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幸せな日常

 


 私は今度こそ固まった覚悟を先輩に伝える為に、授業後に先輩を校門の前で待ち伏せしていました。

 しかし、またしても先輩と会う機会はなかなか巡ってきませんでした。


 先輩のいる教室に向かってもよかったのですが、せっかくなら先輩から拒絶されたこの場所で私の覚悟を宣言してやろうと少し意地になり、毎日校門前で先輩が現れるのを待ち続けました。


 ようやく先輩が姿を見せたのは金曜日になってでした。 このまま休日を迎えなくてよかったと一安心する私の方へ、スマホを見ながら向かってくる先輩は全く私の存在に気付く気配がないです。


「先輩」


 これから真剣に宣戦布告をしようとしている相手に数日間待たさせた挙句、今も気づかず帰ろうとする姿に不満感を出しながら先輩を呼び止めました。


 ####


 先輩に宣戦布告した次の週からさっそく私は積極的に先輩に関わっていこうと考えていました。


 中学校が同じということからもわかるようにお互い家は近い方なので、そのうち一緒に登校してやろうと思っていましたけど、初日から会えるなんてラッキーでした。


 始めは困ったような顔をしながら「話し掛けてくるな」なんて言ってきましたけど、言い方も拒絶の理由も先週と比べて弱くなっていたので、そんな先輩の反応を好機と思った私はその後も積極的に昼ご飯の時に先輩の教室を訪れたり、帰り道に校門で待っていたりしました。

 

 ####


 帰り道の途中に先輩がイタズラっぽく言ってきた、悪質なストーカーがどうのっていう話には少し怖くなりましたが、その人物のおかげで先輩と登下校が出来る理由が生まれたので逆に感謝ですね。



 積極的に先輩に関わっていると、徐々にですけど先輩が心を開いていってくれているのを感じられました。 まだ中学時代ほどではないですけど、それでもこのままいけばいつかは、なんて甘い考えが頭をよぎる程です。


 中学時代の先輩と今の先輩では確かに全然違いますけど、私は先輩の外に恋をしたわけではない。 先輩の中には私が恋する先輩がいることがわかったのだ、いると信じることにしたのだ、だったらそれを信じ突っ走るだけです。


 実際、この一週間で先輩のそういう部分が少しだけど表に出てきている気もします。



 宣戦布告した日からちょうど一週間経ちました。

 今日も先輩と一緒に登校して、校門をくぐると各々下駄箱に向かう為に別れます。


 ーーほんとはもっと一緒に居たいですけど、こればかりは仕方ないですね。


 名残惜しさを感じつつ、教室に入るとクラスのみんなが「おはよう」と挨拶をしてくれます。

 心に余裕を取り戻した私はクラスメイトの子たちとも関わるようになり、友人と呼べる人たちもできました。


 そんな友人たちが私の席に来ようとする前に、いつかの壁こと男子4人が私の元へ来ました。


「原田さん、今日も彼と一緒に登校したって聞いたけど大丈夫だった?」

「やっぱりあの人に関わるのはやめた方がいいよ」


 そんな風に言ってくる彼らに少しイラッとしてしまう。

 先輩はこの学校では不良で通っている。 そんな先輩と一緒にいるようになって、私にも変な噂が流れ始めていることは知っていました。

 友人たちには大雑把にだが、先輩のことを話しているから彼女らは特になにか言ってくることはないが、こうして噂を鵜呑みにした人間が毎日のように「心配だ」「関わるのはやめろ」と言ってきます。


 いちいち気にしても仕方がないと割り切ることにしたとはいえ、やっぱり言われる度に少しイラっときちゃいます。


「大丈夫ですよ。 心配してくれてありがとうございます」


 鞄を自分の机に置き、それだけ彼らに言います。

 そんな私の流すような言葉に1人が顔を暗くし、歯軋りをしながら今まで見たことのないような顔をしていました。

 しかし私はそこまで気にせず、自分の方から友人たちのところへ行ってHRが始まる時間まで友人たちと楽しくお喋りして時間を過ごしました。



 優子さんとは本音をぶつけた日から連絡先も交換して学校外でも仲良くなりました。

 去年一年の先輩のお話しとか聞かせてもらったりで楽しいです。


 そんな優子さんや先輩本人から、今はまだ昼ご飯はクラスで食べろと言われてしまったので今はおとなしく従っています。

 そのおかげもあってクラスの友達との仲も順調に良くなっているので、こういう意味でも言ったのかななんて思ってます。


 ーー優子さんはもちろん、先輩も大概お人好しですからね!


