表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/87

23話・過去の遺産 最悪の未来 1

 カルミア王国の王都フィレーレは広い領土の中央に位置した、珍しい造りをしている都だ。

 湖の中州に王城が建ち、湖畔に沿って貴族街、商人街、平民街とぐるりと三層に階級分けされ、外側へ向かって扇状に広がっている。

 城の背後は湖を挟んで黒々とした針葉樹の森が続き、王家所有の離宮や王族の小城、高位貴族の別邸などが散在している。

 その中にシェルク様の邸宅はあり、私たちを乗せた馬車は森を抜けて南外門から貴族街に入り、湖上に長々と横たわる石橋を渡って中州の城門を潜ると、堅牢な石造りの王城に到着した。

 城内に通されても私は終始圧倒されっぱなしで、必死にシェルク様の後について行くばかりだった。

 私たちを案内するのは国王直属のふたりの近衛騎士で、城勤めをする使用人さんたちがすらーっと並んでお出迎え、なんぞという光景を想像していただけに、ちょっと拍子抜けしたのは内緒だ。

 されたいか? と尋ねられても、目一杯首を横に振るけどね。


 いくつもの角を曲がり、王城奥と思わしき長い通路を歩き、細い階段を上った先に続く回廊を渡り、ようやく目的の部屋に到着した。

 国王と会見となれば、それなりの部屋だろうと思っていたが、通されたのはとても落ち着いた客間だった。

 あまり広いとはいえない古風な内装の一室だが、艶やかな飴色の壁や繊細な装飾をほどこされた調度品が、時を遡ったような錯覚を感じさせる。

 シェルク様に勧められた長椅子に座り、ほぅと吐息を漏らす。

 視界に映る何もかもが興味深く、できることなら自分の手で触れて時代の優雅さを確かめたくなる。

 うっとりと室内装飾を眺めて堪能していると、いきなり扉が開けられた。

 向かいに座るシェルク様が優雅な所作ですっと立ち、扉に向かって膝を折る。それを見て私も慌てて席を立つと、ドレスの両端を摘まんで同じように深く腰を折った。

 国王リカルド様のお出ましだ。

 

「余計な礼儀など無用だ。頭を上げて座れ」


 微かに笑いを含んだ壮年の力強い声が、頭上から降ってくる。

 私はその耳触りの良い低音の美声に引き寄せられ、思わず顔を上げて仰ぎ見た。

 黒一色で纏められ飾りの一切を排した衣装の偉丈夫が、煩わしげに手を払いながら入ってくるなり上座にどかりと腰を下ろした。

 私とシェルク様は言われるままに立ち、もう一度跪礼して長椅子に戻った。

 

「『翠の魔女』殿、よく来てくれた。あやふやな依頼に応えてくれて、感謝する」


 黄金色の無造作な髪と金環の黒と金の瞳を持つ王は、驚くほど気さくな物言いをする方だった。服装といい口調といい、もしかして影武者なんじゃないかと疑ったくらい、善い意味で王の規格から外れた人間性だ。

 しかし、その双眸を見詰め返すと、怜悧な輝きと共に底知れない何かが潜んでいそう。

 経験のすくない小娘の私では、軽く手のひらで転がされ放られて終わりだろう。


「お初にお目にかかります。アーデルベルトより参りました、リンカ・レンショウと申します。こちらこそ、ご依頼くださり感謝いたします」

「儂はリカルド。国王などと呼ばれておるが、今回は個人的な依頼だ。改まった態度なしに付き合ってくれ」


 リカルド様は気さくな口調で告げると、大きな手を私に差し出した。

 握手の習慣もあるのとか内心で驚きながら、その手を握り返す。私の貧弱な手はすっぽりと包まれ、王の手からさまざまな人生が伝わってきた。

 いまだ剣を握る現役戦士の手だ。戦場はなくなっても己を鍛え続け、進んで城の外に出て働いている様子が伺えた。


「『星の魔法士』様から聞きおよびかと思いますが、まだまだ未熟者ございます。リカルド様に、ご納得していただける結果を出せますかどうかわかりませんが、精一杯務めさせていただきます」


 ちくりと昨日の『試し』を含んで返し、それでもできることはすると誓った。

 こうなると、もう私自身の矜持を賭けるしかない。


「ふははっ……さすがは『月の魔女』の養い子。十分に度胸が据わっておるな。重畳重畳。期待させていただこう。では、早々に。――シェルク!」


 リカルド様の一声で、それまで沈黙していたシェルク様は立ち上がると、飾り棚の中から小鳥の置物を取ってテーブルの上に置いた。

 途端にまわりを薄い魔力が走る。

 これは間諜対策の魔道具らしい。傍聴と迷彩の術式が部屋全体を包んだ。


「まず、始めに伝えておきたい。シェルクが見せた小箱だが、あれは我が息子が平民街の市場で偶然入手した。店主は、どこかの遺跡から発掘された鉱石の見本箱だろうと言っていたそうで、息子もそのつもりでいた。しかし、『翠の魔女』殿は禁忌の小箱と申したそうだが?」

「養い親『月の魔女』ロンドから、幼少の頃に教えられました。なぜ異名とは無関係な知識を持っているのか不思議でしたが、私の異名に関連する知識だからと……それと、私の血族にも」

「ふむ。となると、やはり『翠の魔女』殿は今は亡きトゥーリオ皇国の民か?」

「断言できませんが、母と私の容姿からトゥーリオ民族だろうと。なにしろ母は私を孕んだ身重の体で、ロンドに拾われたという話です。持ち物も少ない小銭と着替え、幾ばくかの宝石と鉱石のみだったらしく、身元の分かる品はまったく持っていなかったとか」


 私は訊かれていない自分の身の上すら、話して聞かせた。

 あの小箱を見せられた時から、いつかはトゥーリオ民族の話題が出ると思っていたし、隠す必要を感じていなかったのだ。

 私には、母を亡くして以降この容姿だけしか血の祖を確かめるすべを持たない。国籍はアーデルベルトにあるけれど、それはロンド婆ちゃんが用意してくれたものでしかない。

 何処かから逃げてきた母は、いったい何処の国の民なのか。できるならば、ずっとそれを知りたいと願ってきた。

 グランディオス大陸に渡り、長い歴史を持つ大国カルミアの王族や異名持ちとの接触は、アーデルベルトからの逃走とは別に私の願いを叶えるためのもうひとつの目的になった。

 わずかでもいい。何かしらの繋がりを。

 希望を込めて、私はリカルド様の目を見詰めた。


「なるほど……。なれば、リンカ殿は『翠の魔女』についての歴史は知らないな?」

「『翠の魔女』の歴史、ですか?それは……滅多に生まれることのない異名だとしか……」


 トゥーリオ民族の話からいきなり『翠の魔女』の話に飛んだとこに、私は面食らった。

 希少な異名だってことと、対になる異名がないって知識しかないが。


「シェルク、ロンド殿は知っておったのか?」

「私が話した覚えが、()()ありますからねぇ。()ておらなんだら、話して聞かせてたと思ったのですが」


 何やら主従で訳のわからないやり取りをすると、リカルド様は納得したかのように頷きながら私を見据えた。


「リンカ殿。そなたはトゥーリオの民に相違ない。それも、皇族の血を引く身だ。証拠は異名。『翠の魔女』は、トゥーリオの皇族からしか出んのだ」

 

 え?

 今は亡きトゥーリオ皇国の?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