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71話・ささやかな平穏

GWは楽しく過ごされましたでしょうか?

私は、原稿と睨みあいの連休でした。が、どうにか終わらせ、あとは細々とした作業が残るだけとなりました。

やっと再開です。お待たせしました。

 今、私はあの古城の宿に再び滞在している。

 依頼を完遂して重責が消え、私を付け狙う暗殺者は目の前で捕縛され、ようやくすべてが終わったんだと実感した途端、極度の緊張と恐怖から解き放たれた私は、気力すら失い動けなくなってしまった。

 手指は痺れて強張り、へっぴり腰で無理やり立てば脚は生まれたての仔馬並みにぷるぷる震える始末。結果、あまりにも情けない醜態を晒して最後を〆ることとなった。

 ラグールを待機させていた場所までの道程は、またもや羞恥と屈辱に耐えるだけの時間になった、とだけしか言えない。言いたくないっ!

 とりあえず私とエマさんは先に下山して、ゆっくりできる古城宿で休養を取りながら、高級魔道車の持ち主であるギルを待つに至った。


 あの後、『光の魔法士』ことシルビオ・バルロイは魔力枯渇で昏倒し、意識不明のまま捕縛された。

 魔力封じの術式が編み込まれた枷で手足を拘束した上で、魔道鑑定具で身上調査を施され、氏名や年齢、国籍や出身地から犯罪歴の有無まで明かされた。


「異名持ちであろうと魔力枯渇に陥っていては、鑑定具(こいつ)の目をごまかすことはできない。当分は、このままでいてもらおう」


 『漆黒の魔法士』ギルバート・カークベルのスキル【異界封印】には、捕らえた対象の自由を奪うだけじゃなく、なんと体内魔力まで吸い取るという怖ろしい効果まであるのだという。あの黒い湧き水のようなモノにわずかでも触れたら、もう逃れることはできないのだとか。

 無表情で説明するギルを見て、私とエマさんは思わず抱きあって震えた。

 生き残った多数の帝国兵たちの処遇は、さすがにギルたち特殊部隊員だけで護送するのは無理と判断し、通信機を使ってカルミア軍に応援を要請した。

 アーデルベルト側は『光の魔法士』を確保できればいいだけで、後は領土侵犯されたカルミアが判断することだ。応援とはいえ、実情は犯罪者の引き渡しとなる。

 カルミア軍到着までは、山中の里でギルの指揮の下ほとんどの部隊員が残って捕虜の監視をし、私とエマさんはなぜかローデン副隊長さんに護衛されて、古城宿に戻った。

 ファミーナさんかジャル・ロウのほうが良かったのに……。

 

「体を休めろって言われてるのに、なんで仕事しちゃってんだ? 嬢ちゃんは」


 宝箱のような薬草園の隅の作業台で、無心に希少な薬草たちと格闘していた私に、いきなり軽薄な物言いで声がかけられた。

 危険な任務は終ったってのに、なんで気配を隠して接近してくるのか。心配しているふうを装いつつも笑いを含む口調に、私の機嫌はいっきに下降した。


「薬草を使い切ってしまったんで、わけていただいてるんです。だから、効能が落ちない内に下処理しようかと……」


 副隊長さんの問いかけに、手を休めることなく答える。

 真っ当に相手をすると、獲物がかかったとばかりに嬉々として揶揄いはじめる。仕事以外で相手にしてはいけないと思い知った。

 洗ったばかりの薬草を乾燥させる物と新鮮な内に練り上げる物に分け、【洗浄滅菌】された瓶に保存する作業は、できるときにすこしでも進めておかないと必要に迫られた時に対処の遅れとなる。

 なんだかんだと悩みながらも、やっぱり私は薬師を辞められない。

 丸い底をした薬剤瓶に両手を添えてゆっくりと魔力を送り、様子を確かめながら【乾燥加工】をしていると、手元に影が落ちた。


「まだ……何か?」

「カークベル隊長の変わり様は……何が原因だ? 行方不明の間に、何があった?」


 危険は去り、もう護衛なんて必要ないのに副隊長さんが私に付いてきた理由は、たぶんギルのことだろうと見当はついていた。


「ローデン副隊長さんから見ても、ギル……カークベル隊長は変わってますか?」

「ありゃ、俺の知ってる隊長じゃねぇな。前々から何かが足りない奴だと思ってたが、今はごっそり中身が別人に入れ替わったように感じる」

「嫌な感じで?」

「いや……。良いか悪いかで言えば良い変化だと思うが、違和感が半端ねぇ」

「良い変化なら、いいじゃないですかー」

「揶揄い甲斐がなくて、つまんねぇだろうが!」


 本音はそこかぁ。さすがはギルの片腕、曲者(クセモノ)副隊長さん。

 私はフンッと鼻息荒く頭上の男を見上げ、わざと悪辣な笑みを見せた。


「あれは、今まで封印されていたギルバート・カークベルの真実の姿です。副隊長さんには謝っておきます。すみません。私が封印を壊してしまいました。これからは、ギルに弄られてください」

「なんだ、そりゃ?」

「詳しいことは本人からどーぞ」


 私が弱いながらも頑固と知っている副隊長さんは、舌打ちをすると本館へと消えた。

 静けさの戻った薬草園を眺め、嘆息する。

 以前のギルは、どこか歪な感じがした。

 特殊部隊の隊長に選ばれるくらいだから、優秀であり戦闘能力も抜群だったのだろう。実際に若いながらも部下から信頼されて、波乱もあったらしいけれど付き従ってくれる部下たちがいる。

 でも、彼自身はずっと自分を半端な人間だと思っていたようだ。原因は、言わずと知れたあの火傷の痕だ。

 親に疎まれ虐待を受け、挙句に捨てられる。その原因がどうも火傷の下に隠された何かだと気づいた時、親に捨てられても仕方がない生まれなのだと納得してしまったらしい。

 その記憶と経験が、彼の心の底に歪な憂いを焼きつけた。


「それも、暴いてみれば親心の一端だったって判ったんだけどね……」


 『漆黒の魔法士』はフェルデの一族の中からしか生まれないのだそうだ。ということは、ギルの両親はトゥーリオの守護一族の血を引く――となれば、ギルもその血族ってことになる。

 すでに滅んだ亡国の影。どうしたいきさつがあってトゥーリオの民の影となったのか知らないけれど、『漆黒の』能力は異質過ぎる。


「あれを表に出しちゃいけないって、ギルの親は考えちゃったんだろうね……」


 だからといって物事の判断もつかない幼子に、あの行為はやりすぎだと思う。恨まれてもいいから、とにかく封じてしまいたかったのだろうけれど。


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