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相談

 


 ゴールデンウィーク明けての初日の学校。

 HR前に鷲尾とぶつかったこと以外は特になにもなく、連休前となにも変わらない1日が終わった。


 もちろんぶつかった後、鷲尾と関わることはなかった。

 ただ、電話から帰ってきた鷲尾の様子が少し嬉しそうにしていた……それくらいだ。



 今日も授業後に奈美が俺のことを迎えに来て一緒に帰る。

 なぜか途中まで秋山も一緒に帰るとついて来たが……。



「先輩、朝からそんな辛気臭い顔ばかり……どうしたんですか?」

「ほんとだよ! 授業中もずっと考えごとばかりで全然俺に構ってくれないし」

「秋山に関してはなんで構われること前提なんだよ」


 奈美と秋山は今日の俺が変だったと言ってくる。


「少し気になることがあってな」


 マネージャーっぽい男の発言のことも当然気になったが、それ以上に今日の鷲尾の顔を見たときに感じた違和感が今は気になって仕方なかった。


「気になることですか?」

「あっ、わかった! 鷲尾ちゃんのことでしょ?」


 秋山は相変わらず変に勘がいい。

 俺はまだこの2人には鷲尾のことはなにも話していない。


「今日は基山が鷲尾ちゃんとぶつかってたしね。 その後もなんかチラチラと様子伺っていたみたいだし」

「鷲尾ちゃん? 誰なんですか、その人?」


 なぜ秋山が俺の視線の先を確認していたのかは置いておくとして、奈美が半眼で俺の方を見てくる。


「この前、奈美がぶつかった相手だよ」

「あー、あのおっぱいの大きい人。 なんで先輩はその人のことを気になっているんですか」


 鷲尾の正体がわかったところで、今度は気になっている理由を聞いてくる。


 ーーなんでそんな食いつくんだよ。 なんかこえーよ。


「…………」


 なんて答えたもんかと悩んでいると、奈美の方が先に切り出してきた。


「やっぱりおっぱいですか? あの大きなものが気になって仕方ないんですか?」


 ーーだからなんかこえーって。 しかもどんだけ鷲尾の胸を引きずってんだよ……。


 グイグイと顔を近づけてきながら、俺の気になっているものが胸なのか聞いてくる奈美に若干引いてしまう。


「ちげーよ。 そういうのじゃない」


 とりあえず鷲尾のことで気になっているものが胸であることだけは否定しておく。


 素直に話してもいいのか考えるが、あの女子高生が鷲尾なのかも、マネージャーっぽい男の電話の内容も、結局全てが曖昧なままなので変にこの件にみんなを巻き込むことを躊躇ってしまう。


