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後輩と友人たちの思い

 

 私の元に優子さんが駆けつけてくれました。


「優子さん! 先輩が‼︎」


 今は私のことよりも先輩を止めて欲しかった。

 しかし、優子さんは焦る私の顔を見たあと、優しく微笑みかけてくれました。


「圭のことはとりあえずは大丈夫よ! 隣の教室で晴人が圭を抑えてくれるはずよ」


 優子さんがそう言うと、扉の外から秋山先輩と思われる人の……


「痛ってぇーー⁉︎」


 ……という声が聞こえました。

 どうやら秋山先輩も一緒に来てくれたらしく、先輩を止めてくれいるらしい。


「ね? 晴人もやる時はやる男だから信用してあげて」


 優しくそう言ってくれる優子さんの言葉に私は少し安心しました。


「だから私はまずは奈美ちゃんを助けるわね。 じっとしていてね、縛ってあるロープを今解いてあげるから」

「すみません、お願いします」


 今は秋山先輩に先輩をお任せすることにします。

 優子さんが私の側にきて縛ってあるロープを解き始めてくれたので、その間に私はこれまでのことを思い出し、これからのことを考えます。



 あの日、先輩が流血沙汰になるほどに殴ってしまった人は大会初戦の相手選手だった。


 ーーそんなことがあの日先輩が壊れた理由? いや、そうとは思えないです。


 頭を冷静に、あの日のことを思い出す。


 ーーあの日のことで私が持っている情報……あの場にいた人間、あの騒動の後の結末……それくらいしかない。


 あの場にいた人間は先輩、倒れていた相手選手、警備員……そして親子。

 騒動後の結末は両チームのその年の大会出場の権利剥奪のみ……騒動の内容に比べたら軽い処罰でした。


 ーー剥奪されたのは両チーム……つまり相手の人にもなにか非があったはず。 それに近くにいたあの親子……シンプルに考えるなら相手の人が親子になにかしてそれを先輩が助けた、それが過剰だったが故の両チームの罰。


 私が信じると決めた"本当の先輩"なら、その考えで筋は通っているはずだと思います。

 しかし、それだけだと異常とも言える、あの過剰な暴力に関してはわからないです。


 ーーでも、その考えに今の状況を足したら……。


 今、先輩が壊れそうになっている理由。

 私が襲われたから。

 そんな私を守る為、助ける為……。


「ッ⁉︎」


 ーーもしかしてそれが理由? 私が信じると決めた"本当の先輩"、……つまり先輩の本質である、誰かの為にという優しさ。 これが壊れるトリガーだったとしたら……。

 

 たしかにあの日のことは私の自分勝手な都合の良い憶測でしかないかもしれない。

 でもあの日、親子を守る為ということ以外、先輩の異常性を説明できるものはない。


 私は中学で知り合う前の先輩ことはなにも知らない。

 だからきっとそこに先輩の異常性を生み出したなにかがあると考えられる。


 ーーだとしたら今の私になにができる? 先輩の過去を知らない私に、自分を壊してまで誰かを守ろうとする先輩になにをしてあげられる?


 そこで私は思い出した。

 私の「大丈夫」という言葉に反応して、一瞬だけども動きを止めた先輩を。


 ーーいや、難しく考える必要なんてないじゃない。 きっと先輩が欲しているものは……。


 そう。 答えは先輩が教えてくれていたんだ。

 

 私がこれからやるべきことは決まりました。

 それと同時に優子さんが私を縛っていたロープを解き終えてくれた。


「よし、やっと解けた! 奈美ちゃん、怖くて辛い思いをしたばかりだろうけど……いける?」


 優子さんは私の前にきて、いつかと同じように私の肩に手を掛けながらいけるかどうか聞いてきました。


「はい! いけます!」

「ごめんね、前にも言ったけど今の圭を助けることは私たちにもできるけど、本当の意味で救ってあげられるのはあなたしかいないと思うの……だから、圭のことよろしく頼むわね!」


 優しい顔をしながらそう言ってくる優子さんに、私は精一杯の笑顔を返しながら、


「任せてください! 先輩のことは私が救ってみせます‼︎」


 以前よりも力強く、覚悟を口にしました。




 ♦︎♦︎♦︎



 なにもわからない。

 思い出すことも、考えることもできない。


 けど、そんな俺に一つだけわかることがある。

 今、俺が左手で首を絞めているこの男が憎い……今生きていることを後悔するぐらい、グチャグチャに捻り潰してやりたい。


 なぜこの男にこんな感情を抱くのかわからない。

 こいつが誰かもわからない。


 ーーでもそんなことはどうでもいい。 とにかくこいつを消してやりたい。


 でもなぜだろう、この場でやりたいとは思わない。

 一体なにに抵抗があるのか。


 ーーまあいいか、どうでもいい。


 俺は左手で男の首を絞めてまま、この部屋に一つだけある扉から外に出る。

 


