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第六部 208~252(春:5月あたり)

0209


獅子吼さん「なんにもいない! なんにもいないぞ!」

獅子吼さん「出てきちゃダメ!」

獅子吼さん「なんにも悪いことしてない!」


 獅子吼さんが隠し持っていたカマキリの卵が孵って、部屋の中が大惨事。

 半日お説教コース。



0210


 同学年の相手から頭を撫でられそうになって、それをかわす友人B、なおも撫でようと張り切る相手――という攻防を、よく目にする。

 子供扱いされるのが嫌なようなので、さもありなんと思うのだが、わたしが獅子吼さんの頭を撫でていると、友人Bから視線を感じることが結構ある。

 何となく流れでそっちの頭も撫でてみるときもあるのだが、だいたいムスッとした顔でされるがままになっている。


 不思議な生態だ。




0211


 何を思ったのか、お風呂あと、獅子吼さんがわたしの肩を揉んでくれるという。

 突然のことだが、当然断るという選択肢は存在し得ないのでお願いした。

 「おまえも毎日たいへんなんだな……」としみじみ頷いていたのだが、思い当たることがない。

 ふとテーブルの上を見ると、ファッション誌のとある1ページが開きっぱなしになっていた。


 『大きな人、小さな人の5つの悩み』。

 

 ……ああ、うん。



0212


「もしもあなたが真理を求めるのであれば、私のもとへ来るといい。待っていますよ」


 そう言って教授はわたしたちのもとから歩み去った。

 今日も今日とて、獅子吼さんをゼミへスカウトしようと教授方は頑張っているようだった。


 それはそれとして、真理の一端を手にするべく、わたしは今日も獅子吼さんを教授の研究室へ送り込んだ。

 さて、今日はいったいどんな高級真理(食用)を持ち帰ってくれるのか……。




0223


「ふ~んふんふふ~ん♪」 


 何かいいことがあったのか、今夜の獅子吼さんは終始ご機嫌だったが、お手洗いに向かう途中で、突然「うっ」とうずくまった。

 慌てて駆け寄ると、足の小指をおさえてぷるぷるしている。


獅子吼さん「こゆび……ぶつけた……」

わたし「だ、大丈夫ですか?」

獅子吼さん「だいじょうぶじゃない……うっ、うぅ、ううぅう」


 グスグスしだした獅子吼さんを慰めるのに、三十分かかった。




0224


 以前、知り合ったばかりの頃、あまりに純粋無垢な獅子吼さんに不安をおぼえ、赤ちゃんはどうやってできるか知っていますか、と問うたことがある。

 獅子吼さんはしばらく沈思黙考したあとに、こう答えた。


「まずビッグバンが起きてだな……」


 遡りすぎである。

 正答を教えたところ顔を真っ赤にして「そ、そんなことぐらい知ってるから!」と怒られたのはいい思い出である。




0225


 講義の合間、時間をつぶすのに学内のカフェに向かうと、獅子吼さんがハレムを作っているのを目撃する。

 女子学生数人に囲まれ、膝の上にのせられ、ケーキやチョコなど甘いものを次々に食べさせてもらい、頭を撫でられたりくすぐられたり、キャッキャと大変にご満悦のもよう。


 混ざりにいった。

 

