第二部 51~100(冬:11~12月あたり)
0051
獅子吼さんの私服はわたしや周囲の女性陣がコーディネイトすることが多い。
放っておくと一年中半袖短パンで過ごそうとするからである。
これはこれで悪くないのだが、誤認補導される確率が跳ね上がるので致し方ない。
0052
「PSVR欲しい……」と獅子吼さんが言っていたので、ドラクエ5をプレイする獅子吼さんを抱っこしながら、感情豊かにセリフを音読し、戦闘の度に身体を揺すったりぴしぴししっぺしたり、摩擦で熱くしたり氷でひやっとさせたりしてみた。
「これがVRか!」と大層満足しておられた。
0053
近所のご老人方のゲートボール大会に参加して見事優勝して帰られた獅子吼さん。
両手では抱えきれないぐらいのお菓子をもらってきた。
優勝賞品らしいが、そのチョイスが明らかに子供向けである。
どうやら今日も接待されてきたらしかった。
さすがはその界隈でもアイドル的存在である獅子吼さんである。
0054
獅子吼さんの冬シーズンのお気に入りドリンクは、ブランデー入り紅茶やホットコーヒーである。
紅茶の方はさらに気分によってはママレードなどのジャムを入れることもある。
獅子吼さんの影響で私も好むようになったのだが、冷える夜などは、これを飲むと身体の芯からホカホカになり、大変よろしい。
0055
ご近所の年配の方に出くわすと、たいてい「獅子吼ちゃんのところの」と言われる。
そして商店街の割引券とかを渡してくる。
将を射んと欲すれば、なんとやらなのか。
0056
獅子吼さんのほっぺたは、はたして大福よりも柔らかいか否かと実際にぷにぷにしながら友人ABと議論していたところ、「おまえの下っ腹とかおしりもなかなかだぞ!」と無垢な笑顔で言われてしまった。
きっとそんなことはないとおもうんだ。
0057
ここ最近、学生(♂)に肩車されながらキャッキャして構内を移動する獅子吼さんをよく見かける。
毎回その顔ぶれがちがうのだが、あいつら、当番制にでもしているのだろうか。
0058
朝目覚めると、獅子吼さんが猫耳になっていた。
夢だった。
現実ってクソだな。
0059
ふて寝から目覚めると、獅子吼さんが猫耳になって、にゃあにゃあ鳴きながら擦り寄ってきたので、またいつもの夢かと思ったら夢じゃなかった。
友人Aのたくらみらしい。
やつもたまには良いことをする。
酔っ払って醜態を晒す動画(その①)は消しておいてやろう。
0060
獅子吼さんの生態
その1:いまだ成長期である。
その2:身体能力がずば抜けている。
その3:何もないところでよく転ぶが、立ちはだかる障害物は難なく乗り越える。
0061
踏み台の上に乗って台所で料理する獅子吼さんを見ると、いつもほっこりする。
エプロンはもちろん、大量のデフォルメ猫が描かれたものだ。
チャーハンおいしかったです。
0062
いつもの4人でファミレスでだらだらしていると、『うちゅうずかん』を読み終えた獅子吼さんが、「世界でいちばん大きなものって何だと思う?」と訊いてきたので「愛……でしょうか」と答えておいた。
キラキラした眼差しを向けてくる獅子吼さんと、ドン引きの残りふたりがとても対称的だった。
0063
0064
獅子吼さんが哲学を題材にした『ゾフィーの世界』を読んで、「我は我だけど、そもそも我とはいったい……我はなぜ存在しているのか……うごご」と唸っていたので、獅子吼さんの大好きなパイの実を買ってきてありますよと伝えてたところ、テンションが激上がりした。
「もちろん、冷やしてあるんだよな?」
との問いに頷いて、実際にコーヒーと一緒に出してあげると、にっこにこしながらもぐもぐしていた。
つまりは、そういうことなんですよと教えてあげたが、獅子吼さんは不思議そうに首を傾げるだけだった。
0065
冬も近づき、雪もチラつき、そろそろ今年も体温を求めた獅子吼さんがべたべたしてくる季節になって参りました。
端的に言って、最高だな。
0066
「なー、こいつうちで飼ってもいい? ちゃんと面倒みるから」
獅子吼さんが、首輪と猫耳を付けた友人Aを連れて家に帰ってきた。
こんな薄汚いものを家で飼えるわけがないので、すぐに保健所に連れていってもらうよう伝えたところ、
「ちょ、ひどいにゃん! このウチの子になりたいにゃん!」"
