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第二十話:VS勇者~ざまぁ編

もうここまでで充分ざまぁしてるじゃないか、と思われる方は読み飛ばし推奨。

やめたげてよぉ!というくらいシーナが酷くざまぁされます。


「……っざけるな……お前はいっつもそうだ、イイ子ちゃん面して俺に意見しやがって……俺は勇者なんだ、俺は選ばれたんだ、神に!チートな力だって持ってる!俺を好きだと言ってくれる子だって沢山いる!二度も捨てられたお前とは違うんだ!」


 彼らは捨て子だった。

 椎名は不倫の子として生まれて、海斗は施設の前に放置されて。

 親に見捨てられた子、可哀想な子、そう言われ続けた椎名は時にそれを武器にしながら寄ってくる女性達に甘え続け、逆に海斗は我関せずといった顔で極力人との関わりを断ってきた。


 椎名は海斗が羨ましかった、超えたかった、屈服させたかった。

 だから彼がまた数歩先に行ってしまおうとするのを引き摺り下ろすべく、音楽室に向かう途中の階段にワックスを塗りつけ、転んで怪我をするように仕向けた。

 もし打ち所が悪くて死んでしまったら……なんてことは、愚かにも考えすらしていなかった。

 ただ彼は、デキる幼馴染を見下したかっただけだったのだ。


 そうして、彼の望み通りピアノへの夢を断たれて意気消沈した海斗をじわじわと甚振り、嫌がらせを繰り返していたある日、全く知らない世界へと呼び出された彼は『勇者様』と呼びかけられて内心歓喜した。

 ついに、俺の時代が来た。

 ゲームなどで何度も何度も擬似的に言われてきた台詞を、今は自分が言われている。

 勇者様、どうか魔王を倒してください……そこに『魔王の妹』という付録がつけられていたことなどもはやどうでもよくなり、彼はこの世の春を謳歌すべく近寄ってきた女性達に狙いを定め、時に寂しさを、時に勇敢さをちらつかせて彼女達を次々と虜にしていった。


 ここへ来る前だって、立ち寄った町や村で『待ってます』と言わせた女性は数多い。

 残念ながら城は落ちてしまっただろうから、城勤めの使用人や下級貴族の娘達などは実家に帰ってしまっているだろうが。

 それでも彼を必要として、待っていてくれる人は大勢居るのだ。

 そしてここにも、危険を顧みずついてきてくれた可愛い三人の女たちが居る。




(そうだ……イリスはこの状態だしレイナは意外と使えなさそうだけど……まだナナがいる!)


 イリスは余計なことを言って罰を受けてしまったため、今は詠唱することができない。

 そしてレイナは、相手が魔族とはいえ王族であることに恐れをなしてしまい、先ほどからシーナが何か言うとそれをたしなめようとしてくる。

 それなら、と彼は大人しく出番を待ってくれている獣人族のナナを振り返った。


「ナナ、いけるか?」

「うんっ。いつでも大丈夫だけど……ねぇご主人様、ナナ本気出しちゃっていいかなぁ?」

「ああ。勿論だ」

「それならこの首輪、外して?そしたら全力で悪い子やっつけるから!」


 ナナが首につけている奴隷の首輪には、持ち主の力をある程度制御するという術式が組み込まれてある。

 奴隷といっても戦闘奴隷から性奴隷まで用途は様々だが、あまりにも力のある奴隷だと首輪自体を壊してしまったり、主を傷つけたりする可能性があるためこのような術式で制御している、というわけだ。

 特に獣人族は基本ポテンシャルが人族よりも遥かに高く、見た目小さく華奢なナナも相応に高い運動能力を誇っている。

 これまで何度か首輪を外してやったことはあった、その時のナナの大活躍を思い出しシーナはよしよしと解除の呪文を唱え、さあ行こうかとカイトに向かって剣を抜いて構えた、その時


「のわぁっ!?」


 ドン、と力いっぱい体当たりされた体はいとも容易くバランスを崩し、地に伏せた。

 剣だけは手放すまいとしたからか、ポケットから滑り落ちた首輪がまだ成長途上の少女の手によって拾い上げられ、パキリと嫌な音を立ててそれが壊される。


「あは。あはははははっ」

「……ナナ?」

「ありがとねぇ、ご主人様。これまでずっと窮屈だったんだぁ、この首輪の所為で。思ったように力は出せないし、ヤなこと一杯させられるし。でも、それももう終わり。ご主人様のお陰だよ?だからね」


 だいっきらいだけど、殺さないでおいてあげるね。


 そう告げて砦側へと駆け出していくナナの背中を、シーナはただ呆然と見送るしかできなかった。




「ナナ……なんでだ?俺と居るのが楽しいって、ご主人様が俺でよかったって言ってくれたじゃないか!」

「うん。だって、ナナに暴力振るったり人殺しさせたりしなかったでしょ?ちょっと変態的なことはさせられたけど……嫌がったら無理にはしないでくれたし。そういうとこはすっごく楽だったよ?」

「だったらなんで大嫌いだなんて…………あ、もしかして魔族に脅されてるのか?そうなんだな?家族を人質にとられて、それで俺を裏切るようにって。なんて酷いやつらなんだ……わかりあえるって信じてたのに」


