第七部 253~288(春:6月あたり)
0253
獅子吼さん「はあー……なんだか、むきりょく。やる気でないぞ」
わたし「どうしたら元気になります?」
獅子吼さん「我のやる気スイッチさがして」
わたし「ん~、ここですか?」
獅子吼さん「ふひゅっ、ち、ちがう」
わたし「じゃ~あ~、ここ?」
獅子吼さん「んしゅしゅしゅ! ちがうぞ!」
わたし「じゃあここだ!」
獅子吼さん「しゃきーん! 元気でた!」
わたしも元気が出ました。
0254
仰向けに寝転がった獅子吼さんが、手足を縮めて、屈服した猫みたいにこちらへお腹を見せている。
帰宅して、リビングに入って早々の光景である。
わたし「……何を食べたんですか?」
獅子吼さん「たべてないよ?」
わたし「いま白状すれば怒ら
獅子吼さん「最後のハーゲンダッツおいしかった」
もちろん許さなかった。
0255
わたし「『好き』って十回言ってみてくれますか?」
獅子吼さん「あ、それ知ってるぞ! そのあとに問題を出して間違えないで言えるかってやつな!」
わたし「じゃあ、どうぞ」
獅子吼さん「好き好き好き好き好き好き好き好き――」
ありがとうざいますとお礼を言っておいた。
今日も1日頑張ろう。
0256
友人A「ふたりして風邪ひいたって? 不規則な生活しすぎなんじゃないの?」
獅子吼さん「だうー」
わたし「はい……」
友人A「ほら、大人しく寝てなさいよ。何か食べたいのある?」
獅子吼さん「りんごのすりおろし」
わたし「食べたい」
友人A「はいはい。じゃあ、台所借りるからね」
わたし「あの……ありがとうね」
友人A「え、あ、うん……や、別に、いいんだけどさ」
0257
獅子吼さん「宝くじが当たったら……ところで一億円ってパイの実いくつぐらい買える??」
わたし「たくさんです」
獅子吼さん「たくさん!? それってどのぐらいだ!?」
わたし「ものすっごくたくさんです」
獅子吼さん「すごい!」
最近のいちばんIQが低かった会話。
0258
幼いころ、ファンタグレープを買ってきてと頼んだところ、グレープフルーツ味を買ってこられて、親とケンカしたことがある。
先日、飲み会の買い出しに行っていた友人Aに『うまか棒』をついでに買ってくるよう頼んだところ、『うまい棒』を大人買いしてきた。
ちがう。そうじゃないんだよ。
0259
獅子吼さん「サイコパスってカッコイイな!」
わたし「……そうですか?」
獅子吼さん「だって、こう、バンバン敵たおすし、バンバン美女助けるし」
わたし「んん?」
獅子吼さん「そんで左手からバーンって撃ってな」
わたし「サイコガン」
獅子吼さん「えっ」
わたし「サイコガンです」
0260
友人B「ここに人類を滅ぼせるボタンと、特定の一個人を過去の痕跡ごと抹消できるボタンがあったとするじゃないですか」
わたし「うん」
獅子吼さん「そしてそれとはまったく無関係に、一生分のお菓子を誰かがくれるボタンがあったとしよう。我ならすぐにそれを押すな!」
わたし「獅子吼さんはちょっと、大人しくしてましょうね。ほうら猫じゃらし」
結局友人Bの切り出した話は有耶無耶になった。
こういうことはよくある。
0261
わたし「また虫が多くなる季節がやってくる……。虫なんて、この世から一匹残らず消えてしまえばいいのに」
そう言ってしまってから、「あっ」と口をおさえた。
わたし「ごめん、あなたのこと言ったわけじゃないからね?」
友人A「えっ?」
0262
友人B「人間の三大欲求って何かわかります?」
わたし「征服欲、支配欲、破壊欲」
友人A「物欲、所有欲、課金欲」
獅子吼さん「えっとえっと……よ、 よく わからない?」
わたし「欲だけに」
みんな「あっはっはっは」
アルコールが入ると、どうしてあんなに下らないことがツボに入るのだろう。
人間三大不可思議のひとつである。
0263
わたし「しりとりしよう」
友人A「またあんたは突然に……いいけど。じゃあ、りんご」
わたし「拷問器具」
友人A「……グレイ」
わたし「遺骸」
友人A「イーリアス」
わたし「簀巻」
友人A「きな粉」
わたし「コンクリート」
友人A「東京」
わたし「海」
なぜか涙目で怯えられてしまった。
0264
友人B「こんな話を知っていますか? 夏の日の暑い夜、とある男女が廃墟になった病院へ」
わたし「そうやってすぐ猥雑な話をするのはやめてほしいな」
獅子吼さん「えっちぃのか!? これえっちぃ話なのか!?」
友人B「ち、ちがいます! 何言ってるんですかいきなり!? むしろこれは」
