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雇われ魔王の奮闘記  作者: 茉莉花
20/22

魔王様、魔族の生まれを知る

 それは、表層よりずっと深い、深い地底にあった。

 魔界そのものがどちらかというと地下イメージを持っていたけれど、それなら太陽が無いわけで、じゃあ人間界と天上界の境界線ってどうなっているのか全くわからない。

 ただ竜族の領地が国境付近にあると言っていたから、実際は同じ高さにあるのかも。

 蛇族領視察最終日。

 朝食を終えた私達は、最終目的地である【棺】の確認に来た。

 【棺】と呼ばれる、くろすけが封印した最初の3人のうちの1人がぐっすり眠っているのかどうかを確認するだけのようだから、別に魔王が行かなくても良さそうだけど。

 実際、魔王不在の時はくろすけがマメに巡回していたらしいので、今回は視察のついで感が大きい。

 ただ眠っているだけというのは、退屈ではないのだろうか。

 そう思いながら、長い階段を降りていくのだけど、もうかれこれ30分以上経過しているのにまだ着かない。

 帰りも同じだけの段数を登るのかと思うと、今から気が重かった。

 せめてさ、下りくらい滑り台作ろうぜ!


 「あ!扉だ。やっと着いた。ご到着だ。つ、疲れた」


 地面に座り込んでいると、しろすけがずれた王冠を直してくれた。

 首、めっちゃ痛い。

 学生で慢性肩こりなんて泣くから。

 軽量化の魔法を掛ければ軽くなりますよ~なんてしろすけは笑っていたけれど、生まれた時から魔力を使っている魔族と異なり、王冠に意識を集中すると他が疎かになってしまう。

 特に今回のように長い階段を薄暗い中延々降りるなんて、足元要注意で頭上にまで気を遣うなんて絶対に無理だ。


 「陛下、ここからは【棺】の領域です。けして【王様セット】を手放してはなりませんよ」


 そもそも、そんな危険な場所へ役立たずを連れてくる意味がわかりませんが!

 明日の私はきっと使い物にならない、いや、帰り道すら危険な気がする。

 生まれたての小鹿のように、足がぷるぷるして駄目だ。


 「私の屍越えて行け……」


 「何を馬鹿な事をおっしゃっているんです。ほら、行きますよ。よほど何か無い限り、観察して終了ですから」


 「さよか」


 腕を取られ無理やり立たされ、引きずられる。

 こういう時、魔王様というよりバイトの女子高生扱いな気がするのは何故だろう。

 威厳とか威厳とか威厳とか、そういうのが一切ない。


 「行くぞ」


 くろすけが重厚そうな観音扉を押し開く。

 ギギギと錆びついた音が体中に響き渡り、私はしろすけの陰からこっそり覗いた。


 「あれが【棺】だ」


 透明感のある薄紫の大きな水晶柱。

 その中に眠る、漆黒の人型。

 正確には、人っぽく見る何かだ。

 人間のように見えながら、末端は泥になりかけて形を成していない。

 長い睫に縁取られた瞳は今にも開きそうで、時折瞼が揺れる。

 そういえば、夢を見ていると眼球が動くってテレビでやっていた気がするな。


 「周りのこれは、何?」


 水晶柱を覆うように広がる白樺のような白い大樹に生る実はほのかに光っており、照明が無くても空間を優しく照らしていた。


 「魔族の【胎樹】です。魔族は大変長命のため絶対数が決められています。戦などによって突発的に命を落とすと、核はこの【胎樹】へ還り、実の中で泥をまとい生まれ出でます。生まれる時はこの【棺】の空間から3種族の長が管理する【揺り籠】へ転送される仕組みですね。死した肉体は砂となり泥へ還り、核は胎樹へ還る。魔族の命の営みとは、この繰り返しです。魔王城にもありますから、機会を作って見学致しましょうか」


 「還るって、こういうことか」


 先に移動用の馬車へ行って貰ったグレー君を思い出す。

 さすがにここへ連れてくるのは2人に強く反対されたため、移動用の馬車に待機中だ。

 どうやら自分で結界を作れるようになったらしく、大人しく待って貰っている。

 何かさ、成長してくれて嬉しい。


 「親子の概念ってあるの?夫婦とかさ」


 「ございますよ。実から生まれた子は一族の子として大切にされます。希望する夫婦に抽選……いえ、選別して渡します。不具であった場合は、希望者がおりませんので廃棄処分です。今回のように逃走して生存するのは稀でしょうね」


