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新しい日常

ここから第2章です。

改めてよろしくお願いします!

 


 私にはクラスメイトに気になっている男の人がいます。


 その人は素行が良くないということで、校内では悪い意味で有名人でした。

 ですが彼はそんなに悪い人ではないんじゃないかなと、最近私は特にそう思っています。


 臆病な性格の私には、入学当初彼はとても恐ろしい存在に見えました。

 絶対に関わらないようにしなくてはなんて思っていました。


 そう、彼に助けてもらった日までは。




 ーーもう少しだけ待っててね。 もう少しだから。




 ♦︎♦︎♦︎



 奈美を助け、奈美たちに助けられた日から数日が経った。


 学校内で同級生を攫うという、とんでもない事件を起こした男は、入学から僅か一ヶ月も経たず転校という形でこの学校を去った。


 暴走した俺があの男に相当の恐怖とトラウマを与えたらしく、先生に引き渡した後は素直に自分のしでかしたことを全て話したと鈴ちゃん先生が言っていた。


 学校側としては事を大きく取り扱いたくないという理由と、なにより被害者である奈美本人が「もうスッキリしたのでいいです」と言ったことでこの件は割と穏便に済まされた。


 ーーまぁ、もしも逆恨みでもして、再び俺らの前に現れるようなことがあれば、今度こそ本当にぶっ潰してやるけど。


 なんて冗談なしの物騒な考えをしていると昼飯の時間がきたのか、奈美が俺のクラスにやってきた。


「先輩! お昼一緒に食べましょー」


 あの一件以来、奈美は毎日昼飯を俺の教室に食べにくる。


 ーー昼飯は自分の教室で食えって言ってんのにな。


 あの一件の後にも一度言ったはずなのだが、本人曰く「時々は自分の教室で食べるので大丈夫です!」とのことで、聞く耳を持たない。


 まあ俺も奈美と昼飯を一緒に食べることは別に嫌ではないので、強く言えないでいることも問題なんだろう。


 あれ以来、俺は奈美に対してかなり甘くなってしまっていた。

 まだあれから数日しか経っていないにも関わらず、本田にも、


『まさか圭がここまで誰かに対して甘々になるとは思わなかったわ』


 なんて言われる始末だ。

 そのことを思い出し、1人で苦笑してしまう。


 奈美が廊下でそんな俺の反応があるまで待機しているので、手招きしてやる。

 俺の許しが出たのを確認して、奈美は満面の笑みを浮かべ教室に入ってこようとした。


「わっ⁉︎」

「キャッ‼︎」


 ドンっと音を立て奈美ともう1人の女子がぶつかった。

 奈美が教室に入るタイミングとその女子が廊下に出ようとするタイミングが重なってしまったらしい。


「ったく、なにやってんだ……」


 俺は席を立ち、転んだ2人のところへ向かう。

 その途中で落ちている眼鏡を拾う。


「大丈夫か?」


 転んだ拍子に掛けていた眼鏡が外れてしまったらしい。

 俺は尻もちをつき座り込んでいるクラスメイトの女子に眼鏡を差し出しながら声を掛ける。


「いたた……せんぱーい、お尻打ったみたいで痛いです」

「お前じゃねーし、知らねーよ。 えっと、鷲尾だったか? 大丈夫か?」


 俺は左手を差し出し、未だ下を向いたまま固まっているクラスメイト……鷲尾楓に改めて大丈夫か聞いた。


「は、はい。 大丈夫です……って、えっ? き、ききき、基山くん⁉︎」


 眼鏡を受け取り、掛け直した後に俺の姿を見た鷲尾は急に動揺したように後退ろうする。

 しかし、鷲尾も奈美と同じように尻を打ったのか、思うように動けなかったらしい。


「ッ!」


 上半身だけ動かし、目にかかった前髪を切るなり分けるなりさえすれば高校生らしい程よく伸びたセミロングの髪と、高校生らしからぬ大きな胸が揺れた。


「……」

「……先輩?」


