28話・シーラの罪 2
「――というわけで我々は、シーラを中心とした容疑者たちを一纏めにしてこの旅に送り出した。あの女を煽れば、必ず馬鹿なことを仕出かすはずだと計画し、リカルド国王に協力を要請して一計を案じた」
ギルバートはそう纏めると、ちらりとシェルク様に視線を送ってから私を見た。
せっかく美味しい食事で心身を満たしたってのに、私はげんなりの極致にいた。
「つまり、アーデルベルト国内じゃ彼らの背後関係もあって一網打尽にできないし、確実な証拠もないのでシーラ自体も罪に問えない。だからカルミア王国側に協力を要請して、国外で事件を起こすよう誘導。それが、さっきの騒動ってことですか……」
「正解。さすがは『翠の魔女』だ」
「そんなこと、異名には無関係じゃないで……あっ、もしかしてリカルド国王の依頼に関する情報漏洩も罠ですか!?」
「あれは違う……が、都合がいいのでわざと見逃し、使わせてもらった」
「酷い! カルミア王国側もってまさか、シェルク様も知ってたとか!?」
私は眉を吊り上げ怒り心頭で、ぐりんとシェルク様に顔を向けた。
『星の魔法士』様はすかさず目を逸らし、座り心地の良い一人用の椅子に怠惰な姿勢で寄りかかった。
答えはその態度で十分だ。
何が身内同然だってーの。幻影で私に依頼を届けた時点で、すでにこの計画は動き出してたってことでしょう?
シェルク様を十分に睨みつけ、またギルバートに視線を戻した。
「信じられない……。私が依頼を断っていたら、どうなってたんです?」
「その時は、リンカなしでシーラを焚きつける予定だった」
軽く答えるギルバートに、もやっとする。
ああ、そういうこと!
『星の魔法士』から『翠の魔女』に仕事依頼が来たけれど断ったらしい、なんて保護局内に噂を流せば、買収されていた局員経由ですぐにシーラの耳に入って即釣れただろう。
異常なほど自己顕示欲が強い彼女のこと。偉大な異名持ちと異国の王様相手となったら、目の色を――もう変わってたわね。
「裏でそんな計画が進行してるなんて知らないで、私はアーデルベルトから逃げられるって内心喜んでて……ばっかみたい」
なぜ、いろいろなことが私に絡んでくるのかと思っていたら、真相はシーラとその一味捕縛のための囮だったわけだ。
「ただ、これだけは告げておく。リンカが俺を診察するためにロベルト経由で呼ばれたことや暴行事件は、この計画とは無関係だ。あれは、純粋に任務失敗による負傷であり、同僚が俺を心配して『翠の魔女』の話を出しただけなんだ」
「それは、『翠の魔女』が殴られた件は計画に責任はないって言いたいの?」
あー……だんだん腹が立ってきた。
解るわよ。ギルバートが言いたいことは。
暴行事件は計画されたことではない。偶然起こった事件で、誰も対処しようがなかったって言いたいんでしょうね。
でも、そんな話をしたって、今の私は素直に受け入れられない。
鼻に皺を寄せて怒り顔でギルバートを睨む。
途端にギルバートは顔色を変えた。
「違う。リンカがヤツに殴られたのは、俺が油断していらん怪我を負ったせいだ。その件も正体不明の暗殺集団に狙われたことも……ロベルトが死んだのも、すべて俺の失態だ」
最後は、無念の吐息となって呟きは消えた。
ギルバートの長身で逞しい体が、なんだか一回り小さくなったような気がする。
そうよねぇ、いくらロベルトが酷い人間だったとしても、死んでいいいわけじゃない。生きていてこそ罪を償えるんだもん。ギルバートだって、そう思うから、ロベルトの死に無念を覚えるんだろう。
駄目だなぁ、私って。人の弱いところを見せられると、すぐに絆される。そして、自分が理不尽な怒りを相手にぶつけてるって気づいたり。
どこをどう思い出しても、私の行動に政府側は横槍を入れたりしていない。意識不明のギルバートを診察したのも、リカルド国王の依頼を受けたのも、すべて私の意思だ。
だから、私の怒りは本来ならロベルトと保護局にぶつけるべきものなのよね。
「ごめんなさい……ちょっと八つ当たりしてしまいました。なんだか悔しくて……」
「いや、俺のほうこそ、もっと話しの持って行き方を考えるべきだった。目の前で起こった騒ぎだ。賢明なリンカのことだから、気に病むと思っていたし、話しておくなら誤魔化しはしないでおこうと……」
「納得はできませんが、理解しました。いろいろ可笑しいと思ってましたし、まったく無関係でもなかったですから。……それで、シーラはどうなるんですか?」
とりあえず、最後にいちばん気になっていたことを尋ねた。
すると、シェルク様が眉間を寄せて私を見る。
「リンカ、要らぬ情けをかけるものではないよ」
「わかってますが、でも幼い頃から親に――」
「いいや、わかっていないね。いまだ幼いならいざ知らず、現在の彼女は君より年上だよ。洗脳や傀儡の術がかけられているなら酌量の余地もあるが、偽装に詐欺、常識外れな態度の末に他国の王族を手にかけようとした。到底許されることではないよ。この国の平民が犯したならば、即座に死刑だ」
シェルク様の厳しい声が告げた死刑の二文字は、私の弱い心を脅かした。
「……彼女は、この国で罪を犯した。複数の人間がいる中での犯行だ。言い逃れはできないし、一般人の犯罪はその国の法によって裁かれる。シーラは渡航の際に自ら宣誓書に印を押した。知らなかった理解していなかったでは済まされん」
「……はい」
外国へ渡る際に、出入国窓口でさまざまな条件が並んだ宣誓書に印を押す。その中に、渡航先で犯罪行為をした場合は現場となった国の法令に準ずると記載されている。印を押した段階で、その条件を了承したとされるのだ。
シーラが理解していたと思えないけれど、自ら印を押したのなら逃げ道はない。
そして、彼女を憐れむのは、傲慢な自惚れでしかない。酔いの回った私は、すこし感情的になりかけていた。
まだ疑問はたくさんあったが、冷静に話をきけそうにないと判断して、その夜はふたりより先に寝室に下がった。
ベッドに入っても、すぐには眠れないと知りながら。




