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違和感

 


 ゴールデンウィークが終わった……終わってしまった。


 これまでの俺なら連休が終わったところでなにも感じなかったが、いざ学校にちゃんと出るとなると、こういう連休や長期休みの有り難みをがっつりと感じる。


 ーーゴールデンウィーク前日の奈美のハイテンションも今ならよくわかるわ。


 後追いする形でゴールデンウィーク前の奈美に同意する。

 この5日間で結局ゲームに費やせた時間は最終日の1日だけだった。

 まあそれでも、その1日で溜まってたゲームを1つ終わらせれたのはよかったけど。


 ある意味で色々と充実な連休を終えることができただろう。

 しかし俺には1つだけ気がかりなことがあった。


 ーーやっぱ気になるよな。 鷲尾っぽいあの子のこと……というよりあのマネージャーと思う方の電話の内容。


 つい先日、学校内で変態とやりあったばかりだ。

 どうしても嫌な想像をしてしまうのは仕方がない。


「はぁ……どいつもこいつも変態ホイホイばっかかよ」

「……先輩。 なにか失礼なこと考えていませんか?」


 そんなモヤモヤを抱えたまま今日も1人目の変態ホイホイこと、奈美と一緒に登校し、学校内で別れる。


 奈美と別れ、1人になった俺は下駄箱から教室までの道中も考える。


 ーーいっそのこと鷲尾に、あのマネージャーは危ないかもってしれないと伝えるか? とはいえ、そもそもあの女子高生が本当に鷲尾かどうかも……。



「あら、圭。 おはよ! 連休明けなのに朝から学校来るなんて偉いわね!」


 考え事をしながらぼーっと歩く俺に、本田がお姉さんぶった感じで言ってくる。


「あぁ、本田か。 おはよ」

「うん? なんだが浮かない顔してるわね。 どうかしたの?」


 俺も大概、思っていることが顔に出るらしい。

 本田は俺の顔を見て、少し心配そうな顔をしながら聞いてくる。


「あー、なんでも…………」


 ーーいや、本田ならあの女子高生が鷲尾かどうか知っているか?


 俺は一瞬はぐらかそうとしたが、顔の広い本田に聞けばなにかわかるかもしれないと思い直し、はぐらかすことをやめる。


「なぁ、鷲尾ってなにかバイトとかしてるのか?」


 あれが本当に鷲尾だとしたらだいぶ雰囲気を変えていたし、もしかしたらそのことを学校では隠している可能性も十分にあった。

 だから敢えて範囲の広い質問をしてみる。


「楓ちゃん? あんた、楓ちゃんと交流とかあったの?」

「いや、ないけどさ」


 広範囲な質問にした所為で、本田に俺の質問の意図は伝わるはずもなかった。

 それならなぜそんなことを聞くのかというように、本田は俺のことを訝しげに見てくる。


 ーーそりゃそうだわな。 交友関係のない人間のプライベートの探索とか変だよな。


 そう思い、やっぱり聞き出すのをやめようと俺が口を開こうとしたタイミングで本田が先に口を開いた。


「うーん、まあいいわ! 教えてあげる。 圭が私に対して素直に色々話す方が珍しい話だもんね」

「ふん、それは悪かったな」


 本田はやれやれと首を振りながらそう言ってくれる。


「といっても私も大したことは知らないわよ。 楓ちゃんから直接聞いたことはないし、ただ軽い噂程度だったらなにかバイトしてるんじゃないかみたいな話は聞いたことある程度ね」

「そうか……まあ少し気になることがあるくらいだから、それで十分だ」


 結局、あの女子高生が鷲尾だった可能性が少し上がっただけだったが、こればかりは仕方ないだろう。


「んじゃ、ありがとな」


 俺は聞きたいことが聞けたので、本田と別れて教室に改めて向かおうとする。


「……圭? 変なことに首突っ込むのはやめときなさいよ?」

「あぁ、大丈夫だろ。 ほんとに少し気になることがあるくらいだ」


 本田は背を向けた俺に、再度心配するような声を掛けてきたが、俺はそれを適当に受け流した。




 そのまま本田と別れた俺は教室に向かう。

 そして教室の中に入ろうとしたタイミングで誰かとぶつかった。


「きゃっ!!」


 俺とぶつかった相手はそんな声を上げながら倒れてしまった。


「あっ、わりー。 大丈夫か?」


 倒れたそいつを見ると、またしても鷲尾だった。


 ーーまじか、今度は俺かよ……。


 そう思いながら前と同じように、声を掛けながら左手を差し出す。


「は、はい。 大丈夫です……って、えっ? き、ききき、基山くん⁉︎」


 顔を上げた鷲尾からは、前と全く同じ反応が返ってきた。


「ほんと悪いな。 奈美に注意したのに今度は俺が不注意だった」

「い、いえ。 私もまた不注意でした」


 そう言って鷲尾は俺の差し出した手を掴んでくる。


 ーーん? なんだ?


「…………」

「あ、あの? え、えっと……基山くん?」


 手を掴んできた鷲尾の顔を見て、俺はなんだか少し違和感を感じてしまい、固まってしまった。

 そんな固まりなかなか引き上げない俺の様子に不思議に感じたのか、鷲尾が俺の名を呼んできた。


「あー、悪い。 よっこいせ……っと」


 鷲尾の呼び掛けに俺はハッとし、鷲尾を引き上げる。


「き、基山くん……えと、その、ぶつかってごめんなさい」

「いや、俺も考えごとをしていて不注意だった。 こっちこそ悪かったな」


 ーーまぁ、その考えごとの相手が鷲尾本人なんだがな。


 起き上がってすぐにおどおどとしながらも謝ってくる鷲尾に、俺も謝る。


 ーーそれよりも本当になんなんだ? この違和感……。


 起こした鷲尾の顔を改めて見て、やはり違和感のようなものを感じた。


「…………」

「あ、あの……そんな見つめられると……そ、その……」


 恥ずかしそうに顔を徐々に赤面させていく鷲尾を見て、俺は鷲尾を見ることをやめる。


「悪い、なんでもない」

「そ、そうですか。 せっかく助けてもらったのにごめんなさい……私、今すぐ電話をしなくちゃいけなくて」


 ーーせっかく?


 なんか妙に引っかかるものもあったが、鷲尾は急いで教室から出ようとしていた理由を話す。

 HRまであまり時間もないので、それで急いでいたのだろう。


「あぁ、じゃあ行ってきな。 ほんとに悪かったな」


 これ以上、鷲尾をこの場に止める理由もないので最後にもう一度だけ謝って俺は自分の席に向かった。



「もう……だけ…………てね」


 自分の席に向かう俺の後ろから小さな声でなにか聞こえた気がした。

 しかし、振り返った時にはすでに誰もいなかった。



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