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終わりへのカウントダウン1

よろしくお願いします!

 

 俺は逃げ続けている。


 一体なにから? ーーわからない。


 わからなくていい。 いや、きっとわからない方がいいんだ。 だから俺はただ逃げ続ける。


 "過去"からも、"未来"からも、そして"今"も……。




「先輩っ‼︎」


 高校二年生の春、一体どんな運命か俺は少女と再会する。


 だからどうした。 俺は逃げなくてはいけないんだ。



 ーー逃げ続けないと俺は……。





 ♦︎♦︎♦︎



「………さ…」


 闇の中を彷徨っている俺に、闇の外から誰かが話し掛けて来る。


「おき……い!」


 少しだけ声が大きくなったのか、先ほどよりも声が聞き取れた気がする。それに合わせて俺の意識も少しだけ覚醒に近づく。


 けど、今いる闇から抜け出す気はない。抜けたところで待っているのはさらに深い闇しかないのだから……。



 再び闇の中へと落ちていった俺を待っていたのは、なにもない完全な闇の空間ではなかった。

 足元には緑色の地面、周りには俺を取り囲むように背丈の変わらない何人かの人、そして彼らの奥にあるサッカーゴールを見たことでここがどこかを理解した。


 ーーそうか……あの時の。


 中学生時代のサッカー全国大会の試合会場である。

 俺の所属する部活は、今年初めて全国という舞台にまで勝ち上がった。

 これはその夢の舞台の初戦が始まる直前の光景。


 俺が過去に体験したものを再現した夢だった。


 ーーあぁ、またか。


 この夢を見るのは今に始まったことではない。

 あの日から何度も何度も同じ夢を見ている。


 だからこの後、俺に襲い掛かってくる展開は知っている。

 耳を塞ぎ、心を塞ぎ……俺はそれを待つ。


『ふざ…んな!』

『これだ…から……い…ロ…わ!』

『…めーのそう…う………』


 これは夢だ。 だからそんな俺の抵抗はあまり意味をなさない。

 ただ聞こえないフリをしているだけだ。

 周りの人間が怒気を孕みながら口々に言ってくる。


 ーーもういいだろ。 俺の過去はもう終わったんだ。


 こんな夢はもうやめてくれと思えば思うほど、俺の意識は目を覚ましていく。


『…前の……で俺たちの…が………だぞ!』

『おい‼︎ 聞い…ん…かよ‼︎』

『…ってすむと思ってん…かよ!』

「起き…さい! ………君‼︎」


 ーーうるさい。 あの時の俺はもういないんだ。


 意識が覚めていくことで、そんな彼らの声が大きく、そしてハッキリと聞こえるようになっていく。


『てめぇ‼︎き……‼︎』

『…山‼︎』

「基山君‼︎」


 彼らは痺れを切らしたように俺の名前を呼んでくる。


  ーーあぁ結局こうなるのかよ。 はは、わかったよ……。


 この夢の中ではどうあがいても避けることのできない、この後に起こる運命に諦める。

 そんな諦めを感じている俺の前に、まだ突起のすり減っていないスパイクを手に持ったチームメイトがやってきた。


 ーーそうだよな。 これは俺が逃げることができなかったことへの罰だ……そういえば、当時俺を君付けで呼ぶ人間なんかいたかな……。


 最後にはそんなどうでもいいことを考える俺に、目の前の男は酷い形相でスパイクを振りかぶる。



『死ね‼︎ 基山‼︎』

「起きなさい‼ ︎基山君‼︎」




 しかし、俺を襲ったのはスパイクの刃による肩への鋭い痛みではなく、丸めた教科書による頭への軽い殴打だった。


 悪夢から目を覚まし、顔を上げるとこれでもかと思うほど頬を膨らませた先生が立っていた。

 変顔か? いや、怒っているのだろう。


「基山君? 何かいうことはありませんか?」



 ♦︎♦︎♦︎


 俺の名前は基山圭。明郷高校に通う二年生だ。

 明郷高校の生徒の多くは基本優等生である。 真面目に授業を受け、授業後は部活で汗水を流し、仲の良い友人たちと楽しく学生生活を謳歌している者がほとんどだ。


 しかし俺はその基本から外れ、授業をサボったりや遅刻も頻繁にしたりと明郷高校の生徒には珍しく不真面目な生徒だった。

 去年の夏頃だったか、学校の外で他校の生徒と喧嘩していたところを同級生に見られていたことで、俺はいつからか不良というレッテルが貼られていた。


 世間一般で言われるような不良とまではいかないと俺自身は思っているが、優等生の多いこの学校では浮いた存在であることは間違いなかった。なりよりこの不良というレッテルのおかげで周りと一線引けている今のこの状態の方が俺にとっては都合がいい為、特に否定をすることはしていない。


 今日も家で昼飯を食べた後、昼休み中に登校し、春の心地良い暖かさに身を任せて五限目の授業で居眠りをしていたところだったのだが……。

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