 「そういう言い方嫌いだし、考え方も好きじゃない。でも、私は魔族のルールを変えられるほど責任を持てないから、やめろとは言えない」


 廃棄処分、という物扱いの言葉が悲しく突き刺さる。

 でも、これが魔族の命の循環であり、永い時間それで通っているなら、すぐ変えろというのは無理な話だ。

 人間同士でも理解しあえないことは沢山あって、それが種族や世界も加われば、ほぼ理解出来ないことは多いんだろうなぁ。


 「陛下が可愛らしくおねだりして下されば、私共はすぐにでも変えましょう。我らは常に魔力の恩恵を受け、陛下に絶対的な敬愛を持つ種族です。陛下の御心に喜んで従います」


 「それじゃあ駄目なんだよ。言われたから従うんじゃ、駄目。そんな事言ったらさ、私の後に来る魔王が変態だったらどうすんのさ。変態の言うまま従ってたら、変態が量産されるじゃんよ」


 そう、魔族は鏡。

 特に魔力の味付けという感情に影響を受けやすい魔族にとって、魔王候補は慎重に選ばないと危険だ。

 万が一、好戦的な人が魔王になったら、人間界や天界へ喧嘩売りそうで怖い。

 だから戦争を知らない安穏とした日本人の若者に白羽の矢が立った、確かそう聞いた。


 「では、そうならないように陛下が在位し続ければ宜しいのです。私達のことがお嫌いですか?人間が理解しがたい愛情の形もございますが、我らは我らの愛をもって陛下を頂きます」


 手を取られ冷たい唇が触れる。

 世の女子が黄色い悲鳴を上げそうなタラシ行動なんだろうが、私の女子高生回路は死んでいるらしい。

 この愛を囁く姿に胡散臭さしか感じないって、女子として終わってるかもしれん。


 「問題なさそうだから、そろそろ行くぞ。あまり長居すると、蛇共がうるさい」


 「そうですね。では参りましょう、陛下」


 「おー……ん?」


 2人の後を追って部屋を出ようとした時、視線を感じた。

 でも、周囲を見渡しても、水晶の中に眠る人も含め、視線の主が誰かわからない。

 そこにあるのは、大きな白い大樹に見守られる実と水晶だけの、幻想的な空間だけ。


 「ま、気のせいかな。うん」


 何かあったら2人が気付くだろうし、私は気にしないことにした。

 気にしても、どうにもならないさ。


 「ところでさ、また同じ距離登るの?私、すでに死にかけ……ぐえっ」


 正当な訴えをしている途中でくろすけに担がれた。

 お姫様抱っことは言わないけどさ、その怪力っぷりで片腕にひょいとのっけてくれればいいのにさ!

 荷物を担ぐ要領で肩に乗せられたので、腹が潰れる。

 腹肉がないから骨への負担が大きい。


 「お前な、もっと食え。抱き心地悪すぎる。蛇族の女見ただろ。あそこまで豊満になれとは言わないが、もう少し女らしく肉つけろ」


 「これでも少し太ったんだ。ジョシニフトレトカサイテーセクハラハンターイ。胸はこれから育つんだよ。まだ16歳に大人女子の色気を求めるなっつーの」


 そもそも満足にご飯が食べられなかったのは、借金まみれの馬鹿親父のせいだ。

 胸が育っていないのは、まだ発展途上だからだ。

 そりゃね、元から魔族の皆さんお美しーし?大人の色気ムンムンで艶やかな皆様だったけど?

 人間の子供にそれを求めんじゃねーよ。


 「吐きそう」


 くろすけの肩の部分に私の腹があり、当然頭は下。

 血が上って頭痛いし、王冠重いし、吐き気までしてくる。


 「2人ともいつまで遊んでいるのです。早く出立致しますよ」


 しろすけがくろすけから奪還してくれた。

 ひょいと片腕に抱えてくれたので、首に手を回して、体を固定する。

 普通なら絶対に拒否する所だけど、この延々と続く階段を登る気力なんて微塵にもない。

 背に腹を変えられないとはこのことだ!


 「そういえばさ、次ってどこ?今度は、もう少し気楽に行ける所がいいなぁ」


 「魔力供給の問題もありますので一度魔王城へ帰還致しますが、次は先日も行った竜族の領地です。彼らは好戦的で光物を好みますが、基本は陽気な性質ですから軽い気持ちで問題ありませんよ」


 「ショッピングモールすごかったもんね。海、楽しかったぁ。来年も行こう。魚食べてー、貝採ってー、バーベキューしたいじゃん」


 なんだかんだ言って楽しかった海。

 勇者が来なければ、もう少し遊んでいられたんだろうなぁ。

 でも、勇者可愛かった。可愛すぎた。

 メロメロ陥落直前だったけれど、「太もも」発言のオッサン発言で我に帰れたのだ。


 「笑ったな、馬鹿女」


 笑ったのはお前だ、とつっこみたい。

 笑うくろすけを見ていたら、胸がムズムズする。


 「また来年!おやすみー」


 照れくささを隠すように、水晶に眠る人に手を振った。







更新遅くなりました。

3月から多忙となりまして、予告どおり不定期となりますのでご了承下さい。

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