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雇われ魔王の奮闘記  作者: 茉莉花
17/22

魔王様、領地視察を始める

 最後の神様から意志を貰ったくろすけは、しばらく神様と人間の住む世界をうろついたらしい。

 しかし、天族の庇護を受け心酔する彼らにとって、くろすけはあまりに異端で排除すべき対象に映ったそうだ。

 天族と人間に追われ生きる場所を得られなかったくろすけを哀れに思った神様は、血と肉を使い、魔界と魔王城を生み出した。

 ちなみに、この時の天族とは堕天前のしろすけ、器を捨てた神様の真相は天族の神様から逃げるためというオチ付きだ。

 生きる場所を手に入れても、意志を持った瞬間から孤独を知ってしまったくろすけは、3体の魔族を生み出した。

 それらはさらに多くの仲間を生み出したが、結構病んでいたくろすけが作ったために精神のバランスがおかしく、天界や人間界に幾度と戦争を仕掛けるだけでなく、自分達以外の生命そのものを排除する傾向にあったらしい。

 悩んだくろすけはその人達を水晶に閉じ込め、3か所に埋葬した。

 その埋葬地を守らせたのが、空の王者竜族、地の王者巨人族、海の王者蛇族。

 めんどくさいから、戦わせて強かった順番に役割を与えたらしい。

 後に三大貴族と呼ばれ領地を治めているのだが、基本は自由が好きな魔族。

 魔族として力の強い者ほど「魔王様」への忠誠心や供給魔力に左右されるのに対し、力の弱い者達はその拘束力が低いそうなので、きちんと統治されているわけではないそうだ。

 ただ、渡される収支報告書を見てもわかるように、末端魔族であってもやっぱり「魔王様ラブ」は浸透しているようなので、人間世界より統治や制度が緩くても問題ない。

 今回の出張は水晶の確認と、魔王即位したぜ!のお披露目を兼ねて視察するそうだ。

 出張前にそんな説明を受けながら紙に種族イメージ図のらくがきをしていたら、しろすけから残念な子を見る眼差しを向けられた。

 ひたすらビッチリ文字で埋め尽くされたものより、図を入れた方がわかりやすいじゃんよ。


 「夏なのに、雪!」


 そんな予習をした私は今、雪にまみれていた。

 魔王城の北、そこは蛇族が治める土地であり、領主の館は凍らない湖の中央にある。

 年中雪マークが取れない天候で、蛇は動けなくなるんじゃね?というもっともな質問をしたら、町や湖には温度調節機能付きの結界があるので無問題とのこと。

 じゃあ結界から出られないじゃん、と突っ込んだら、「自分で体温調節の魔法使えば出られます」とこれまた残念な子に見られた。チクショー。

 そんなムカ腹なやりとりはあったものの、水が豊富で火山はなくとも温泉もどきの施設は多くあるそうなので、自由時間を貰ったら行ってみたい。

 転移魔方陣での移動が一番便利で時短だとは思ったけれど、せっかくだから外から見たいとお願いして、オサレな空飛ぶ馬車でここまで来た。

 遠くから眺める街は、スノードームのような結界に覆われている。

 しんしんと降り注ぐ雪が、結界の表面に触れるとじゅわっと解けて消えていく。

 ミニチュアのような街並みはどこか和風ぽい、竜宮城ってこんな感じ?という雰囲気で美しかった。


 「陛下、そろそろ中へお入り下さい」


 「へーい」


 私はいつもどおり【誰でも簡単☆王様セット】を着用しているので、寒くは無い。

 膝丈まで積もる雪の多さにごろ寝したら、くろすけに無言で釣り上げられた。

 2人して、私をアホな子に見るとやめてくれないか。

 雪国と違ってさ、こんな大雪珍しいんだよ!しかも今は夏!


