第三部 101~141(冬:1月あたり)
0101
家族大好きの獅子吼さんは、長期連休で帰省が決まるとにっこにこになるのだが、いざその日が近づくと、次第に元気がなくなってくる。
今度は学校の面々と離れるのが寂しくなってくるらしい。
別れ間際は毎度めそめそするので、駅まで手を引いていって、ホームで新幹線の出発を見送ることにしている。
まったく、仕方のない獅子吼さんである。
まだまだ子供だな、と帰省の時期になるたび思うのだ。
友人A「あんた目が真っ赤なんだけど――ああ、またあの子が帰省してメソメソしてるわけ?」
うるさい、だまれ。
0102
獅子吼さんがいなくなってしまったので、大人しくわたしも帰省することにする。
『明日帰るから』
『はいはい』
『ハイは一回でいいと言われて育ちました』
『あらー、親御さんから良く躾けられて育ったのねえ。おばさん、感心しちゃう』
『うるせぇ、とにかく帰るからよろしく』
『ハイ!』
0103
獅子吼さん『あけましておめでとうだな! 今年もよろしくしてください! ヾ(。>﹏<。)ノ゛✧*。』
友人A『あけおめ。今回の年末も熱く険しい戦いだったぜ……』
友人B『お餅食べすぎてふっくらしてしまいました。お餅は滅びたほうがよいのでは?』
0104
実家は相も変わらず実家であった。
母「ちょっと背が伸びたんじゃないの、あんた?」
わたし「腰が曲がってそっちが縮んだんじゃ?」」
母「やれやれ……ちょっと表にでましょうか。久しぶりに教育してあげるわ」
わたし「寒いからいやです」
母「そうね、寒いのはいやね」
わたし「ところで晩ご飯、久しぶりにシチュー食べたい」
母「はいはい」
わたし「ハイはいっか
母「ハイ!」
弟「うわ……相変わらずわけわかんねえ会話してる……」
0105
弟「いつまでこっちにいんの?」
わたし「獅子吼さんの帰省が終わるまで」
弟「獅子吼って……ああ、まえに連れてきた金髪のちっこいの?」
わたし「さんをつけろよデコスケ野郎」
弟「あ、はい」
どうも敬意が足りない様子だったので、小一時間、獅子吼さんについて話してやった。
主に去年を振り返っての獅子吼さんのすごいところと可愛いところ、そしてすごく可愛いところを写真や動画も駆使して説明する。
弟「それ前帰ってきたときも
わたし「黙って聞け」
弟「ハイ!」
0106
母「毎年この時間は紅白だから」
わたし「いや、ガキ使一択だから」
母「は?」
わたし「は?」
父「……(゜-゜;)オロオロ(;゜-゜)」
弟「この人ら、何年前から同じ争い繰り返してんだよ…」
父「! щ(゜ロ゜щ)カモーン」
弟「いや、俺自分の部屋で見るし。んじゃ」
年末の一幕。
0107
この時期になると、去年散々悩んだあと獅子吼さんへお年玉をあげて「我、もう子供じゃないからな?」と真顔でいわれ、ひどくショックを受けたことを思い出す。
そのわりには、サンタさんからのプレゼントは大喜びで受け取っていたが……いや、よそう。
獅子吼さんがそういうなら、きっとその通りなのだ
とりあえず今年はパイの実を段ボール箱いっぱいにプレゼントすることにしよう。
0108
『げんきです! もう少ししたら帰ります! げんきです! にゅふふ』
『おさけおいしいです。ぽわぽわするね?』
獅子吼さんからLINEで写真が送られてきた。
胸元に白と黒の猫を一匹ずつ抱えた金髪蒼眼の美人親子が、コタツを挟んで向かい合ってこちらに笑いかけている写真。
頬はうっすらと桜色に染まっており、テーブル上には高度数の洋酒の瓶が幾つも転がっている。
そして奥の方で中年の男性が死んだようにうつ伏せで倒れている。
