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月曜日・駒 2

 友梨たちが追われている頃、美波もまた追われていた。

 半泣きになりながら逃げる美波だったが、曲がった先が悪かったのか、行き止まりだった。


「うえ……。」


 美波は半泣きになりながら逃げ道を探すが、冷静ではない頭では逃げ道を見出す事が出来なかった。

 美波が止まっている間でも彼女を追う人たちは近づき始める。

 近づく足音に美波が固まっていると、美波が先ほど来た道から一人の少年がやって来た。


「げっ!」

「…えっ?」


 少年は美波がいる事に気づき、苦虫を噛み潰したような顔をするので、美波は今まで自分を追いかけていた人とは違う反応を見せる彼に驚いた。

 少年も美波の表情を見て自分を追っていた人とは違う事に気づき、そして、彼女の手を掴み近くの男子トイレに駆け込み、そこの窓を大きく開けた。


「え…え…えっ!」


 行き成り男子トイレに連れ込まれ、そして、彼女の手を取って逃げる少年に美波はただただ驚く事しか出来なかった。

 少年は体育館裏の物陰に自分と美波の身を隠し、肩で息をしながら安心したように大きく溜息を吐いた。


「はぁ……、何なんだよ、これ……。」


 汗で張り付く前髪を掻き上げながら少年は美波を見る。


「あんたは大丈夫か?」

「……………。」


 ショックでぼんやりとしている美波に少年は訝しみながら彼女を覗き込む。


「おい…。」

「ふえっ!」


 正気に戻った美波はドアップの少年の顔に驚き変な声を上げる。


「………失礼な奴だな。」


 自分の顔を見た瞬間に変な声を上げた美波に少年は眉を寄せた。


「えっと…、えへへ。」


 誤魔化すように笑う美波に少年は呆れたような顔をして、すぐに溜息を吐いて気持ちを切り替える。


「あんた正気なんだな。」

「えっ?」

「油断させて捕まえる…何てそんな芸当が出来ないだろうな。」


 腹の探り合いや人を騙すなんて出来そうもない美波に少年は呆れたような顔をする。


「あの…貴方は?」

「ああ、そう言えば名乗ってなかったな。」


 少年は後ろ髪を掻きながら面倒臭そうに言う。


「オレは月前涼太。あんたは?」

「涼太くん…うん、リョウくんだね。」


 満面の笑みを浮かべる美波に少年は顔を真っ赤にさせる。


「あれ?風邪?顔真っ赤だよ?」

「ち、違う……。あんた何組だ?」

「三組だよ?」

「はぁ?同じクラスにお前いたっけ?」


 涼太はクラスメートに美波がいたか思い出すが、やはり記憶になかった。


「……お前、本当に三組か?」

「うん、二年、三組だよ。」

「……………………………マジかよ。」


 涼太は顔を引きつらせ美波から顔を背けてブツブツと呟く。


「…嘘だろう、オレよりも一つ上?冗談だろう、こんな小学生並みの奴が年上…。」


 美波はちゃんとは涼太の言葉を聞き取る事が出来なかったがが、それでもあまりいい事を言っていないのを理解しているのか、頬を膨らませている。


「リョウくんは何年なのよ?」

「……………一年。」


 言いたくなさそうに言う涼太に美波はキョトンとあどけない表情をする。


「年下なんだ~。」

「…………。」


 美波の喜色を見て涼太は苦虫を噛み潰したような顔をした。


「お前本当にオレより学年が上なんて嘘だろう。」

「酷いっ!それにあたしの名前はお前じゃなくて高田美波だよ。」

「………お前名乗っていないじゃねぇか………ん?」


 呆れたような表情をしていた涼太だったが、すぐに何かに気づきズボンのポケットに手を突っ込みそれを取り出す。


「あれ?それ……。」


 見覚えのある携帯電話に美波が小首を傾げているが、涼太はそれを無視してアドレス表を見た。


「やっぱりか…。」


 涼太は美波の名前を見つけ、彼女にその画面を見せた。


「お前の漢字この字か?」

「あっ!うん、それだよ。」

「………偶然…ではないな明らか。」


 涼太は顔を強張らせて携帯を睨む。


「やっぱり何者かに踊らされているんだろうな………多分、この携帯電話を送って来た奴だな……。」

「リョウくん、どうする?」

「……分からない事が多すぎて動くに動けないな。」


 どうすればこの状況が変わるのか見当もつかない涼太は渋面を作っていた。


「ん~。」


 美波も必死で考えるが、やはり妙案は思いつかないでいた。

 二人が頭を悩ませていると涼太の携帯が震えた。


「のあっ!」

「きゃっ!」


 予期していない振動に涼太は情けない声を上げ、涼太の声に驚いた美波が悲鳴を上げる。


「な、何だ……ってメール?」


 涼太は青く光るランプを見ながら携帯をいじると一通のメールを開く。



件名:第一ステージスタート


 やあ、駒たち今の状況を楽しんでいるかい?