 奈美がなにやら非難するような声で俺を呼んでくる。


「んんっ……無理するな。 上手いこと力が出ないんだろ?」


 咳払いをして何事もなかったように差し出した手を近づける。

 しなし、鷲尾はなかなか俺の手を取らなかった。


 "不良の基山圭"という仮面を外すことになったとはいえ、たかが数日しか経っていないので、周りからしてみれば基山圭は不良というレッテルは剥がれていない。


 ーーそもそも、そんなに大きな変化はしてないしな。


 特に目の前の女子は内向的な子だった……と思う。

 今までは秋山や本田以外の生徒に関心を持つことなんて全くなかった為、いまいち確信はない。


「悪い。 俺じゃあきついよな」


 たしか内向的な性格をしていると思われる鷲尾にとって、俺から差し出された手など恐怖の対象にさえなってしまうだろう。

 そう考えて差し出したままでいる左手を引こうとしたが、その瞬間がっしりと掴まれた。


「そ、そんなことない……です」

「……そうか? んじゃ起こすぞ。 よいっしょっと」


 転んだ拍子にどこか痛めているといけないので、なるべく優しくを意識して、ゆっくりと起こしてやる。


「えっと、基山君ありがとう……」

「どういたしまして。 それよりもどこか行こうとしてたんだろ? そこのアホはほっといていいから行ってきな」


 顔を赤くし、俯きながらお礼を言ってくる鷲尾にそう言ってやる。


「えっ? でも……」


 鷲尾は未だに座り続けている奈美の方を見て困ったようにしている。

 奈美はそんな鷲尾の顔に気づき、笑顔になる。


「あっ、私も大丈夫なのでお構いなく! 先輩に起こしてもらうのを待っているだけなので!」

「……な? このアホはほっといていいから」


 そんな奈美の発言に俺はげんなりとしてしまう。

 しかし、奈美本人も大丈夫と言っていることもあり、鷲尾は納得してくれた様子だ。


「そ、そうですか。 えっと、原田さん? その、ごめんなさい」

「いえいえ、こちらこそ突然飛び出しちゃってすみませんでした」


 お互いに謝ったことでぶつかった件は終わり、鷲尾は教室の外に出ていった。



「さて! 先輩、いい加減起こしてくださいよ!」


 鷲尾が出ていった後、奈美はまるで抱っこしろと言わんばかりに両手を上げて起こせと言ってくる。


「はぁ……はいはい」


 そんな奈美の姿に溜息を吐き、げんなりとしたままながらも手を取ってやるあたり、甘くなったなと実感する。


 ーーまあ、流石に両手を掴んでやるまではしないけど。 というか右手は療養中だしな。


 上げている手の片方を掴んで一気に起こそうとする。


「いたたたたた! 先輩! お尻打って痛むんですから、もっと丁寧に起こしてくださいよ!」

「お前が悪いんだからこれくらい我慢しろよ……ったく」


 俺は仕方なく要求の多い奈美を、ゆっくり起こしてやろうとする。


 それなのに奈美はなぜか不満そうな顔をしている。


「なんだよ?」

「なんで私のおっぱいは見てくれないんですか」


 …………。


 ーーこの手、離してやろうか。


「あの女の人だけずるいです! 私だってそれなりにあるんですからね!」

「…………」


 奈美はホレホレと体を前に押し出してくる。

 腹が立ってくるが、相手したところでさらにめんどくさくなりそうなので無視してそのまま起き上がらせる。



「ふぅ、ありがとうございます! でも本当にそこそこあるんですよ、私」

「あぁ……そうですか。 またそのうち確認させてもらいますね」


 正直どうでもよかったが、しつこく胸の話をしてくる奈美に適当に返す。


「確認⁉︎ もう……先輩のエッチ!」


 イラッときた。


 ーーまじではっ倒してやろうか。


 さすがに本気ではっ倒すわけにもいかないが、代わりに頬を軽く摘みはする。


「いだだだだだ! しぇんぱい、わたひほろほろごはんたえたいえす」