 「こちらには1週間ほど滞在致しますので、雪など見飽きますよ」


 「でも、珍しいよ。ほら!雪だるま」


 団子2兄弟に枯れ枝を突き刺すだけ。


 「ちょちょちょいっとね」


 魔法というのはとても簡単で、妄想もといイメージがそのまま形になって現れるのだ。

 魔力を宿し、それを形にする感覚は不思議なもので、【王様セット】の王冠と赤マント、杖がそれを教えてくれた。

 理屈で考えるのではなく、何となくそんな感じ、というのか。

 小さな雪だるまくんにチョイと魔法を掛ければ、あっという間に動き出す。


 「見て見て!雪だるまダンス」


 「馬鹿女、やめておけ」


 「あぁぁぁぁぁ!」


 ダンシング雪だるまくんは、くろすけに鷲づかみされ、蒸発した。

 なんと儚い命なのだ。


 「言っておくがな、蛇族はかなり危険だ。遊ぶ余裕はないぞ」


 「そうですね。彼らは魔族の中でも好戦的かつ狡猾的、油断しておりますと丸飲みにされますよ、陛下」


 「え。魔王ラブ効果ないの?それって不味くね?」


 沈黙が流れた。

 視線も外れた。

 まさかの肯定っすね。

 前途多難なまま、私達は蛇族の治める街へ向かうのだった。


「蛇族の愛は歪です。人間が思うものとはかけ離れていますから、危険なのですよ」


 そんなしろすけの恐ろしい発言を聞きながら。







 「ようこそお越し下さいました。魔王陛下のご即位、言祝ぎ申し上げます。此度は最初の視察を我らが蛇族が領地をお選び頂き、恐悦至極にございます」


 蛇族は、銀色だった。

 普通に考えたら灰色なんだろうけれど、常に体温調節の魔法を纏っているのか、キラキラと輝いているだけでなく、人間ぽい姿をしていても肌には鱗っぽい模様が所々見える。

 建物が全体的に和風なので、もしかしてそこに住む魔族もチョンマゲかと思ったら、フサフサで何より。

 ゆったりと、熱帯魚のようにヒラヒラしたものを幾重にもまとった衣装は、本当に竜宮城のように幻想的だ。

 しろすけの耳打ちによると、人間の姿を取っているけれど、時と場合で巨大な蛇へ変化するそうだ。

 「陛下、丸飲みにされてしまいますよ」と笑いながら教えてくれなくても良かったよ、おい。

 私は上座から一番偉い長という人を見降ろしながら、とりあえずしろすけが何か言うだろうという甘い考えて黙ってお祝いの言葉を聞いていた。

 何故なら、私が口を開けばお馬鹿丸出しになりそうだから!


 「陛下、即位式には吾も馳せ参じましたが、覚えて頂いておりますでしょうか。あの日の陛下は至宝の如く頭上に輝き、その優しき魔力にて飢餓を満たして下さいました。尊き御身を歓待出来ますこと、血族の誇りと致し____________________」


 「ねぇ、まだ終わらないの?」


 上座は数段高くなっているし、重たいカーテンみたいなのがあって、私は見えても相手からは見えない状態なので、くろすけからお茶とお菓子の給仕を受けて飲み食いしてもばれない。

 延々続く話に聞き飽きて、お尻が痛くなってきたから立ち上がってストレッチする。

 いや、普通はすっごく失礼なことだよ?

 相手が懇々と話しているのに、それを聞かずに暇つぶししているなんてさ。

 でも、もう1時間以上経過していると思う、これ。

 なのに終わりは見えず、相手の興奮は高まるばかり。


 「もうさー帰ってのんびりしたいんだけど、無理?」


 「無理ですね。蛇は長話を好みます。しかし、それを聞き流して同意しようものなら、不利益な契約は発生しかねません。今はひたすら無言で耐えるのみです」


 つまり、木を隠すなら森の中。

 大事な事や騙したい事も、長話の中に織り交ぜて隠してしまう。

 うっかり「あーはいはい」「おっけー」なんて言ったら、自分が何の了承をしたのかわからなくなり、相手の思うつぼ。

 相槌大好き日本人は危険だ。

 蛇族の人、見た目は華奢で優美なのに、毒を孕んでいるとはさすが蛇というべきか。


 「城内とか水晶見学したら、もうさっさと次に行きたい」


 「そうは参りません。いずれも陛下からの恩寵を賜りたく、少しでも長く滞在されることを願っております。どこかで滞在日数など偏りますと、均衡が崩れる可能性がございます。これも陛下の御役目と思って我慢なさって下さい。私とて、蛇ごときの戯言、耳にするだけで苦行なのです」