友人A「え! なになに? 猥談? 猥談なの?」
友人B「だからちが――わああああああ!」
調子にのりすぎた。
反省してまーす。
0267
獅子吼さん「我に力を!」
獅子吼さん「………」
獅子吼さん「………」
わたし「あの、何してるんですか?」
獅子吼さん「お日様から力を吸収してる」
わたし「……(スッ)」
獅子吼さん「!? 影になった! 力が、でないッ……!」
わたし「永遠の闇に沈むがよい!」
獅子吼さん「ぐわああああ!」
わたし「そろそろお買い物行きましょうか」
獅子吼さん「うん」
0268
朝起きてから、ずっと視線を感じている。
壁から少しだけ顔を出して、ずっと獅子吼さんがこちらの様子を窺っている。
振り向くと隠れる。
声を掛けようとすると逃げる。
わたし「……あー! イタイ、イタイイタイイタイ! どうしようすっごくイタイ!」
わたしが大声で叫ぶと、「だ、大丈夫か!?」と獅子吼さんが慌てて駆け寄ってくる。
わたし「ここに、すごく居たい! ……あれ、獅子吼さんどうしたんですか?」
獅子吼さん「おまえはそうやって! いつも我をからかうんだ!」
地団駄を踏む獅子吼さんを撫でくりまわすと、コロッと機嫌が良くなる。
あのね、そういうところなんですよ。
0269
獅子吼さん「もしも我が間違えそうになったら……おまえは止めてくれるか?」
わたし「もちろん、です……」
獅子吼さん「そうか……」
わたし「はい……なのでこの手は、決して放しませんから」
獅子吼さん「もう一個だけ! あと一個だけだから!」
わたし「そうやっていつも次の日お腹壊すでしょ! アイスは一日一個までです!」
獅子吼さん「これはまちがいなんかじゃないんだからぁ!」
0270
友人A「我々は、過ちを犯してしまったのだ……」
わたし「……」
友人B「……」
獅子吼さん「……」
テーブルの上にあったのは、
天然水(2L)
炭酸水(1.5L)
ウーロン茶(2L)
ロック氷(2袋)
惣菜サラダ
友人A「飲み会だというのに、どうして誰も酒やツマミを買ってこなかったのか……」
わたし「そっちは誰かしら買ってくるだろうと思って」
友人B「同じく」
獅子吼さん「パイの実は、ある」
結局もう一度買い出しにでかける羽目になった。
獅子吼さん「パイの実は、あるのだ……」
0271
友人A「や、やめろぉぉぉ! やめ、やめるんだぁぁぁ! それが人間のやることかよぉぉぉ!」
ダイエット中の人間の前で貪り食べるケーキの何と美味いことか。
やはり人間とは原罪をもって生まれた存在……。
0272
友人B「や、やめてください! 何を、何をしているんですか!」
金欠で三日間ぐらいもやし炒めしか食べていない人間の前で、特に飲みたいわけではないエナジー系ドリンクを買って、がぶ飲みする。
まさしく命の水のようだ。
全身に力が満ちるのを感じる……。
友人B「あ、あんまりだぁ……」
0273
友人B「鬼畜という言葉を知っていますか?」
わたし「わたしから最も遠い言葉だね」
無言でコンパクトミラーを差し出されたので、受け取って鞄にしまう。
わたし「ありがとう。でも誕生日プレゼントにはまだ早いかな?」
友人B「ほらぁぁ! それお気に入りなんだから返してくださいよぉ!」
わたし「???」
0274
友人A「じゃあさぁ、あんたって他人に鬼とか悪魔とかデーモンッ!とか言われたことない?」
わたし「ないよ。失礼な」
友人A「……本当に?」
わたし「もしかしたらそういうこともあったかもしれないけど、なかったことにしたから」
友人A「……」
わたし「あなたはどっちだろうね?」
0275
友人B「犯した罪の数を数えろ!」
わたし「ないよ。バレなきゃ罪にはならないんだよ? わかるよね?」
友人B「は、はいぃ……」
0276
獅子吼さん「我はおまえを信じてるからな! おまえはいいやつだ!」
わたし「そんなこと言っても、秘蔵のお酒を飲んでしまったことは許しませんよ」
獅子吼さん「そ、そんなの関係ないもんね!」
たし「じゃあ、今から久しぶりに夜通しお説教といきますか」
獅子吼さん「鬼! 悪魔!」
0277
ここに2枚のGooglePlayカード(¥3000)がある。
わたし「さあ、わたしがなにか言ってみなさい」
友人A「ご、ゴッド!」
友人B「ブッダ!」
わたし「見て下さい、獅子吼さん。これが畜生というものです」
地面に放り投げられたカードを必死に拾おうとするふたりを見下ろして言うと、獅子吼さんに「こ、これが真の邪悪……!」と怯えられてしまった。
ちがうよ?