……南無三。
0109
グループLINEのやりとり
友人B『最近、帰省すると母親に露骨に避けられてるんですよ。特に家から外にでたときなんか。なので理由を聞いてみたんですけど、そしたら何て言ってきたと思います?』
わたし『さあ?』
友人A『あんたは橋の下で拾った子なんだよ! とかwww』
わたし『うるせえ、だまってろ』
友人B『最近一緒にいるとお祖母ちゃん扱いされるから、って……私だって好きで童顔なわけじゃないんですよ! みんなが影で合法ロリ呼ばわりしてるの知ってるんですからね!』
獅子吼さん『落ち着け、そういうときはそすうを数えるんだ』
わたし『素数ってなんです? 獅子吼さん』
獅子吼さん『しらない』
友人A『あれ、なんかさっき私暴言吐かれなかった?』
獅子吼さん『そんなことよりサッカーしようぜ!』
みんな好き勝手喋りすぎだとおもいます。
0110
『はわわ……どうしよう、自分のじゃないプリン食べてしまった……はわわ』
『あ! し、獅子吼さん、それはわたしが買ってきた獅子吼さんにあげる用のわたしのプリン……』
『ご、ごめんなさい! ……んん? あれ、でも』
『問答無用! くすぐりの刑です!』
『きゃー(笑)!』
というところで目が覚めた。
相変わらず実家である。
これが、虚無感。
獅子吼さんが『はわわ』なんて口にしているの、聞いたことねえよ。
0111
獅子吼さんが明日戻るというので、わたしも合わせることにした。
荷物の準備OK。
目覚ましのセットOK。
獅子吼さんへのお年玉用パイの実も手配済。
他には……あ、獅子吼さんが好きそうなお菓子と、父親がお歳暮でもらったお酒も何本かもっていこう。
あとは……。
弟「遠足前の小学生かよ」
0112
早めにマンションに戻り、部屋の掃除、空気の入れかえ、冷蔵庫の中身の整理を手早く済ませて、パイの実が詰まったダンボールをかわいらしく包装し終える。
さて、それでは玄関前で正座待機しようか――と思ったところで獅子吼さんがお戻りになった。
「ただいま!」
「あっ、お、おかえりなさい……」
0113
寒波がやってきて寒いし、帰省終わったばかりで獅子吼さんが寂しさに夜泣きするしで、しかたなく今日は一緒に寝ることに。
どうしてもって言われたら、まあ、それはね?
本当に、しかたがない。
0114
あまりの寒さに、寝起きの獅子吼さんが毛布に包まったままリビングにやってきた。
「このまま冬眠したい」と言うので、膝をぽんぽんしたら、毛布に包まったままごろんごろん転がって飛び込んでくる。
「とうみん!」と宣言する獅子吼さんを抱っこしながらコタツ布団を掛けて、ぬくぬく過ごした。
十分ぐらいしたら「春が来た!」と汗だくになって飛び出してきた。
0115
友人A「年末年始忙しすぎ。久しぶりにドレス着ると、すっごい肩凝る」
友人B「ドレスとか(笑)」
わたし「コスプレしてコミケいったの?」
友人A「いやいや、親戚付き合いでちょっと」
獅子吼さん「おまえお姫様だったのか!?」
キラキラした目で見上げられて、友人Aは困り顔していた。
0116
友人A「…あんたら、どうして遅刻したわけ?」
わたし「やむにやまれぬ事情があって」
獅子吼さん「あってな」
獅子吼さんが突然「吾輩は猫である!」と言い出したので、以前にAmazonで買った猫じゃらしで構っていたら時を忘れてしまったのだ。
仕方なかったのだ。
ごめんなさいなのだ。
0117
起床するとあたりに雪が舞い散り、降り積もっていた。
どうりで昨夜は寒かったわけだと窓越しに外を見下ろしていると、真っ白な景色の中で踊る雪の妖精を見つける。
