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雇われ魔王の奮闘記  作者: 茉莉花
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魔王様、おかしな収支報告書にドン引きする

 花も恥じらう現役女子高生・山田花子16歳。

 異世界魔界市魔王城で、魔王様のアルバイトを始めて早三か月が経過しています。

 毎日お耽美でオネエ様なしろすけから素敵極まりない叱咤激励を受け、むっつりくろすけにお菓子を奪われたり餌付けされたりな日常にも慣れましたとさ~。

 主な仕事は、しろすけから渡される書類の決裁なわけだけど、世間知らずの女子高生が内政チートなど持っているはずもなく、当然訳わからん状態に陥ると危惧していたのだけれど。

 実際の書類を見て、箱入り女子高生は驚いた。

 貧乏女子高生の家計簿は、とにかく1円単位まで細かいのに対し、ここはとにかくザル。ザルだ。


 ●税収・・・・・・・・・・・・・30万

 ●供物・・・・・・・・・・・・・1億8千

 ●魔王城管理費・・・・・・・・・-100万

 ●直轄地管理費・・・・・・・・・6000万

 ●異世界管理費・・・・・・・・・3000万

                        以上


 これ、今月の収支報告書。

 普通に考えたらおかしい金額だけれど、しろすけはこれで普通だという。

 むしろ「供物増えましたね。良い傾向です」とほくそ笑んでいる。

 税収は、魔界の三大貴族が納める土地から各10万。安い!

 魔王城は良いものを魔王様に使って貰うための経費だけ。それこそ要らなくね?

 なんと魔王城、魔王様とそこに住み働く魔族から魔力を吸収して維持されているので、建物管理費は一切いらないというエコ。

 直轄地管理費は魔王様が管理している土地だけど私は全く関わらず、しろすけにおまかせした結果、収支は黒字だ。

 異世界管理費も、私の住む世界から技術や文化を取り入れることで、収支黒字。

 さて、問題は供物。

 この恐ろしい金額は何かというと、個人から魔王様への貢物だ。

 腐っても魔族の皆々様は基本「欲しければ奪っちゃえばいいんじゃね?」なので、人間界や天界へ突撃して、ひたすら魔王様へ貢ぐというドエムも真っ青の奴隷気質で、ドン引き。

 喧嘩売るなよ!と命令した後は、魔族お得意の色仕掛け詐欺(当人達は自分達の属性を使ってお願いしているだけらしい)や異世界からの技術や文化を貪欲に取り込み、言葉巧みに(時々実力行使で)上手に商売し始めた。

 それを貯蓄に回すこともなく、娯楽に費やすこともなく、ひたすら魔王様へ捧げる。

 まぁね、魔族は基本低燃費でエコドライブだ。

 魔王様が存在するだけで、魔王城から魔族全員に魔力供給が行われるため、嗜好で嗜むことはあっても三食必要としない。

 土地の整備などの土木も、魔力もしくは力自慢が素手でやってしまうので安上がり。

 じゃあやっぱり軍事かと思いきや、基本戦い大好き!魔王様大好き!な種族なので、魔王様の一声で全国民が軍隊へ早変わりするのだ。

 防衛にしても、凶悪にして新しい文化を持ち込む魔族に喧嘩を売る人達は国境付近のみで、国境に住む魔族が遊びがてら排除してしまう。

 で、持ち込みされた武器と所持金は全て回収されて供物になるのだから、そりゃ黒字だわな。

 そんな国境に住んでいるのは、好戦的で享楽的な我儘竜族。

 三大貴族でもある彼らは光モノ(武器が天界で採れるキラキラ鉱石らしい)を持っている天族をひたすら追い回すそうで、天族は竜族を見ると真っ青で逃げ出すそうな。

 人間に至っては……プチッ。

 だから嫌われるんだよ、おい。


 「でもさぁ、これってやっぱおかしいよね。私は人間だから魔力なんて無いし、カリスマも無いんだから、供物ってありえない」


 収支報告書をぺちぺち叩きながらしろすけに言ってみたことがある。

 こっちの世界の人間は捕食の対象で、殺戮の対象で、ただ異世界なだけの人間にペコペコするのはどう考えても変。

 しかもバイト始めたばかりで魔王様らしいこともしていなければ、戦いたいという本能を抑え込んでしまっているのだから、むしろ恨まれるんじゃね?と不安に思うこともあって、夜はしばらく警戒していて、くろすけに寝ずの番をさせていた。

 最初なんてさ、続々侵入してくる色魔達に殺されるのかと思ったら、別の意味で危険でヤバかったヨ!


