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夏の終わり

作者: 藍川秀一

夏の終わり

藍川秀一

 

 音が轟き、空気が震える、外では仕切りに雨が降り注ぎ、空には雷が走っていた。秋雨とも言うべきか、激しく降り注ぐ雨が、夏の終わりをどこか感じさせる。

 今年の夏が、もう終わる。

 どこか儚げな喪失感と共に、雨と雷の音だけが、部屋へと響き渡った。何を失ってしまったのかはわからない。それでも、今しか存在しない大切な何かを、道の途上に置いてきてしまった気がする。

 夏の終わりはいつもこうだ。言葉にできない空虚な感情だけが胸の奥に残り、心臓を締め付ける。それはどこか、青春の終わりに似ていた。

 春や秋、冬などではこんな感情は生まれない。夏が過ぎ去るときだけに、どうしてか、胸のうちによぎる。後ろから追い立てるように、底知れない後悔が襲ってくる。これでよかったのかと、どうしても考えてしまう。意味のないことだとはわかっている。行き場の無い後悔ほど、余計なものはない。何に後悔しているのかすらわからない現状では、思考するだけ無駄だ。

 ベランダの外へと出て、降り注ぐ雨を眺めてみる。雷が空をめぐる度に、空が明滅し、激しく音が鳴り響いく。その光が、心の片隅に存在している恐怖心を刺激し、生きていると言うことを実感させてくれた。

 手を伸ばし、雨を掴んでみる。大粒の雨が、何度も手に打ち付けるが、まるで幻想をつかんでいるかのように、指の隙間からこぼれ落ちていく。

 大切なものが、こぼれ落ちる。

 歳をとる度に、その感情は深く、大きなものとなっていく。人にとって夏の終わりというものは、どこか特別なものなのかも知れない。

 風向きが変わったのか、激しい雨が庇を抜けて、僕へと降り注ぐ。顔に打ち付ける度に、涙を流しているような気持ちになった。

 雷が轟き、音がなる。

 草木が倒れ、命が終わる。

 そして今年の夏が、終わった。


〈了〉


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