そうだ。獅子吼さんだ。
一緒に雪遊びした。
0118
獅子吼さんはたくさん雪がつもると、キツネみたいにジャンプして顔から突っ込む。
そのまましばらく静止するが、やがて起き上がるときゃっきゃと笑い声を上げて、また同じことを繰り返す。
獅子吼さんの習性がまたひとつ明らかにされた。
0119
環境倫理学の講義を受けてきた獅子吼さん。
エコに目覚め、この真冬にエアコン封印を要求してくる。
「そこでこれだ!」とクローゼットから出してきたのは実家から持ってきたらしい着る毛布。
一着しかないので二人で包まって夜中まで映画を見た。
そんな冬の一日。
(なお、次の日には飽きていた)
0120
獅子吼さんと一緒に学校へ行こうとすると、大体三回に一回は遅刻する。
獅子吼さんが道端で昆虫観察をはじめてしまうからだ。
そしてわたしもそんな獅子吼さんを観察しているからだ。
0121
獅子吼さんと一緒に学校へ行こうとすると、大体三回に一回は遅刻する。
獅子吼さんが道端でお猫様と戯れはじめてしまうからだ。
そしてわたしもそんな獅子吼さんと戯れてしまうからだ。
0122
「にゃんこー!」
「にゃんこ、にゃんこ?」
「にゃんこっ」
「にゃんにゃん」
獅子吼さんが近くの公園で、ママさん連れの幼児と一緒に猫と戯れていた。
和む。
0123
友人B「獅子吼さん、どうして人類とはかくも愚かなんでしょうか……?」
獅子吼さん「う? 我のまわりはみんないいやつばっかりだぞ。おまえもかわいくてやさしいしな!」
友人B「あ、はい…」
和んだ。
0124
友人A「どっかに私のことが一番好きで、いつでも我儘を笑顔で聞いてくれて、無垢で、可愛くて、御曹司で、婚約済みの中性的なショタが落ちてないかなあ」
頭沸いているのかと聞いたところ「だって、男の人って怖いじゃん!?」と返ってきた。
こいつは女学園でどれだけ純粋培養されてきたのだろう。
0125
ちょっと離れた街まで遠出したところ、友人Aが駅前で女子高生数人から「お姉さま!」呼ばわりされているのを目撃する。
やっぱり女学園ってそういう感じなんだと引いていたら、実の姉妹だと説明された。
四姉妹の女系家族で、本人は長女らしい。
なるほど。
……いや、実妹だったら余計に引くからね?
0125
昔から、わたしはなぜか格闘技系の運動部によく勧誘される。
専攻の飲み会で不思議ネタのひとつとして話したところ、全員から顔を逸らされた。
なんなんだこいつら。
0126
お昼、獅子吼さんが窓際でうずくまっていたので、慌てて近寄ったところ、ただ単に日向で光合成しているだけと仰る。
地球温暖化対策らしい。
「この星は我が守る!」と丸まったまま決意する獅子吼さんだったが、脇腹とかをつついているときゃらきゃら笑いだして、しばらくふたりでくすぐりあった。
あとで、とりあえず人間は光合成をしないことを教えておいた。
0127
昨夜はいつもより寒かったので、獅子吼さんがわたしの布団の中にもぐりこんできた。
にんげんっていいな。
0128
0129
0130
今日は久しぶりに獅子吼さんの手作りボルシチを頂いた。
とてもおいしかったです。
お風呂ではいつも以上に丁寧に洗ってあげた。
ごちそうさまでした。
0131
獅子吼さんとリビングのソファで『パーソン・オブ・インタレスト』を観ていたところ、飽きたのか途中でこちらに寄りかかってきた。
スルーしていると、チラとこちらを見上げてから、今度は膝の上に頭をのせてゴロゴロしはじめた。
チラチラ見上げてくるのをさらにスルーしていると、わき腹や、もっと上の部分とかを指でつんつんしてくる。