「まぁまぁ、原田ちゃん落ち着いて」


 俺が言い淀んでいると、秋山が依然としてグイグイと俺に迫ってくる奈美を止めてくれる。


「でも基山? 大丈夫だとは思うけど、ストーカーにだけはなっちゃダメだよ?」


 一応、奈美のフォローのつもりなのか奈美を止めながら、俺の方を見て秋山はそう言ってくる。


「安心しろ。 本当にそういうことじゃないし、最近見たあのストーカー男みたいなことは絶対しないから」

「……2人して、嫌なもの思い出させないでくださいよ」


 俺の秋山の話で、奈美は嫌なもの……つい先日奈美を襲ったストーカー男を思い出したのか、苦虫を潰したような顔をし落ち着いたらしい。


 その後、俺たちは各々の帰路につき、別れた。




 家に帰り、一通り家事を済ませる。

 晩飯と風呂もサクッと終わらせ、ベッドで横になり考える。


 ーーほんと、どうしたもんかね。 昨日までならあの女子高生が鷲尾だったということさえわかれば、軽く忠告するくらいでいいだろうって思ってたけど。


 ほとんど関わりのない俺が首を突っ込むような話ではないということはわかっていた。


 ーーだけど、今日の鷲尾の顔……あれってやっぱり……。


 トゥルルン トゥントゥントゥントゥン


 どうするか考えていると枕元に置いてあるスマホがなり始めた。


 ラインをインストールした日から、こうして寝る前に必ず電話が掛かってくる。


 誰から掛かってきたのか確認するまでもない。

 そもそも登録してある人間は1人しかいないのだから。


「もしもし。 さっきぶりだな」


 毎夜のことなので、もはや慣れた手つきで通話に出る。


『さっきぶりです、先輩!』



 登下校の時間や、昼飯の時間などいくらでも話はしているはずなのに、俺たちは他愛のない話をひたすら続ける。



『それで? 先輩は鷲尾先輩のなにが気になっているんですか?』

「……」


 ひとしきり他愛のない話をした後、奈美が鷲尾のことを聞いてきた。


 ーー結局、秋山と3人でいた帰り道ではこの話は曖昧に終わったしな。


 奈美があのまま納得し、スルーするとは思っていなかった。

 そして俺の思っていた通り、奈美はさっそく聞いてきた。


 ーーさて、なんて返すべきか。


 あの件に本格的に首を突っ込むなら間違いなく厄介ごとになる予感はしている。

 だからこそ、そこに奈美や秋山、本田を巻き込んでいいものか悩み、少し黙ってしまう。


『先輩、私はただ先輩の力になりたいだけです。 本気で煩悩で鷲尾先輩のことが気になっているなんて思ってないです』


 黙っている俺に奈美が話を続ける。

 電話越しだが、奈美が真剣な表情をしていることがわかる。


『私を頼ってくれませんか?』

「…………はぁ」


 ーーそうだよな。 頼るって決めたもんな。


 俺1人ではなく奈美やあいつらと一緒に前を向いていくって決めたことを改めて思い出す。


「わかった。 実はなーー」


 俺は奈美に鷲尾のことで気になっていることを全て話した。

 買い物に出掛けた日の現場、その時の男の電話の話。


「ーーあとは今日、鷲尾の顔を見て少し違和感を感じたんだ」

『違和感……ですか?』

「あぁ確証もないし、今はまだ具体的なことはわからん。 ほんとに少し感じたくらいだ」


 とりあえず今、俺の知っていること、思っていること、全部を吐き出した。


『ふぅ……たしかに色々と気にはなりますね。 よし、それなら先輩! 実際に確認しちゃいましょ!』


 一通り全部を聞き終えた奈美は納得してくれたようだ。

 そして、力を貸してくれるらしい。


「確認って? 鷲尾があの女子高生かどうかもわかんないんだぞ。 もし周りに隠しているなら直接聞いたところで意味もないと思うが?」

『次の土曜に撮影って言ってたんですよね? だったらそこに行けばいいんですよ!』


 つまり尾行しようということらしい。


「それ、やってることストーカーとあんま変わらなくないか?」

『そんなことないですよ! 私とまたお出かけに行って、偶然見ちゃったってことならなんの問題もないです!』


 本当にそうなのか疑問ではあるが、今のところはそれが一番手っ取り早いアプローチ方法なのかもしれないと自分に言い聞かせ、納得させる。


「……まあいいか。 んじゃ土曜よろしく頼んでいいか?」

『もちろんです! 私としてはむしろラッキーです』


 そう言って手を貸してくれる奈美に、俺は電話越しに顔が緩む。

 その後、土曜の予定について俺たちは話し合った。



『それよりも、やっぱり先輩もお人好しですね』

「やっぱりってなんだよ」


 待ち合わせ時間や場所など土曜の予定をある程度決め終えたタイミングで奈美がそう言ってきた。


『しかも、また1人で抱え込もうとしてーー』


 俺の返しを無視して、長い長い説教が始まった。

 結局その日の通話は、奈美からの説教のような小言を聞き続けて終わりを迎えた。



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