第3話:陽子3
人和は心底驚いていた。思わず優の名前を呼んでしまったほどだ。
まさか優に似た人物が依頼をしに来るとは夢にも思なかった。長い黒髪に緋色の目、他人のそら似にしては似すぎている。幸いにして声や性格は同じではない。
そのおかげで人和の理性はなんとか保たれ、今は多少の懐かしさは残るもののすっかり冷静でいられる。
――それにしても……依頼内容が護衛と彼氏役になれとはな。しかも期限はストーカーと告白ざんまいから解放されるまでとは……いつになるかわかったもんじゃない。それなりに金も取ることになるだろう。向こうはそれに気づいてなかったみたいだ――
人和は心の中でため息をついた後、陽子に言う。
「で、どうなんだ? どれくらいまでなら払えそうなんだ?」
「え……えっとですね……」
陽子が言いづらそうな顔で人和を見ていると、
人和はため息をつきながら
「その反応から察するにそこまでの予算は持ち合わせていないようだな。なら別にいい、別の条件にしよう」
「へ?」
陽子はおかしな声を出す。
「金がないなら別の条件でいいと言ってるんだ」
「別の条件でいいって――まさかっ!?」
陽子は警戒心を強める。
「? 何か勘違いしてるな。俺は特にお前に興味はない。故に条件もお前が想像してる様な類いのものではない」
陽子はうっと言い若干傷ついていた。いくら平凡な顔(それも違うのだか)とはいえ一応女だ。さっきは何もしなそうとはそうとは言ったが流石にそこまではっきり否定されても悲しいものがある。
陽子の思い等お構い無しに人和は話を進める。
「それで条件と言うのはな――」
―・―・―・―・―
陽子と人和は夕方の道を歩いていた。
陽子は学校まで基本的に徒歩である。何でも屋までも学校から直接来たので当然徒歩な訳であり陽子が何でも屋から出るときには日も傾き始めていた。やはり暗くなると悪い輩も出るだろうという事で人和が送っていくのだった。車があればいいのだかあいにく人和は持っていない。
二人で帰るといっても会話はなく。人和は前を向いたまま無表情で歩き、陽子はさっきの条件の事を思い出していた。
「え? 何でも屋の手伝いをするんですか?」
「そうだ、まぁアルバイトみたいなものだ。無賃銀と言いたい所だが流石にそれはきついだろうから普通の半分の時給でどうだ? それでいいのなら依頼を引き受けよう」
陽子はあまりの条件の良さに驚いた。
「本当にそれでいいんですか? 何か裏があるんじゃないですか?」
陽子は疑いの眼差しを向ける。
「訳のわからない依頼をする割りには疑い深いやつだな。別に学校の行き帰りに送り迎えをして『俺は、あんたの彼氏だ』と言っていればいいだけだろ? それで労働力が得られれば安いものだ」
と、人和は言う。陽子はそれならと
「それでは宜しくお願いします」
頭を軽く下げてお願いする。
その後、陽子と人和は打ち合わせした。朝は人和が陽子の家に迎えに行き、学校が終わる頃に校門前にで待ち合わせ。基本的に陽子が仕事をする日は帰りに送ってもらう日で、学校から直接何でも屋に行く。帰りは七時を目処に陽子を家に送る。また、陽子に用事があり一人の場合は一緒に、友達等がいる場合は事前に連絡をする。最低でも週三回は仕事をすると、いうことに決まった。
やがて陽子の家の前に着き
「着きました。ここが私の家です。藤野さん今日はありがとうございました。また明日もよろしくお願いしますね」
と、陽子が笑顔で言う。人和は相変わらず無表情で
「あぁ、また明日迎えに行く」
「では、藤野さんまた明日。」
「あぁ、また明日――」
人和は家に帰る素振りを見せずじーっと陽子を見ている。
「? どうしたんですか?」
陽子が言う。
「一応お前が家に入るのを見届けようと思ってな。俺がいなくなった後に襲われたんじゃ意味がないからな」
と、人和。
「成る程、それもそうですね。じゃあ私はもう家に入ります。それにしても藤野さん優しいんですね」
若干嬉しそうな顔で陽子は言う。
「優しいかどうかは知らんが依頼を受けた以上はしっかりやるだけだ」
「ふふっ、そうですか。では本当にもうそろそろ――お休みなさい」
「ああ」
陽子は家に入る。人和は振り返り来た道を戻っていく。何でも屋に帰る途中人和はふっと言い無意識のうちに微かに笑っていた。
初めまして將です。なぜ第3話で初めましてとか細かいところはスルーの方向で。
とりあえず小説はうつだけでも時間くいますね(泣)よって更新は不定期で遅いかもしれません。1ヶ月に2話くらいでいくと思います。
初めて書いたので色々至らないところはありますが少しでも興味を持っていただけたら幸いです。
最後に感想、疑問、誤字脱字等がありましたらお願いします。特に最後。極力無いように確認はしているのですがそれでもあった場合はよろしくお願いします。