 小部屋から出た途端、先ほどまで感じていた抵抗が一切なくなった。


 ーーあぁ、ここならいいか。


 俺は掴んでいた男を突き飛ばす。

 突き飛ばされた男はなにか奇声を発しながら机や椅子にぶつかり、地面に倒れ込んだ。

 苦しかったのだろうか、下を向き咽せている。


 そして俺は男に距離を詰めるように、ゆっくりと歩みを進める。


 男が顔を上げ、徐々に距離を詰める俺を確認すると、その顔は恐怖のどん底に陥ったのか酷い顔をしていた。

 その所為で力が入らないのだろうか、プルプルと震えながらゆっくりと後ずさる。

 なにか言おうと口を小さく動かしているが、聞こえない。


 その男を見ていると憎しみが心の底から湧き上がってくる。


 ーーもういいや。


 俺はなぜか血が滴っている右手で拳を作り、男をぶん殴ろうと振りかぶりながら距離を詰める。



 しかし、突き出した拳は男の顔面を捉えることはなかった。


 俺と男の間に割り込んできた、別の人間の手によって受け止められてしまった。


「痛ってぇーー⁉︎」


 俺の拳を受け止めた奴は叫びながら一歩後ろに下がると、左手を上下にヒラヒラと降っている。


「まったく! こんな容赦のないものを顔面に当てようとしてたの?」


 ーーなんだ、こいつ。


「しかも右手から血出てんじゃん! そんな状態で殴ろうなんてお互い洒落にならないと思うよ?」

「…………」


 そんな言葉を無視して、俺は再び拳を作り振りかぶる。


「えぇ⁉︎ ちょっ、待って‼︎」

 


「ッ〜〜〜〜‼︎」


 痛そう顔を歪めているが、またしても受け止められた。

 俺にもう殴らせないよう受け止めた手で、がっしりと俺の右手を掴んでくる。


「ふ、ふざけんなよ基山‼︎ まじで手がヒリヒリして痛いんだぞ‼︎」

「知るかよ。 退けよ」


 俺の邪魔をしてくるこいつをまずは潰そうと、今度は掴まれた手の逆、左手で拳を作り振りかぶる。



「アァ⁉︎ だから痛いっての! まじで容赦なしかよ‼︎」


 そう言いながらも、左手もしっかりと受け止められ、掴んでくる。

 格好だけなら掴み合いのようになる。


「…………邪魔だ。 失せろ」

「ぷぷっ失せろって! 人気少年漫画に出てくる赤い髪しダァァァァッ⁈ いだだだだだっ‼︎」


 掴んでくる手を強引に解こうと、腕の関節を捻ろうとする。

 なぜだろう、無性にイラッとした気がする。


「んギギギギ‼︎ な、なんだよ……普段と変わらない顔もできるんじゃないかよ!」


 無理矢理元の掴み合いの格好に戻される。

 苦しそうにしながらも笑顔を作り、目の前のやつはそんなことを言ってくる。


 こいつが現れてから変に調子が狂う。


 ーー俺はただ、こいつの後ろで腰を抜かし震えている男を潰したいだけなのに。



  その格好のままどれほどの時間が経ったのだろう。


「……なんなんだよお前、いい加減離せよ」

「ばーか、ばーか‼︎ 離すわけないだろ!」


 そんな風に言ってくるこいつにまたイラッとくる。


 ーーこいつは一体なん……。


「ふん、基山が俺のことをどう思っているのか知らないけどね、俺は俺が友達だと思っている奴が腐ろうとしているのを黙って見ていられる程、薄情じゃないんだよ‼︎」

「ーーッ⁈」


 ーー俺とこいつが……秋山が友達。 だからなんだってんだよ、本当に調子が狂う。


 目の前の奴……いや、秋山が現れてからなぜだか俺の心はかき乱されている。

 そんな俺の後ろから2人分の気配を感じる。


「晴人、よく言ったわ! かっこいいわよ!」

「秋山先輩……そんな友達思いの良い人だったんですね!」


 後ろの小部屋から2人が出てきた。


「そんなこと言ってなくていいから、早くなんとかして‼︎ 腕つりそう……」


 秋山がその2人……奈美と本田の方を見ながら情けないことを言っている。


「やっぱかっこ悪……っと、ごめんごめん! さぁ、奈美ちゃん! 行って来なさい!」


「はい! お待たせしました!」



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