 気づけば講義は終わっていた。

 そういうことも、ある。




0226


 ふと思い立ち、近くのドンキで被り物を三人分買ってきた。

 いつものメンバーで宅飲みの最中、獅子吼さんにちょっとしたお使いを頼み、帰ってくる頃を見計らって、猿、馬、鶏をそれぞれ被って、出迎える。


獅子吼さん「な、なんだ、どうしたんだ」

わたし(馬)「……」

友人A(猿)「……」

友人B(鶏)「……」

獅子吼さん「な、なんかしゃべれよぅ! なんだよ、なんなんだよぅ!」

わたし(馬)「……」

友人A(猿)「……」

友人B(鶏)「……」

獅子吼さん「う、うわぁぁぁぁん!」



 許してもらうのに一時間とパイの実三個必要だった(買いに行ってきた)。




0227


 カカオ95%チョコレート。

 とは言ってもどうせそこそこ甘いんでしょう、と舐めて食べたら顔がくしゃくしゃになった。

 あまりにも苦すぎる。

 仕方がないので獅子吼さんに「このチョコ最高(に苦い)ですよ!」と言って一気に三つぐらい食べさせたところ、涙目でぷるぷる震えだした。

 「ね、最高に苦いでしょう?」とニコッとしたらぽかぽか叩かれてしまった。


 甘い……。




0228


 獅子吼さんと些細なことで口喧嘩してしまった。

 プリッツのサラダ味とトマト味、どちらが至上かで論争になったのだ。

 頭を冷やしに近くのコンビニへ行って帰ってくると、テーブルの上には「さがさないでください」という書き置きと合鍵が。


「せっかくパイの実買ってきたのになー!」


 と大きな声で言うと、クローゼットから獅子吼さんが飛び出してきたので、ふたりで仲良く食べた。




0229


 また何かに影響を受けてきたのか、催眠術にかかりたいと獅子吼さんが言い出した。

 しょうがないので、糸に吊るした五円玉を獅子吼さんの前でゆらしてみた。


わたし「いいですか、目の前の五円玉をよく見て下さいね。いーち」

獅子吼さん「(パシッ)」

わたし「にーい」

獅子吼さん「(ペシッ)」

わたし「さーん」

獅子吼さん「シャッ」


 猫じゃらしで満足するまで遊んでやった。



0230


 外で遊んでいた獅子吼さん。

 帰ってくるなり玄関口でお腹を抱えてうずくまった。


獅子吼さん「う、生まれる! 生まれるぅ……!」

お猫様「にゃー」


 獅子吼さんの服の中から解放された猫は、やる気なそうにひと鳴きすると、振り返りもせずに去っていった。


わたし「汚れ物洗っちゃいますから、シャワー浴びてきてください」

獅子吼さん「はーい!」




0231


 獅子吼さんは葉巻などの煙草を嗜むが、もちろんコーヒーやコーラ、サワーなどのシガレットも嗜む。

 個人的にわたしはコーラ味が好きです。




0232


獅子吼さん「ばぶー」

わたし「おやおや、こんなところに可愛い赤ちゃんがいるぞ」

獅子吼さん「ばぶっ、ばぶーっ」

わたし「おやおやグズりはじめたな。もしかしてオネムなのかな?」

獅子吼さん「ばーぶー」

わたし「おーよしよし。ねんねんころりよー」

友人A「……何やってんの、あんたら?」


 冗談でやっていただけなのに、ドン引きされてしまった。

 ユーモアのたりない人間はこれだから。




0233-1


 コンビニでシュクリームを買ってきて、これ見よがしにテーブルの上に置ていておく。

 そしてクローゼットに隠れる。

 間もなく獅子吼さんが帰宅。

 シュークリームを発見する。

 じっとしばらく見つめたあと、視線を逸らして、テレビを見たりスマホをいじったりするが、だんだんとソワソワしてくる。

 シュークリームを見つめる。逸らす。

 おもむろに立ち上がり、他の部屋を確認しに行き、誰もいないと分かると、またシュークリームを見つめる。

 ごくり、と喉をならす。

 おそるおそる手をのばし、包装に触れると、ハッとした顔になり、慌てて引っ込める。

 あたりを意味もなく見回す。

 またシュークリームを見つめる。

 そして再び腕を伸ばし、ついにその手がシュークリームを摑んだ!というところで、クローゼットの隙間から覗くわたしの目と目が合った。


獅子吼さん「ひっ」




0233-2


「真の邪悪とは、ただ悪であることよりも他者を悪へ堕落させる存在を言うのではなかろうか」

「このままだと悪くなっちゃうから、冷蔵庫に入れようと思って」

「こんなところに無防備に放置されているのが悪いと我は思うんだ」


 目の前でむさぼり食べてやった。

 たいへんおいしゅうございました。



0239


 最近、思うところがあって腹筋を始めた。

 お風呂上がり、獅子吼さんを足の上に乗せてやっているのだが、獅子吼さんは軽量タイプなので、起き上がる時に押さえきれず浮いてしまう。

 それはそれで楽しそうにしているのでよいのだが、ついつい獅子吼さんを喜ばせる方に夢中になってしまい、効率が悪い。

 可愛いは正義であるとともに悪でもあるとわたしは学んだ。




0240


 筋肉痛がひどい。

 笑うとお腹の筋肉が引きつり、余計に痛くなる。

 それを知った獅子吼さんが何とか笑わせようと変顔したりくすぐろうとしてきたり、やたらと構ってくる。


 こやつめ。癒されるではないか。