 「陛下の世界における魔族の印象はわかりかねますが、こちらの世界の魔族は純粋な鏡なのですよ。悪意には悪意、好意には好意を。陛下が慕われるのは、こちらの世界の人間と違い、魔族を厭っていない。ですから魔族もまた、陛下を歓迎しております」


 「……そっか」


 ニンゲンノホウガコワイヨ。


 金のために子を売る親。

 鳥の骨みたいなカスカスでボロボロな人間を、まともに扱ってくれるクラスメイトはおらず(別のクラスには貴重な変態が1人いるけど)、むしろ蔑む対象にされかけた(変態のお陰で助かったけど)。


 テヲノバシテモフリハラワレルダケ。


 「魔族ってさ、ドMで馬鹿だけど嫌いじゃないよ」


 「光栄でございます」


 何だかムズムズして、全身が水虫みたいに、落ち着かないだけで。

 頭をナデナデされても、嫌じゃなかった。







 仕事が終わると、くろすけ、しろすけと一緒にご飯を食べる。

 魔族にとっては魔王城からの魔力が一番のご馳走らしいけれど、味覚はあるから一緒に食べてくれるのだ。

 鶏がらだった私は栄養豊富な食事のお陰で、人間らしい肉付きなってきた。

 何かさ、食事ってただお腹が空いたから食べる、動くために食べなければ、と義務感が多少あったけれど、ここに来て、楽しいものだなぁと思いつつある。


 「これも食え、バイト陛下」


 「あんがと」


 最近、くろすけはよくご飯を取り分けてくれるようになった。

 出会い早々に意地汚く奪われたけれど、鶏がらから奪うのが哀れだと気付いたのか、食べきれないくらい取り皿に乗せてくる。

 魔族の食事マナーはほぼなく、食べたいものを食べたい分だけ~という欲望のままにブッフェスタイルだ。

 だから1か月で100万も出費があるんだよ!と突っ込みどころはあるものの、残れば他の魔族達が食べるそうなので、文句は言わないでおく。


 「陛下、本日は食後に残業をお願いしたいのです。残業手当は2割増しと致しますが、宜しいでしょうか」


 「んぐ……いいけど、何すんの?」


 しろすけに問答無用で口元を拭われ、お茶を渡される。

 ママ健在だな、オネエ様。


 「天族から使者が。陛下即位を慶賀するとのことですが、目障りですから潰しましょうか」


 「いや、待って!会うから!殺意ダダ漏れだからやめれ!」


 「そうですか?残念ですねぇ」


 大変残念そうにため息を吐きながら、しろすけは迎える準備をするために退室した。

 残された私はくろすけからデザートの給仕を受ける。

 この食い意地の張った将軍様、刃物の扱いは一級で、果物は繊細かつ綺麗に、ホールケーキは美しく上品にカットして盛り付けるのだ。


 「天使って、どうなのさ。人間には優しいって言っていたけど、私はバイトとはいえ魔王だしなぁ。敵の本拠地で襲ってこないよね?」


 魔法で冷やされたカクテルグラスに盛り付けられた極彩色のフルーツへ、バニラアイスを添えて完成だ。

 薔薇の形にカットされたフルーツをむさぼる。甘酸っぱくてうまい。


 「それに、何でこんな時間?確かに日中は学校あるから仕方ないけど。あーもー【王様セット】着るのダサイからやだなぁ」


 グチグチ言いながらデザートを完食すると、【誰でも簡単☆王様セット】を着付けして貰った。

 予想以上に几帳面なのか、キッチリ丁寧に着付けするし、髪のセットまでしてくれる徹底ぶり。


 「バイト陛下。天族は己の架した規律を違えることは無い。規律から外れた者は堕天とされ、天界を追放されるからだ。追放された天族は翼を捨て人族として生を全うするか、魔族へ成るか。その多くは人族へ転じ命を落とす。それに謁見の間には三大貴族と連なる者達、陛下の両側には俺と白が控えるから、何も心配いらない」


 うわぁ、天族ってどんだけ潔癖でめんどくさい生き物なんだ。

 そこまでする必要は無いと思うけど、魔族もちょっとは見習った方がいいかもね。


 「頼りにしてる。ま、天族の天敵である竜族がいるなら、よっゆー!」


 とまぁ、タンカ切ったわけだけど。

 ちょっぴり手が震えていたのは内緒……のはずが、バッチリくろすけには伝わっていた。


 「大丈夫だ。俺達が守るから。俺達の……小さな魔王陛下」


 大きな手で包まれて、魔族でも手が温かいのか、と感動してしまった。

 両親と手を繋いだことは無いけれど、たぶんこんな感じなんだろうなぁ。

 「親父……」と口ずさんだら、チョップを食らった。

 魔王陛下の威厳レベルゼロだな!おい!







 「魔王陛下におかれましてご機嫌麗しく。身が名はエル・ローディル。神の祝福と慶賀致したく、参った次第。友好的な人族の魔王陛下の即位、言祝ぎ申し上げる。人族は我ら天族の庇護あっての存在。下賤の管理を弱き身でするのは大変なこと、いつでも申し出なさい」


 マジでブチ切れちゃいそうな、瞬間の5秒前。








 

 あけましておめでとうございます。

 不定期更新にも関わらずブックマークありがとうございます。

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