしく、その方と繋がりのあるマネージャーがヒロイン役に私を推薦してくれたみたいです。
個人的な撮影なので、大きな仕事とは言えないかもしれないですけど、私としてはそれでも全然構わなかった。
ーーだって私が変わることのできる、これ以上ないチャンスなのだから!
だから私はその仕事を受けることにしました。