仕方なく「なんです?」と問うと、ぴたっと手を止めて「んーん、なんでもないぞ?」と返す。
しかし画面に戻るとまたちょっかい出してくるので、全身くすぐりの刑に処してやった。
0132
「おんせん! 今年はおんせん行きたい!」
そう主張していた獅子吼さんだったが、バブを買ってきたら大喜びですっかり忘れてしまった模様。
早速数種類混ぜてドドメ色の謎の液体にしてしまい、わたしに怒られた。
0133
時間つぶしに来ていた友人Aが『自虐の詩』(原作)を読んでいたかと思うとボロ泣きしていた。
「私達、ズッ友だかんね!」と絡んできて鬱陶しかったので、獅子吼さんを貸し出してやる。
五分後にはふたりできゃっきゃとフローリングを転げまわっていた。
0134
???「あ、あの、先輩、その、ご飯! 一緒に! 食べても、いいですかっ」
???「あの、お隣、座ってもいいですか……?」
???「あっ、えへへ……ありがとうございます!」
友人B「ちがうんですよ。私はピーマンが嫌いなわけじゃないんです。ただそれを消化できる酵素がないだけであってちょ、ま、いや、ひぃっ、何するだァー!」
うだうだうるさい口にピーマンを詰め込もうとしたところ、涙目で激怒された。
入学間もない頃との差に、なんとも言えない気持ちになった。
0135
???「あら、あなた……確か前の講義でも一緒だったわね。よろしくお願いするわ」
???「ふふっ、早速あなたみたいな可愛い子とお近づきになれるなんて、私の大学生活は随分と幸先がいいみたいじゃない」
???「寝癖、なおっていないわよ。意外とそそっかしいのね?」
今思えば、あのクソ寒いキャラ付けも女子校に小中高と通っていたことの弊害だったのかもしれない。
友人A「あーあ、一度でいいから美少年をぺろぺろしてみたい」
この落差よ。
0136
獅子吼さんの好きなアイスのひとつはアイスの実である。
私が好きなのは、そのアイスの実を獅子吼さんにひとつひとつ手ずから食べさせてあげることである。
0137
『世界は密室でできている』はやっぱりおもしろいなとおもいました。
あと獅子吼さんはきょうもかわいかったです。
読書と獅子吼さんで、だいたいわたしの世界は完結している。
友人AB?
ああ、そういえばそういう人たちもいましたね。
0138
ここ最近、あまり日光にあたっていないなと思い、窓際の日向でごろりと横になった。
そのままぼんやりしていたところ、獅子吼さんが帰宅。
わたしに気づくと、とてとて歩いてきてわたしのお腹の上にひっついてくる。
そのまま、一時間ぐらい微睡んでいた。
幸せってこういうことだと思う。
0139
郵便物を出そうと思って郵便局へ行ったら既に窓口が終了しており、ATMでお金を下ろそうと思ったらカードを忘れ、何かおやつでも買って行こうかと思ったら財布に百円しか入っておらず、結局何一つ目的を果たせず、家に帰ってきた。
でも獅子吼さんが生きているというそれだけで、全て帳消しである。
0140
いつメンで鍋を囲んだ。
ベースは醤油。
お供は日本酒。
いい感じに気分良くなってきた頃、コタツの中で誰かの足と接触する。
位置関係から獅子吼さんだと思い足先でくすぐってみたところ、友人Aが「ちょ、だれ~(笑) や~め~て~よぉ~」とニヘニヘしだしたので、思い切り舌打ちしておいた。
0141
例のLINE
獅子吼ママ『わらわに生贄を捧げよ!』
(路地裏の猫の写真)
(草むらの猫の写真)
(猫を頭にのせた獅子吼さんの写真)
獅子吼ママ『ヾ(*´∀`*)ノキャッキャ』
獅子吼さん『v(* `∀' )vピース』"