とほざいてきたので、無言で一分ほど見つめてやった。
すると徐々に顔を真っ赤にして、その場から逃げ去っていった。
しまったな、動画に撮っておけば良かった。
0067
友人Bは獅子吼さんとふたりきりだとやたらと年上ぶった振る舞いをしている。
小柄童顔のあの子としては、自分より幼く見える獅子吼さんはスーパーレアらしい。
実年齢は獅子吼さんの方が上であるのだが。
0068
獅子吼さんとプリキュアの劇場版を観に行った。
きゃっきゃとはしゃぐ獅子吼さんを見て、チュロス売りのおねえさんが、
「かわいい妹さんですね」
と声をかけてきたので、「でしょう?」とにっこり頷いておいた。
獅子吼さんが「えっ」という顔をしていたが、もちろんスルーした。
0069
ドラマや映画でベッドシーンに入ると、獅子吼さんは途端に静かになる。
そしてソファとか腕に顔をおしつけて、映像が目に入らないようにする。
そういうときは「どうしたんですか?」「大丈夫ですか?」「顔真っ赤じゃないですか?」「具合が悪いんですか?」と、しつこく問い詰めることにしている。
0070
ときどき、獅子吼さんにのしかかられて、ゆさゆさされながら起こされることがある。
寝たふりをしていると、布団を剥がされ、くすぐり攻撃にあう。
それでも寝たふりをしていると、私の横で丸まって、剥いだ布団を掛け直し、一緒に眠りはじめようとする。
それで過去、何度も講義に遅刻している。
0071
昼、学食において。
友人Bが隅っこでぽつんとお一人様でいるのを見つける。
何となく声をかけず遠目のまま、お昼ごはんを一緒しないかラインを送ってみると、それを見てパッと顔を明るくする。
しかし返ってきたメッセージは「まあ、どうしてもっていうなら、ご一緒してあげてもいいですよ」だった。
じゃあ、別にいいやと返すと、非常に悲しげな顔になり、しばらく経ってから「そうですか」とメッセージが返ってきた。
落ち込んだ様子の友人Bの隣の席に自分の食事を持って座り、いったいどうしてそんなに落ち込んでいるのかしつこく訊ねると、顔を赤くしてむくれてしまった。
0072
獅子吼さんのおかあさんの一人称は「わらわ」である。
日本語を勉強している時期に時代劇(大奥系)にはまり、混ざったらしい。
以来、気に入っているのか、使い続けているとのこと。
ああ、獅子吼さんのおかあさんだなあ、と思いました。
0073
とある日の獅子吼さんとお母様のLINEでのやりとり
獅子吼ママ『さいきん、おとうさんがかまってくれなくて、さびしいです。わらわに何かたのしくなる話をしてください』
獅子吼さん『我、身長、去年より一センチ伸びた ヾ(*´∀`*)ノ』
獅子吼ママ『 (*´∀`*) 今晩、おとうさんと乾杯します』
0074
獅子吼さんちのLINE集
獅子吼ママ『近所で新しい子を発見しました!』
(塀の上で丸まる黒猫の写真)
獅子吼さん『かわいい』
獅子吼ママ『かわいいです』
獅子吼さん『我も新しいの見つけた』
(猫耳をつけた友人Aの写真)
獅子吼ママ『おとうさんにうちで飼えないか訊いてきます
だめでした(´;ω;`)』
獅子吼さん『(´・ω・`)』
0075
獅子吼さんちのLINEシリーズ
0076
獅子吼さんちのLINEシリーズ
0077
専攻内の飲み会があった。
友人Aが、ひとつ年下のさわやかイケメンくんから頻繁に声をかけられて、大変に挙動不審になっていた。
マジウケる。
とりあえずお持ち帰りはされなかった模様。
0078
友人Bが同学年数人に「かわいい!」「かわいい!」と寄ってたかっていじられ、「なに!? 何なんですか!?」と顔を真っ赤にしてぷるぷるしているのを目撃する。
だが、そいつらはわたしを姿を目にすると、さっと表情を変えて、あっという間に逃げ去った。
「狩られるッ」とか、何なんだあいつら。
0079
帰宅して、リビングのソファでバラエティーを鑑賞していたところ、あとで帰ってきた獅子吼さんがまっさきにわたしのところにやってきて、膝の上にすわった。
そして、わたしの胸に後ろ頭をうずめながらこちらを見上げて、「へへっ」とはにかむのだ。
んもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!