 私のこの一週間は先輩と登校して、下校時間まではクラスの友人たちと過ごし、そして授業が終わると先輩を迎えにいく。

 そんな感じて充実した高校生活になっています。


 今日もそれは変わらず、本日最後の授業の終了をお知らせするチャイムが鳴ると共に、もう待てないと急いで帰宅準備を終え、友人たちに別れの挨拶をして先輩のいる2年生の校舎に向かいました。



 先輩のいる2年5組の教室を覗くと、先輩の姿は見えませんでしだが優子さんと秋山先輩がいました。

 どうしようかと覗いた格好のまま固まっていると、優子さんが私に気付いてくれて、手招きするように笑顔で手を振ってくれました。


「今日も圭のお迎え? 毎日ありがとね! 今度、逆に圭に迎えに行くように言っておくわ」

「いえいえ、私がしたくてここに来ているだけなので大丈夫です!」


 ーー優子さんってやっぱ優しくて綺麗な人だなぁ。


 初めて会った日の酷い姿は一体なんだったのかと、優子さんと会う度に思います。


「いいよなー、俺も可愛い女の子に帰りの迎えとか来て欲しいよ」

「……あはは」

「晴人には縁のない話だもんね」

「うるさいな!」

「まあまあ、秋山先輩にもそのうちいい人が現れますよ!」


 お2人といる時間もすっかり慣れたものです。

 先輩といる時間を除いて、クラスの友人たちといる時間よりもこのお2人といる時間の方が楽しいと思う程です。


「そうだ、先輩はどこいるんですか?」


 お2人といる時間も楽しいですけど、私がここを訪ねた理由は先輩です。

 先輩の机を見ると鞄はあったので、早退したわけではないと思い、お2人に先輩の居場所を聞いてみました。


「あいつ昼飯の時にどっか行ってから帰ってきてないんだよなー」

「えっ?」

「去年もよくあったことだから、どこかで昼寝でもしてるんでしょうね」


 お2人曰く、どこかで午後の授業をサボってまだ帰って来ていないらしいです。


 ーーうーん、どうしようかな。


「まぁ、しばらく待ってたらそのうち帰ってくるとは思うけどねー」

「それか、私と晴人の知ってる圭のサボり場所回ってみる?」


 どうしようか悩んでいるのが顔に出てしまったのだろうか、お2人が提案してくれました。


「そうですね……せっかくなので回ってみようかなって思うんですけど、迷惑じゃないですか?」

「大丈夫よ! 私も晴人も帰宅部だし、この後用事があるわけでもないしね」

「俺も問題ないよー! 今帰ってもゲームするだけだし、こっちの方がなんか楽しそうだし」

「ありがとうございます!」


 そんな風に快く了承してくれるお2人に自然と笑顔になります。

 でもその前にしとかなきゃ……。


「……ただ、その前にお花を摘んできてもいいですか?」


  授業が終わってすぐにここに来た為、後回しにしていました。


「お花を摘む? 外に行くの?」

「はいはい、そんなテンプレなボケはいらないから。 ここで待っててあげるから早く行って来なさい」

「すみません、行ってきます」


 秋山先輩はやっぱり失礼な人です。 優子さんに秋山先輩の相手を任せて、トイレへ向かいました。



 金曜の授業後ということもあってか、部活や遊びに行く人が多い為、2年生の校舎はすでに閑散としていました。

 

 ーー先輩どこいるんだろうな、授業サボっちゃダメですよって今度注意しなきゃ!


 そんなこと考えながらお手洗いを済ませ廊下に出た私を待っていたのは……急な襲撃でした。


 羽交い締めにされ、口元に変な匂いのするハンカチを押し付けられる。


「んッ⁉︎ んー‼︎」


 抵抗しようと暴れるが、襲撃者の力が強すぎて意味がない。

 ハンカチで口を塞がれてしまっている為、大声を上げることもできず、閑散としたこの校舎に残った数少ない人たちにも気付いてもらえない。


 ーー助けて……先輩……。


 徐々に薄れていく意識の中で、先輩に助けを求めながら……


 私の意識はなくなった。



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