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35話・嬉しい再会

ごめんなさい。胃腸風邪を引いてるのに気づかず、ヒカリものを食べちゃって大変な状況に。

まだ体調が戻らず、すこし飛び飛びの更新になります。

好きなのに。ヒカリモノ。サンマの握りが美味しかったのに……蕁麻疹コワイ(´;ω;`)ウゥゥ

「ファミーナさん!」

「リンカ~」


 陽も暮れ落ちた一級宿の一室で、もう縁は切れたと思っていた人と再会した。

私が両腕を差し出しながら駆け寄ると、彼女も私を胸の中に抱きしめてくれた。

 ヒューと小気味よい冷やかしの口笛と笑い声が、私とファミーナさんに投げられる。

 広い部屋の中を見回せば、あちこちに思い思いの格好で寛ぐ五人の男たち。髪も目も肌もさまざまな色合いだけれど、ただひとつ全員に共通しているのは、長身で鍛えられた体躯をしていた。

 私を抱き留めたファミーナさんは女性だけど、衣類越しの弾力は張りがある。なのに、ちゃんと色気のある女性に見える不思議。

 ギル以外に、馴染みある人の気配に出発から続いていた緊張がゆるゆると解けていく。

 

 ギルと私とエマーシェさんの三人は、予定通りに日没近くに宿へと到着した。途中で小さな町の食堂に寄って休憩を取ったきり、ずっと魔道車を走らせてきたのだ。

 馬車とは違って揺れない魔道車はお尻が痛くなったりせずに快適だったけれど、長時間の運転を任されていたギルはさすがに疲労が見えた。それだけに、何ごともなく予定通りに宿に着いた時は私もエマーシェさんも顔を見あわせてほっとした。

 次は、ギルの部下たちとの顔合わせに、また緊張する。男性だけだと思っていたから不安に顔を強張らせて入った部屋で、見知った顔を見つけた時の嬉しさと言ったら……。


「ギルとは別の部隊だって聞いてたから、もう会うことはないと思ってたんですよ」

「女の子の護衛だからね。率先して立候補したのよぅ」

「いろいろとお世話掛けると思いますが、よろしくお願いします」

「まかせといてぇ。私が主にリンカの側にいる役目だから、非常時は確実に従ってねぇ~」


 私的時間になると甘ったるい語尾になるファミーナの柔らかい声に、肩からふっと力が抜けた。

 ここは安全なんだって安心感が、体内から余計な力みを払い落としてゆく。

 ファミーナが私を胸に抱いたまま、隣に立つエマーシェさんに顔だけくるりと向ける。


「で、こちらは?」

「エマーシェと申します。リカルド陛下よりリンカさんの案内兼護衛を仰せつかり、同行してまいりました」

「女性護衛がもうひとり欲しかったからよかったわ。私はファミーナよ。よろしく」

「こちらこそ、足手まといにならぬよう精一杯努めさせていただきます」


 ファミーナさんがいてくれて、本当に良かった。

 本音を言えば、今朝会ったばかりのエマーシェさんを信用するには彼女に関する情報がすくなく、ずっとふたりきりになるのは心許なかったのだ。

 リカルド国王のご推薦であっても、私にとっては『見知らぬ誰か』でしかないない。信頼に足りるかどうか、まだ一日しか過ごしていないから判断がつかないでいる。確信が持てるまで油断は禁物だ。

 気さくな人柄であっても、彼女の主は大国の王なのだから。


 私たち女三人がそれぞれ和やかに挨拶を交わしている後ろで、ギルが難しい顔をして部下のひとりを睨み据えていた。

 立ったまま腕を組んで見下ろすギルの前に、赤銅色の緩い巻き毛の髪を掻き上げながら横柄は姿勢で一人用のソファに座ってニヤついている。

 どっちが隊長かわからないような態度に、この男はきっと凄く癖のある性格をしていると感じた。

 ギルが不機嫌になっている原因は、私の護衛とは違う任務に就いているはずの部下がここにいるかららしい。


「ゼファード・ローデン副隊長。お前は要人護送の任務でアーデルベルトへ帰国したはずだが?」

「こっちのほうが面白そうなんで、ランダと交代した」


 低く鋭いギルの問いが、副隊長と呼ばれた部下にぴしりと投げられる。なのに、相手はどこ吹く風といった態で嫌な薄笑いを止めない。


「なんだか、悪戯好きな猫みたいな人ですね……」


 私がファミーナさんの腕の隙間からちらちらと見て、ぼそっと零した呟きに小さな笑いが起こる。

 目をやると、ファミーナさんとエマーシェさんが口元を押さえて笑っていた。


「猫にしては大きすぎるけどね~。でも、当たってるぅ。あいつはね、口を開くと辛辣だから側に寄っちゃだめよ~」

「はーい」


 隊長と副隊長の言い合いはいつものことなのか、慣れた様子の他の部下たちがわざわざ立ってこちらに集まってきた。

 そして、私とエマーシェさんに自己紹介してくれる。

 薄青の長い髪をした優男ふうのロイ・グランフォーク。真っ白な短髪に紫紺の瞳の強面巨躯のジャル・ロウ。私より真っ黒な髪で顔の半分を隠して灰褐色の細い目をしたエリク。隊の中でいちばん小柄な真っ赤な髪にそばかす面の童顔ローレン。

 最後に私がおずおずと自己紹介を返してお願いしますと言うと、彼らはいっせいに「女の子だー! 女の子の護衛だ―」と騒ぎ出した。

 うわーと内心で怯えた私に気づいたのか、ファミーナさんがすぐに「黙れ!」と一括して軽く蹴りの制裁を加えてた。


「基本態勢は、ファミとエマーシェがリンカに密着護衛。そのそばに俺とジャルが交代でつく。後は先行と斥候だ」


 副隊長との剣呑な話し合いでどうにか妥協案を見出したギルは、私を含めた全員に明日からの担当を指示した。

 なんと明日からはギルの高級魔道車ではなく軍用魔道車に乗りかえての行動になり、もっと先に進んでからは騎乗になると聞いた。


「馬……?」


 馬になんて乗ったことない私が顔色を変えると、ギルは首を横に振る。


「いや、ラグールだ」


 ラグール……馬より小さいけれど敏捷で気の荒い草食四つ足。行商人が人や荷物を載せて使うと聞かされてるけれど、実際に見たことはない。


「お、落ちないように努力……します」


 私には、そう応えるしかなかった。

 ば、馬車はどこへ消えたの!?


  

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