0080
理性こそが、人を人たらしめているものである。
理性を失った人は、ただの獣である。
0081
Q 獅子吼さん<友人B<わたし<友人A
A 身長(実測)
Q 友人B<友人A<わたし<獅子吼さん
A 戦闘力(推定)
Q 獅子吼さん<友人B<友人A<わたし
A ???
獅子吼さん「我もな、いずれはな、おっきく……」
0082
友人A「あああだめだあああ掛け算したい掛け算したい掛け算したいんだよおおおお!!!」
獅子吼さん「こいつ、狂ったのか?」
わたし「知らなかったんですか?」
友人B「狂ってるというか腐り落ちてるというか」
拗らせ過ぎである。
0083
いつものメンバーで、古びた、というより雰囲気がある行きつけの喫茶店に行ってきた。
獅子吼さんや友人Bもブラックが好きで、四人してクッキーをつまみながらまったりとした時間を過ごした。
途中、注文せずとも獅子吼さんが大好きなパイの実を使った裏メニューが出てきたが、いつものことである。
0084
もしも世界が百人の獅子吼さん村だったら。
おそらくそれは『完全』と呼ばれるものであり、
おそらくそれは『無欠』と呼ばれるものであり、
――つまりは、神である。
0085
久しぶりに記憶が飛ぶまで飲んだ。
朝方目覚めると、友人Aが軽く寝ゲ○していたので、撮影しておいた。
寒かったのか、獅子吼さんは友人Bと抱き合って丸まっていたので、こちらもパシャリ。
両者を見比べて、思う。
世の中とは、ここまで不公平なものだったろうか……?
0086
本日、学内を歩いていたときのことである。
肩を組んで顔を寄せ合って仲良くスマホを覗きこんでいる男子学生ふたりを見つけた獅子吼さんが、突然顔を赤らめて「お、おとこ同士で……」と呟いているのを見て、友人Aのアパートに乗り込んだ。
逃げ出そうとした奴を捕まえて、小一時間説教しておいた。
獅子吼さんに変な知識を教え込むんじゃないと、何度言えば理解するのか。
0087
基本的に、いつものメンバーは酒が入ると獅子吼さん以外は面倒くさい状態になる。
そういうときは普段と立場が逆転して、みんな獅子吼さんに面倒を見られるので、ついつい甘えてしまう。
みな一度は膝枕された経験がある。
あれがこれでそうなって、さらに母性もあるとか、全能というしかない。
0088
マンション前で、獅子吼さんが地面に四つん這いになりお尻を高く上げてふりふりしながら、猫と見つめ合っていた。
ご近所さんが、「あらあら」と微笑ましいものを見る目で通り過ぎていくのを横目に、あらゆる角度から撮影しておいた。
わたしも同じ目で見られていた気がしなくもないが、後悔はない。
0089
獅子吼さんが学食で食事していると、あっという間に周囲からのおすそ分けで器がうまってしまう。
獅子吼さん「我、こんなに食べられない……」
友人A「仕方ないわね、半分食べてあげる」
獅子吼さん「ありがとな!」
でもね獅子吼さん
そいつ、金欠だからそれ目当てでやってきてるんですよ。
0090
「今日は学校いきたくない!」
獅子吼さんが駄々をこねたので、わたしも自主休講して、一日中部屋でごろごろしていた。
撫でくり回された獅子吼さんも喉をごろごろ鳴らしていた。
あやうく、このまま一、二年ぐらいはこんな感じで留年しても良いんじゃないかと決断するところだった。
魔性である。
0091
友人A「つくづく思うんだけど、あんたの外見って詐欺よね」
友人B「です。上品で物静かで清廉潔白って感じですからね」
つまり実際は下品で騒がしく腹黒だと思っているわけだ、と笑みを向けると、顔を青くして言い訳を始めたので、わたしが持っていない獅子吼さん動画・写真で手を打ってやった。
0092
お犬「わふわふ、わふっ」
獅子吼さん「わんわんめ! このわんわんめッ!」
お猫「なーぅ」
寝転がるゴールデンレトリバーの上に獅子吼さんが寝転がり、さらにその上に子猫が寝転がる。
わたしは自然の奇跡を目のあたりにした……!