 悲壮感漂う顔と声でそう告げるシーナ。

 怖がりもせず鬼人族の隣に並んでそれを見ていたナナは、堪えきれないといったように大きな声で笑い出した。


「あっはははははっ、ご主人様ってやっぱりバカだねぇ。ナナが旅の間ずうっとご主人様達の情報流してたの、気づいてなかったでしょ?」

「な、んだって?」

「これこれ。このパパからもらった腕輪が通信機になっててね、ここからご主人様達の行動は筒抜けだったんだよ」


 ナナは両親と人族の国に遊びに出た際、ふとしたことで攫われて奴隷商人に売られてしまったらしい。

 両親の訴えからそれを知った当代魔王は部下を派遣し、獣人を専門に扱っているその奴隷商人を完膚なきまでに潰して、一時はナナを含む全ての獣人達を救い出した、のだが。

 その獣人達に、彼は取引を持ちかけた。

 望みひとつを叶えるのと引き換えに、勇者の仲間としてこのクロイツェルに誘い込む役目を引き受けてくれる者はいないだろうか、と。


 富、名誉、異性、様々なものを望む声が上がる中、順番が回ってきたナナはこう言った。


『ナナ……あたし、は……魔王様に助けてもらいました。なのに勇者は、その魔王様を殺そうとしてるって……だったらあたし、勇者に復讐したい。仲間になって、裏切って、バーカって笑ってやりたい!』


 これを聞いたヒルデベルトはあまりの子供っぽさに思わず素で笑い出し、その場でナナに役目を言い渡したのだという。

 当然、ともすれば危険に晒されるナナの働きに対して『バーカと嘲笑う』だけでは報いられるはずもなく、ナナの両親や兄弟達の中で望む者は皆魔王城でそれ相応の役職に取り立てられ、魔王とその妹姫に忠誠を誓っている。


「陛下も姫様も、勇者には興味ないんだって。だから殺さないでいてくれるみたいだよ?良かったねぇ、ご主人様。……あ、()ご主人様かぁ」

「…………ナナ」

「そうそう、忘れてた。……騙されてたのはそっちの方なのにね、気づかないなんてほんとバーカ」

「!!」


 じゃあね!と元気に駆け出した犬耳の少女は、少し離れたところに心配そうな表情で立っていた壮年の男女に勢い良く抱きつき、甘えるように頬を摺り寄せている。

 感動の親子の再会に普段は警戒心剥き出しの鬼人族達も頬を緩ませているが……元々が厳つい顔つきのため、微笑ましそうというよりは揃って不気味な顔になってしまっているのが残念なところだ。




「………………てやる……殺してやる殺してやる殺してやる、お前ら全員殺してやるっ!!」


 髪はぐしゃぐしゃ服は泥まみれ、そんな格好のつかない姿でありながら、シーナは取り落としかけた剣をしっかりと握り直し、己の中の荒れ狂う魔力を剣に注ぎこんでいった。

 鈍い銀色に光っていた剣先が、みるみるうちに眩い朱金の光を纏い始める。

 彼の得意な炎の魔法、そして光の魔法が綺麗に融合されて剣に宿り、聖剣と呼ぶに相応しい神々しさすらうかがわせるそれを、彼は真っ直ぐにカイトへと向けた。


「まずはお前からだ、カイト」

「っ、!!」


 彼はそれを大きく振りかぶり、斜め上から叩きつけるように斬り下ろして幼馴染の左即頭部から右の脇腹まで一気に切り裂こうとした。

 その迫り来る眩しい輝きに一瞬視線をそらしたカイトは、それでも条件反射的に宙を指でなぞって陣を出現させ、幻の鍵盤の上で数回指を弾く。


「防御 ── 物理反射」


 力任せに叩きつけられた剣はギィンッと耳障りな音を立てて結界に弾かれ、そしてその威力を保ったまま持ち主……シーナへと跳ね返る。

 さすがに己を斬りつけることはどうにか堪えたものの、あまりの反動に腕の筋をやられたらしい彼は今度こそ剣を取り落とし、低く呻きながら腕を押さえて蹲ってしまった。


「シーナ!!」

「ねぇ、どうして【魔王】は【勇者】に倒されなくてはならないの?当代の魔王は勇者である貴方に何かしたかしら?殺されなくてはならないほどの何か、大きな恨みを買ったかしら?わたくし達はただ、放っておいてほしいだけなのに」

「な、にを世迷言を……っ。ならば何故、シーナをここまで追い詰めた!?どうしてイリスの口を塞いだ!?なにゆえナナに間諜の真似事をさせた!?放っておけばよかろう!!」


 王族への敬いの感情もどこへやら、とうとう激昂して我を忘れてしまったレイナをクリスティアナは静かに、ただ静かに見つめ返す。


「公の場で冤罪をきせられ、帰りの馬車はならず者に襲われ、冒険者達を次々と刺客として送り込まれ、とどめとばかりに勇者を召喚して魔王を倒せとけしかけられた……わたくし達はただ、降りかかる火の粉を払っただけですわ。そんな我々を悪だと貶めたのは誰?奴隷身分の獣人を解放させるどころかハーレムの一員とし、いいようにつれまわしたのは誰?追い詰められたあの国を見捨てたのは誰?」


 ぐっと言葉につまるレイナから、涙目で睨みつけてくるシーナに視線を移したクリスティアナは、冷ややかな眼差しでこう付け足す。


「…………何の罪もない幼馴染を……『悪』だと偽証して、処分させたのは……一体誰だったかしら?それでも貴方は、己が正義だと胸を張って名乗れるというの?」


 その言葉はナイフとなって勇者の胸に突き刺さり、彼はがっくりと項垂れて強く唇を噛み締めた。



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