 「そうだよね。一緒にいてくれてあんがと。私だけだったら居眠りしてたわ」


 お腹も膨れ、ただひたすら暇つぶしをする。

 私はまだお茶飲んだりお菓子食べたり、椅子の上でゴロゴロしたり、それなりに気を紛らわせることが出来るけれど、しろすけとくろすけは忠臣のごとく立っていなければならない……って。


 「くろすけ、何してんの」


 しろすけは一応まともにしているのに、くろすけは私が座っている椅子の背もたれに隠れて、お菓子を摘まんでいた。

 なんだかんだ言って、最初の魔族なだけある。


 「バイト陛下。ここでは絶対に【王様セット】を脱ぐな。蛇族は薬学に長けている上に、知能犯だ」


 「おや、また性懲りもなく催淫剤を混ぜ込んでいるのですね。無意味と知りながら、よくもまぁ。茶葉と焼き菓子を持参して正解ですね」


 「さいいんざい?なにそれ」


 くろすけが指をペロリと舐めながら、満足そうにお茶を飲み干す。


 「性欲を著しく増長させるものだ。俺には効果無いが、下位魔族や人間は飲めば確実に理性を失う。【王様セット】を着ていればお前でも問題ないだろうが、万が一を考えて、蛇族から出されたものは食うなよ」


 魔王ラブ効果じゃないのに、狙われるということは、おそらく権力目的なんだろうなぁ。

 なんだかんだいって魔族は自由で好戦的、楽しいことなら何でもやっちゃえ!って感じがベースらしいので(理性と冷静が無いのか)、魔王だから身の安全が保障されているとは限らないのだ。

 そんな所でも魔王として滞在しなければならないし、あと2か所も周るのかと思うと気が重い。


 「陛下、そろそろ終わりますから、退室致しましょう」


 「わかった。やっとかー。長かったー」


 下位の者が退室する場合は上位の許可が必要になるのに対し、魔王様は一番上なので許可を必要としない。

 謁見用の御簾よりさらに分厚い暗幕のようなものを降ろすと、魔王様退室と伝わるらしい。

 じゃあ最初からそうしろよ、と言いたいが、蛇族の執念は恐ろしいもので、最初の発言を中断させると、後で何倍にもなって帰ってくるそうなので、とにかく最初に語りたいだけ語らせておけ作戦だそうだ。


 「つっかれた。でもここも疲れる、なんだこれ」


 早々に退室して案内されたのは、魔王様専用のお部屋らしいのだが。

 赤を金を基調にしたであろう豪華絢爛ギラギラする部屋は、とにかく落ち着かない。

 唯一感動したのは畳だけれど、浴衣っぽい寝間着から布団まで悪趣味なセンスで、居心地悪すぎる。

 金縁の寝椅子に座ってみたものの、くつろげないのは私だけではないはず。


 「今宵は陛下にゆっくりして頂き、明日から予定が秒刻みです。午前は領地内視察、昼食は蛇族の長と会食、夜は晩餐会が開かれます。立食式ですので、陛下はいつもどおり上座でゆっくりなさっていて結構です」


 「ほいほい、頑張ります」


 これから蛇族の長と話をするというしろすけを見送り、私とくろすけだけになった。

 今日だけはダラダラして良いそうなので、その辺を散策したいとお願いしたら、渋々了承してくれた。

 幸い、魔王専用室には庭園が隣接されているらしく、そこは誰も来ないとのこと。

 しかも!露天風呂があるそうだ。

 くろすけが侵入防止の結界も張ってくれたので、私は着替えを持って庭園へ向かった。







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