0093
獅子吼さん「ふーん、ふふふーん」
わたし「ごきげんですね。何か良いことあったんですか?」
獅子吼さん「もうすぐクリスマスだからな! サンタさんからプレゼントもらえる!」
わたし「……ちなみに何が欲しいんです?」
獅子吼さん「ツァールスカヤ!(ウォッカ)」
とりあえず獅子吼パパさんへその旨メールで伝えておいた。
ついでに、今年は無断で侵入して来ないように、とも。
去年は、危うくパパさんのパパさんたる所以を再起不能にするところだった。
別に宅配でもいいだろうに。
子煩悩が過ぎるのも考えものである。
0094
パパさん『ところで、妻も子も酒豪で、夕食になるといつも彼女らに酔いつぶされる私は、この年末年始いったいどうしたら』
わたし『少なくともそれはお子さんの友人たるわたしに相談するようなことではないですよね? そこのところ、わかってます?』
パパさん『は、はい』
わたし『とりあえずこのメールはママさんに転送しておきますので、ご夫婦の間でじっくりお話されてみたらいかがでしょう』
パパさん『ちょ、』
昨日の、獅子吼さんパパとのやりとり。
ママさんの了承を得たとはいえ、連絡先を交換したのは早まったかもしれない。
0095
宅飲みをして酔いつぶれたあと深夜に目を覚ますと、ときおり獅子吼さんがベランダで葉巻をふかしていることがある。
昨夜は加えてブランデーをおともにしていた。
月を背に佇み、憂い顔をみせる姿はとても幻想的で――。
獅子吼さん「ココナッツサブレはどうして小分けになってしまったのか……」
気のせいだった。
0096
「さびしい……おうちかえりたい」
人肌恋しい季節になったのでそろそろかなと考えていたところ、やはり今年も獅子吼さんがホームシックになる。
もうすぐサンタさんからプレゼントもらえますし、何より年末年始の帰省も近いんですから、ね、と宥めるも、なおグスグスしていたので、リミッターを解除して、一晩これでもかというほどたっぷり構って甘やかしてあげたところ、今朝にはころっと元気になっていた。
友人B「ちなみに、どんなふうに甘やかしたんです?」
猫にやったらストレスでハゲる感じかなと言うと、妙に納得していた。
0097(クリスマス)
今日も今日とて、いつものメンバーで宅飲みである。
若干二名、大荒れである。
友人A「いい感じの時間になったら、予定あるって言ってた奴らに絶え間なく連絡しまくってやる……」
友人B「滅びの美しさを、おしえてやるぞ……」
獅子吼さん「(*'ω' *)サンタサン…キテクレルカナ…」
(深夜)
???「あの……来ました」
わたし「はい。どうも。それで?」
???「えっ。いや、その、中に入れてくれたら有り難いな、と」
わたし「……みんな寝てるんで静かにしてくださいね」
???「え、他の子もいるんですか?」
わたし「嬉しいですか? テンション爆上げですか? ママさんメール案件ですか?」
???「いやいやいや勘弁してください。去年は本当に大変だったんです」
わたし「自業自得ですよね? あとちょっとで通報してましたからね?」
???「その節は大変ご迷惑を……」
そんな一幕があった。
0098
友人A「なんか夜更けにトイレに起きたら、サンタさんが居たんだけど」
友人B「私も目撃しました。どうみても日本人」
獅子吼さんち担当のサンタさんが……と説明すると去年の顛末を知っている二人は察してくれた。
獅子吼さん「(*'ω' *)サンタサン、キテクレタ…ワレ、コトシモ、イイコダッタ」
0099
獅子吼さん「きゃいきゃい」
男子学生「ひゅ、ひは、ひゅうっ」
また獅子吼さんが男子学生に肩車されて学内を走り回っているのを目撃する。
現在の野郎どものカーストは、どれだけスピードを出せるかで決まっているらしい。
必死過ぎて引く。
0100
肩車獅子吼号。
それまで不動のナンバーワンだった陸上系の部のやつが、最近参入してきた新人に首位の座を奪われていた。
しかも獅子吼さんが「○○よりはやーい!」と言っているのを聞いて、その場に崩れ落ちていた。
なにやってるんだ、こいつら。
……獅子吼さんを肩車するぐらい、わたしにだってできる。
できるんだからな。