0241


友人B『いま何してます?』

わたし『息してる』

わたし『あと心臓も動かしてる』

わたし『それは生きてるっていうことだけど』

わたし『死ぬ途中ともいえる』

わたし『つまるところ、人は生まれた瞬間から死という結末に向かって走り続けているんだ』

友人B『うるせえ』

友人B『黙ってください』

わたし『ふふ、語り得ぬことには沈黙せねばならない、ということかな?』

友人B『(゜д゜) ペッ』




0242


友人A『いま暇?』

わたし『息をして』

わたし『心臓も動かしているので』

わたし『暇ではない』

友人A『暇ならちょっとそっちに行っていい?』

わたし『暇ではないと言っているでしょう?』

友人A『じゃ、行くからねー?』

わたし『バカなの? 死ぬの?』

友人A『はいはい』

わたし『(゜д゜)ペッ』




0243


 どこかから手品のネタを仕入れてきた獅子吼さん。


獅子吼さん「ふふふ、我はまじゅちゅを使えるようになったのだ」

わたし「まじゅちゅ」

獅子吼さん「魔術!」

わたし「まじゅちゅ?」

獅子吼さん「まじゅちゅっ!」

わたし「まじゅちゅ(笑)」

獅子吼さん「きぃーっ!」


 ポカポカされてしまった。

 こころがいたい……(笑)。




0244


「もごご、もごごごごご(人は、なぜかくも愚かであるのか……)」


 宅飲みしているときのことである。

 お手洗いに席を立った友人Aの隙をついて、友人Bはやつが確保しておいた甘味を口に詰め込むとそのようなことを言った。

 わたしは重々しく頷いた。


「本当にな……」


 もちろん本当に愚かなのは、ついこの間も同じことをやられておきながら無防備に獲物を放置した友人Aである。

 異論は認める。




0245


獅子吼さん「このスイーツ誰の?」

友人B「おいしそうですね。誰のなんでしょうか」


ふたり「(チラッ)」


獅子吼さん「はあー。これ食べたら世界一幸せになれそう」

友人B「きっとおいしいんでしょうねえ」


ふたり「(チラッ)」


獅子吼さん「ひもじいなあ」

友人B「もう三日も何も食べていませんからね」


ふたり「(チラッ)」


 目の前で貪り食べてやった。

 最高においしかった。




0246


友人B「あなたは胸が痛んだりしないんです? 人の心がないんです? 人でなしです? 鬼畜なんです?」


 わたしにだって胸が痛くなることぐらいある――。

 友人Bのその部位を見つめながら、言ってやった。

 たとえば小学校高学年にになったぐらいから急に痛くなって、特に体育のたびに擦れて


友人B「キィエエエエエ!」


 発狂してしまつた……。




0247


わたし「おはよ

友人B「キイェェェェ!」 

わたし「お昼食べに

友人B「キィエェェェ!」

わたし「どうどう、よしよし」

友人B「キィェェェ」

わたし「こわくない、こわくないよ?」

友人B「キイェェェ…」

わたし「よく思い出して。きみは人間なんだ」

友人B「キィィ!」


わたし「っていう夢を見たんだ」

友人B「きえええい!」




0248


友人A「あれえ? ない……ないなあ。どこいったんだろう」

わたし「何探してるの?」

友人A「このあたりに落ちてると思うんだけど」

わたし「羞恥心?」

友人A「いやいや」

わたし「知性?」

友人A「いやいやいや」

わたし「そうか、常識……」

友人A「そうじゃなくてさ」

わたし「うん」

"友人A「私の頭のネジがこのへんにあるはずなのよ」

わたし「おかあさんのお腹の中じゃない?」


 という夢を見た。




0249


 午後四時ごろ、半袖、短パン、麦わら帽子、虫網という昭和スタイルな獅子吼さんが満面の笑みでご帰宅された。

 「がんばった!」と差し出してきた虫かごの中にはガサガサとうごめく大量のバッタ。

 硬直していると「佃煮にしてな!」と言ってきたので、即座にリリースさせた。


 ムシはまぢムリぃ。




0250


 天気が良いとき、学内のベンチでお昼寝している獅子吼さんがよく目撃される。

 そしてよく激写されている。

 その内の7割はわたしのもとに届けられるシステムが現在では構築されている。




0251


わたし「今日が何の日か知ってます?」

獅子吼さん「……(ハッ)おまえのお誕生日、だな?」

わたし「ちがいます」

獅子吼さん「もしや、我のお誕生日……?」

わたし「ちがいますよね」

獅子吼さん「で、では、まさか『アイツ』の」

わたし「そうです。獅子吼さんがゴミ出しをする日です」


 逃げ出そうとした忘れん坊の襟首を捕まえて、お説教しておいた。




0252


 講義中、獅子吼さんが居眠りをしている。

 頬を人差し指でついてみる。


「にゅふ」


 ぷにぷにである。

 おなかのあたりを突いてみる。


「にゅふふ」


 ぷにぷにである。

 その後全方位の学生からつつき回されるも、結局獅子吼さんは講義が終わるまで一度も目を覚まさなかった。


 ちょっと獅子吼さんの将来が心配になる日だった。


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