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51話・影からの逃亡 1

新年明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

「そろそろ移動しないと、敵の目をくらますことも限界かもしれん。それに……」

「食材もすっからかん、だしね!」


 私とギルは、結局三日間をこの岩穴の中で過ごした。主な理由はギルの体調回復と怪我の治療だったけれど、私たちを捜す敵や味方の動向を探るためでもあった。

 川に落ちた私たちの捜索は、当然川沿いを下流に向かって行われるだろう。遺体が見つからなければ、逃亡の痕跡を求めて岸辺の検証だ。その跡を辿って、本格的な捜索が始まることは予想がつく。

 そこを私たちは狙っていた。この隠れ家は、簡単には目につかない高い場所にあるし、魔力探査の障害になる魔草で目隠しをしてある。捜索する者の頭上から彼等の動向を見極め、しばらく身を潜めていようと相談の上で決めたのだった。

 外を警戒しながら、私たちはいろいろなことを話し合った。

 ロイの突然の異変は? 『光の魔法士』による【精神操作】だとして、それならなぜ私を放りだしたのか。

 ロープでぐるぐる巻きにした非戦闘員の私が、そんな状態のまま川の中に放り込まれれば十中八九溺死していただろう。ギルが一緒に飛び込んで護ってくれたから、私は生きていられた。

 だからって、ギルの助けを狙ってとは思えない。あの時のロイは、本心から私に危害を加えようと――殺気をぶつけてきた。


「精神的抑圧が最悪な方向に出たんだろう」

「抑圧?」

「光の異名持ちからの暗示と隊長(俺の)命令が、奴の中でぶつかりあった末に……」

「矛盾した命令に拒絶反応がでたってこと?」


 あの瞬間、ロイは自分に向けられる命令に抗っていた。その一番の目的である『私』を投げ捨てることによって、彼はふたつの矛盾する強制に抵抗したんだ。


「俺も身に染みている……。あれはどうしようもない。罪は償わせるつもりだが、恨まないでやってくれ」

「……再会できた時の、彼の態度による……かな? 彼に憎まれる理由はないと思うから【精神操作】が原因でと納得するけど、そんな敵を相手にしてるって判ってながら結局は術に嵌っちゃってる未熟さは反省してもらわないと」

「ああ。それは奴だけじゃなく、俺たち全員がだな。特殊部隊員(プロ)として、不甲斐ない結果だ」


 立てた膝に頬杖をついて呟くギルに、私はふっと笑った。


「でも、私は恨みはしないと思うわ。ギルたちが護衛を買って出てくれたから、私はこうして依頼を遂行していられるんだもん。ひとりだったら、すでに敵に掴まってるだろうしね」


 命はあっても檻に閉じ込められている。きっと。

 母が身重の体で海を渡って逃げてきたくらいだもの。それだけで、扱いは知れたもの。

 重い話題は私たちの口までも重くし、お互い考えの中に沈んだ。その間、交代で短い睡眠を取って体を休め、わずかな食事を口にする。

 ただただ、敵に発見されないようにと祈りながら。

 願いは神様に通じたのか、敵味方どちらも現れることなく時間は流れ、食材も底を突いたし体力がある内に移動しようということになった。

 ギルの容態も肋骨は完全にくっついてはいないが、肩の腫れや体力は戻った。中毒にならない程度に痛み止めを処方しながら、遠回りでもいいから無理のかからない道を探して森に分け入った。

 私たちが流れ着いたのが向こう岸だったこともあり、川を渡る苦労をせずにすんだのは不幸中の幸いだ。

 山中であれば、食べられる物を手に入れるかもしれない。寒さから植物は期待できないが、餌を探す小動物が見つかるかも。


「方角は間違いないが、跡地のどの辺りにぶつかるか分からない……」


 旅の予定では、吊り橋を渡り終えてからはエマさんの道案内で進むはずだった。護衛たちは、打ち合わせの際に地図上でこの辺りだとエマさんから教えられていたが、地形が不確かな紙の上ことだけに方向だけを頭に入れていたようだった。


「跡地に至る道は二ヶ所だけって言ってたよね?」

「ああ。他は断崖絶壁。だから、小さな国ながらも難攻不落だったという話だ」

「なら、ぶつかった先が崖下って確率のほうが大きいのねぇ」


 小国といえど、周辺の国々と比べて小さいってだけで、村落程度の規模なわけじゃない。崖沿いをぐるりと回れば出入口がなんて簡単なものではなく、何日も歩かなければならない距離だ。それも山中を。

 最悪の場合、辿った先が渓流や谷底で分断されてしまっていることだって考えられる。土地勘も地図もない山中を進むというのは、一歩先に死が口を開いて待っているのと同じだった。


「ねぇ、ギル」

「なんだ?」

「ギルは魔法使いじゃないの?」


 できるだけ歩きやすいよう短い下草の場所だけを辿って進む。丈が長い藪に入ってしまうと、方向を見失って抜け出すのに一苦労する。

 それと、日が暮れない内に野営できる場所を探しつつ、鳥や地を走る小獣を狩る。

 ギルの投げた小石が、まるで矢のような速度で空を切ると丸々とした鳥の頭を弾いた。


「俺が使える魔法は、すこし特殊なんだ。ゼフのように魔力を攻撃魔法に変えることはできないが、防具のように身体に纏わせて強化したり具現化したりする」

「魔力そのものを……強化と防御特化?」

「単純に区分すれば、そうなるな」

「だから、剣使いなのね」

「リンカにも見せたが、魔力障壁を盾にして剣を魔力で強化して敵を屠る。この手で掴んでいる物なら、大抵の物は武器になる」

「……ほんと、特殊ねぇ」


 防御魔法のスキルは、ほとんどの属性スキルの中に含まれている。それぞれの属性を凝縮固定したり高速回転させることで攻撃を受けとめたり躱したりする。光属性にも結界という高位スキルがあるが、人ではなくて場所に打つ術なため戦闘向けスキルじゃない。

 しかし、肉体を強化するような魔法はない。

 存在するのは、薬師が作る薬か錬金スキル持ちが描く魔法陣を使った短時間の肉体改造術だけだ。

 自らの魔力をそのまま盾にしたり肉体強化の材料にするなんて、そんな術は聞いたことがない。


「まあ、そのおかげで、孤児の俺が特殊部隊に所属していられるんだがな」

「え? ギルも孤児だったの?」


 初めて聞いた告白に、私は思わず足を止めた。

 特殊部隊どころか、軍の将校(エリート)の地位にあるギルが、まさか孤児だったとは。


「それも、身元不明の孤児だ」

「ええ!?」


 孤児になるにも、さまざまな事情がある。

 望まない子供を捨てる親もいれば、旅先で魔獣に襲われて子供だけが残される場合など、身元がわからず引き取り手のない子供は孤児として扱われる。上流階級の者でも何かしらの原因で肉親を喪い、親族から見放されてしまえば孤児扱いだ。

 ただし、経歴を持つ者なら将来への道はある。政治家や軍人などを目指す人々の中にも天涯孤独な人はいる。

 反して、身元不明のまま育った者たちは、どんなに才があっても要職にはつけない。見えない経歴の向こうに、どんな縁やしがらみを持つか判断できないからだ。

 だから、ギルの立場に私は驚いた。


「俺は、俺自身ですら判らない謎の男なんだよ」


 彼の格好をつけた物言いには、欠片も暗さはなかった。


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