もちろん、カードはすでにチャージ済みなので、ふたりが拾ったのはただのゴミである。
0278
獅子吼さん「くっくくく……ほうら、これ(ギフトカード)がほしかったのだろう? 地べたに這いつくばり、無様な姿を晒すがいい!」
友人A「ひゃあっ! ありがてえありがてえ!」
友人B「それは私のものだ! よこせえ!」
専攻会室でそんな茶番をしていた三人は、わたしが入ってくるなり突然黙り込んだ。
そしてなにごともなかったかのように他愛のない会話をしはじめる。
わたし「……それ、誰の真似かな?」
三人ともダッシュで逃げ出そうとした。
だが残念、わたしからは逃げられない。
0279
わたし「わたしたち四人は、いつも仲良しだよね。ズッ友だよね」
友人A「……」
友人B「……」
獅子吼さん「お、おう」
わたしだって、傷つくことぐらい、あるんだからな。
くそう……。
0280
獅子吼さんが、指先を切った友人Bの手当をしていた。
いつも持ち歩いているキャラもの絆創膏を手ずから貼ると、「いたいのいたいのとんでけーっ」と声を掛ける。
友人Bは恥ずかしそうにしており、心がほっこりした。
わたし「うっ、こ、こっちにとんできた! 痛いっ、指先が痛いぃッ!?」"
おこられてしまつた。
ちっとしたお茶目だったのにね。
0281
獅子吼さん「もしも……我が人間でないといったら、どうする?」
わたし「やはり……あなたが神だったのですね?」
ちがうと言われてしまった。
ざんねん。
0282
Take2
獅子吼さん「もしも……我が人間でないといったら、どうする?」
わたし「人権がないなら、合法的にいろいろできますねっ!」
我人間! 人間だからひどいことしないで!
と怯えられてしまった。
冗談なのに……。
0283
わたし「質問です」
獅子吼さん「はい」
わたし「冷凍庫にあったはずのハーゲンダッツが、ある日突然消えました」
獅子吼さん「はい」
わたし「なぜでしょう?」
獅子吼さん「我は……妖精さんの、仕業だとおもう」
わたし「ほう?」
"獅子吼さん「だから、叱らないでやってほしい。きっと悪気があったわけじゃない」
わたし「では何の目的があって?」
獅子吼さん「えっ、そこにアイスがあったら、食べるだろ?」
残念ながら、今日もお説教コースです。
0284
お風呂の順番は大体、
『獅子吼さん身体洗う』→『獅子吼さん湯船浸かる』→『わたし身体洗う』→『わたしも湯船浸かる』
という形なのだが、先に湯船に入った獅子吼さんが暇を持て余し、よく水鉄砲で攻撃してくる。
仕方ないのでわたしがシャワーで反撃すると「ズルい! ズルいぞ!」とキャッキャしながら喜んでくれる。
それだけです。
0285
獅子吼さんが夕日に黄昏れていた。
獅子吼さん「人はなぜ傷つけ合うのか……? 人はなぜ憎しみ、争い合うのか……?」
わたし「獅子吼さん……」
わたし「でも……そんな態度をとっても、散らかしたリビングの片付けはしなくちゃいけませんよ……?」
獅子吼さん「……人はなぜ
わたし「いいから早く片付けなさい」
獅子吼さん「けちんぼ!」
0286
「まったく、このぐらいで騒ぎすぎだぞ、おまえ」
スリッパでやつを仕留められる獅子吼さんはすごいとおもいました(背中に隠れながら)。
でもごめんね獅子吼さん、お気に入りだったそのスリッパ、明日新しいのに変えておくから。
0287
友人Aから電話が掛かってきた。
「ちょ、ちょちょちょ、あ、アレ、アレが出たんだけど!? ど、どうしたらいいの!? どうすればいいの!?」
すぐに通話を切った。
聞かなかったことにする。
だが数秒後また掛かってきたので、仕方なく獅子吼さんを派遣しておいた。
討伐完了の知らせが届く。
さすが獅子吼神。
この時期はいつにもまして頼りになる。
0288
派遣した獅子吼さんからの密告を受けて、友人Aの部屋を強制訪問した。
腐海になりかけていた部屋を(物理的に)尻を叩きながら整理整頓させる。
友人A「お、お尻痛い……お嫁にいけなくなっちゃう」
鼻で笑ってやったら、ぬいぐるみを投げつけてきた。ので、土(床)の味を覚えさせてやった。