 俺が頬を摘んでいる所為で変な喋りになっているが、まあ言いたいことはわかる。


「ったく、誰の所為だっての……ほらさっさと来い」


 頬から手を離し、俺は席に戻りながら奈美を呼ぶ。



「2人ともやっぱり仲良いねー」


 俺の隣の席ですでに昼飯を食う準備をし始めていた秋山が笑顔で言ってくる。


「うるせーよ」

「やっぱりわかります? 私たち仲良しなんですよ!」


 秋山の言葉に俺と奈美が同時に言う。


「あはは、基山は相変わらず素直じゃないね」

「ほんとですよ! もっとデレてくれた方がお互い幸せなれるはずなのに」

「……はぁ」


 ある意味で息ぴったりな2人に溜息を吐きながら、昼飯に持ってきたおにぎりを鞄から取り出す。

 その俺を見て、奈美も俺の前の席を使わせてもらい、持ってきた弁当を俺の机の上に広げ始める。


「それより聞いてくださいよ、秋山先輩」

「ん? どしたの?」


 昼飯の準備をしながら奈美が困ったように秋山に話し掛ける。


「さっき先輩、私とぶつかった人のおっぱい凝視してたんですよ! それだけならまだしも……私のは全然興味なさそうで」


 どうやら奈美の中でさっきの話はまだ終わっていなかったらしい。

 それどころか自分の味方を増やそうとまでし始めた。


「俺はそも……」

「それはいけないな! でもね、原田ちゃん。 男なんてそんなもんだよ」


 反論しようとしたが、秋山に遮られてしまった。

 そしてそのまま2人の胸の会話は続く。


「そんなもんなんですかね。 あと大きい方がいいんですかね?」

「うーん、それは人によるんじゃないかな? 世の中にはーー」


 ーーはぁ、付き合いきれん。


 俺は2人をほっといて1人、先に昼飯に入ることにした。

 その後もしばらく2人の会話は続いた。


 しかし、今この場にいないもう1人の友人の登場でそれは終わりを迎える。


 そう、最悪な形で……。


「大丈夫、大丈夫! 原田ちゃんはちゃんとある方だよ! 優子のおっぱいなんて、それはもう可哀想で……」

「私がなんだって?」


 ………………。


 ーー場の空気が凍りつくというのはこういう状況なんだろうな。


 俺は他人事のようにそう思いながら、声のした方を向く。

 そこには満面の笑みを浮かべながら秋山の方を見ている本田がいた。


 ーーこ、こえー。人間あんな笑顔で殺気を放てるもんなんだな……。


 さすがの奈美もやばい雰囲気を察したのか、俺の背中に隠れた。


 この場において恐怖の権化となった本田の口が開く。


「ねえ、晴人? 私のなにがなんだって?」

「え、えっと……」

「ん? 早く、はっきりと、話しなさい?」


 口調は普段の変わらないのに、むしろそれが逆に怖さを倍増させていた。

 秋山もきっと今頃、目がキョドッていることだろう。


「優子の」

「私の?」


「お……お目目が……」

「おっぱいが?」


 秋山は最後の悪あがきをしようとするが、意味を成さなかったみたいだ。


「か、か……可愛いな……って」

「可哀想……ね?」


 ーー有無を言わせない復唱スタイル怖すぎんだろ……。


「ご、ごめんなさい」

「なに謝ってんの? さて、晴人……少し話があるからついてきなさい」


 謝っても許してくれないみたいだ。


 ーーご愁傷さま。


 秋山はそのまま首根っこを掴まれ、どこかに連れていかれてしまった。

 それを見届けた俺の後ろから、隠れていた奈美が出てきた。


「先輩……人ってあんな満面の笑みで殺気を放てるものなんですね」

「そうだな」


 同じことを考えていたらしい。


「あと復唱スタイルって恐ろしいんですね」

「……」


 なんだかんだで今の一件を通して、奈美との仲の良さを再確認できた気がする。



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