 ふふふ、そう怒る事はないだろう、これはゲームだ

 君たちが勝てば平穏な日常に戻るが、負ければ君たちの命はない

 これは決して脅しではない

 生きるか、死ぬか

 それは君たち次第だ


 今回のゲームは簡単だ、二か所に隠した機械を破壊すれば君たちの勝ち

 もし、六時までに見つけられなければその機械は爆発される

 その規模は町一つ分だ

 検討を祈るよ


 ルーラー


「何なんだよこれ……。」


 怪文に涼太は眉を寄せる。


「リョウくん…、爆発って……。」

「……冗談だと思いたいが、もし現実だったらやばいな…。」

「ど、どうしよう……。」

「取り敢えず。」


 涼太はメールの内容を信じたくはなかったが、それでも、今彼が出来る事が唯一書かれているのだ。


「オレはこのメールに書かれている「機械」を見つける。」

「リョウくん。」

「お前は隠れてーー。」

「嫌っ!」

「嫌ってお前…。」


 涼太は呆れた顔をするが、美波の目が真剣なものだと知り、表情を改める。


「お前は巻き込まれただけだろう。」

「それはリョウくんだって一緒じゃない。」

「オレは男だ、お前は大人しく身を隠していろ。」

「リョウくんの方が年下じゃない。」

「たった一学年じゃねぇか、お前何月生まれだよっ!」

「一月よ。」

「はっ!同じ年生まれじゃねぇか、オレは七月だ。」

「何よ、あたしの方が一つも年上じゃない。」

「………この強情。」

「リョウくんこそっ!」


 睨み合う二人だったが、遠くから五時を知らせる鐘が鳴る。


「…………くだらねぇ事をしている場合じゃないな。」

「うん、そうだね。」

「…仕方ねぇ、美波。」

「何?」

「行くぞ。」


 涼太は美波の手を引いて走り出す。

 美波ははじめ嬉しそうな顔をしていたが、すぐに涼太が何かの考えを持って移動しているのか気になり始める。


「リョウくん。」

「何だよ。」

「どこに行くの?」

「………。」


 黙り込む涼太に美波は無策のまま涼太が走っていたのではないかと考え顔を顰める。


「言っておくが無策じゃないからな。」

「えっ?」


 考えを読まれたのではないかと美波は驚いた顔をした。


「今の状況で考えて、多分今の状況を生み出しているのと爆発させる機械は同じものと考えていいと思うんだ。」

「へぇ。」

「そんでもって広範囲に何かが起こっているのなら上から見た方が早いと思うんだ、その中心部を探せばきっと見つかると思う。」

「凄いね。」

「だが…そう簡単には行かせてもらえそうもないようだな。」


 涼太は目の前に立ちはだかる大勢の生徒に顔を強張らせる。


「美波、お前何かやっているか?」

「えっ?何を?」

「………まあ、予想通りだな…。」


 美波を大体だが把握し始めている涼太は口角を上げ、自嘲を浮かべる。


「もし危険を感じたら逃げろよな。」

「い、嫌ーー。」

「嫌でも逃げるんだっ!オレたち二人とも捕まればそこで爆弾を見つける奴はいなくなる。だから、たとえオレが捕まっても、お前だけは逃げ切れっ!」

「………っ!」


 息を呑む美波だったが、すぐに、それは驚愕に変わる。

 パチパチと手を叩く音がして、そして、冷たい声が二人に向かってかけられる。


「立派、立派、でも、そんなんで本当にいいと思っているつもりなの?」

「――っ!誰だっ!」


 涼太は決して油断しているつもりはなかった、しかし、実際に彼らの近くに一人の少女がいた。

 彼女は自分たちとは違う制服を着ていた。


「わたし?わたしはーー。」

「智里姉ちゃんっ!」

「……。」

「……。」


 空気を読まない呑気な声に智里は眉を寄せ、涼太は力尽きたようにその場にへたり込む。


「美波。」

「へっ?何で怒っているの?」

「この天然娘。」

「……ああ、こいつは元からこんなんなんだな。」

「で、そっちは誰?」

「月前涼太。」

「……あの携帯に入っていた?」

「……やっぱ偶然じゃないんだな。」


 涼太はもう何が何だか分からなかったが一つだけ分かっている事がある。


「オレたち巻き込まれたんだよな。」

「ええ。」

「くそ…、こんな貧乏くじ、熨しつけて別の奴に送りたい。」

「同感よ。」


 溜息を零す二人に一人分かっていない少女が首を傾げた。

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