早すぎた牽制
連載(お題)が行き詰ったので息抜きに思いつきで書いちゃいました…
軽くお読みください。
「あんたなんかに竜崎様は渡さないんだから!」
いきなり指差され、叫ばれた私はどう反応すればいいのでしょうか。
私の周りにいた友人たちは何が起こったのかわかっていない。
私もよくわかっていませんが…
「初対面の方に『あんた』なんて呼ばれたくありませんわね」
ぼそりと呟いた私の言葉に友人たちも頷く。
「小百合さんたちは彼女の事、ご存じ?」
隣にいる友人・早乙女小百合さんに声を掛けると彼女は首を傾げた後
「もしかして、先月転入してきた転入生でしょうか」
「転入生?」
「はい、兄から『毛色の変わったネコが迷い込んだ』と」
「まあ、鷹士さんったら……」
クスリと笑う私に転入生の方は顔を真っ赤にさせる。
「ちょっと、なに笑っているのよ!」
威嚇している猫のように毛を逆立てている転入生さん。
ほんと、まるでネコみたい……
「あら、ごめんなさい。…………ほんとう、ネコみたいな方ね」
後半は隣にいる小百合さんだけに聞こえる様につぶやくと小百合さんも頷いた。
「さて、初対面の転入生様。私に何の御用ですの?」
「いい加減、竜崎様を解放しなさいよ!」
「竜崎様?解放?」
「あんたの婚約者よ!」
転入生の言葉に首をかしげる。
はて?私に婚約者などいたかしら…
「私の婚約者?どなたがです?」
「竜崎保様!副会長の!」
副会長?
「小百合さん、副会長様のお名前、竜崎様とおっしゃるの?」
「あ、はい。竜崎様は兄の友人です。…が、竜崎様が婚約されているというのは初耳です」
片頬に手を当てて首をかしげる小百合様。
その他の友人たちもざわざわとざわめいている。
「転入生様、その情報はどこから出てきましたの?」
「え?」
「私、まだ誰とも婚約しておりませんわよ。父や祖父に確かめてよろしいでしょうか」
スマートフォンを取り出すと転入生さんは慌て始めた。
「あんた、鷺坂香織よね…」
「ええ、鷺坂香織です」
にっこりと微笑むと転入生さんは視線をキョロキョロとせわしなく動かして私の方を見ない。
「ねえ、転入生様。どこで仕入れた情報ですの?教えて下さらない?」
「えっと……それは……」
「まさか、確証もない話を鵜呑みにされましたの?」
「そ、それは……」
じりじりと後ずさる転入生さん。
私が一歩前に出れば彼女は二歩下がる。
あら、面白いわね。
どこまで下がるのかしら…
でもこれ以上追い詰めたら噴水に躓いて落ちちゃうわね。
そうなったら私がいじめたように見えちゃうからここまでにしましょうか。
くるりと踵を変えると背後でほっとしたような気配がした。
「あ、そうそう」
「!?」
「私はまだ小学生です。今から一人の方に縛られるつもりはありません。それに我が家では婚約うんぬんの話題は中学生になってから持ち上がってくる話題ですの。あまり、年下の子にみっともない姿を見せるべきではありませんわよ。先輩」
私がにっこりと微笑むと転入生さん(名前は知りません。名乗らないんですもの)は顔を真っ青にさせて中等部の校舎に逃げていきました。
友人の中にはすでに婚約者がいると言っている人もいるがそれはごく僅か。
本人たちが互いに思いあっている人達だけである。
家同士の口約束だけの場合、大抵隠していることが多い。
幼い頃から周囲に認知されると、婚約を破棄した場合、白い目で見られるからである。
ちなみに、我が鷺坂家は代々恋愛結婚。
過去の系図をひも解いても政略結婚した例はない。
表向きは政略結婚に見えても実は恋愛結婚だったというのがほとんどだ。
その日の夜、父と祖父に今日の事を話したら顔を見合わせて苦笑していた。
どうやら、水面下で熱烈な申し込みがあったらしい。
だが、まだ私が小学生であることを理由に断っていた。
父と祖父の話を聞いて納得です。
あの人は竜崎様に想いを寄せていて、どこからか竜崎家が鷺坂家と縁を結びたいという話を聞いて私に牽制しに来たってことですのね。
せめて、周囲が認知してから(婚約などの話が表に出てから)来てくださればちゃんと応対しましたのに…
せっかちな方でしたのね。
翌日、竜崎様が小百合さんを介して5歳年下の私に『まずはお友達になろう』と仰り、私が高等部に入学する頃、本当に婚約することになるとはこの時は誰が予想していただろうか。
そして、今日牽制してきた方のイトコ(名前は知りません。調べるのも面倒です)が、私にしつこく『竜崎様との婚約を破棄しなさい!竜崎様は私と結ばれる運命なのよ』と言ってきて、それを知った竜崎様の逆鱗に触れ、彼女の一族が窮地に追い込まれる(没落への道を進む)ことになるとは…
誰が想像したでしょう……
【登場人物】
鷺坂香織
某ゲームで悪役になる予定だった子
小学4年生
それなりの家の生まれの為か表向きの言葉遣いは丁寧
小学生ながらに貫禄があり、信者が多い
早乙女小百合
香織の幼馴染兼親友
小学4年生
香織の事が大好き
香織と兄・鷹士をくっつけようと企画していた
早乙女鷹士
小百合の兄
中学3年生
中等部生徒会会長
小百合を溺愛
公私ともに認めるシスコン
某ゲームの攻略対象者
竜崎保
中学3年生
中等部生徒会副会長
早乙女鷹士とは親友とかいて悪友
早乙女家で偶然遊びに来ていた香織に一目惚れ
親と親友を巻き込んで香織を手に入れようとしている
某ゲームの攻略対象者
転入者=転生者
『前世』で某ゲームに嵌っていた転生者
自分は主人公だと思い込んでいる。
中等部3年時に転入してきた少女
逆ハーレムを築こうと中等部時代から攻略対象者たちに接触するが空回り
のちにイトコ(ゲームヒロイン)が原因で家は没落していく
※某ゲーム…いわゆる乙女ゲーム
香織たちが高校1年の時に転入してくる少女がヒロインの物語。
鷹士と保は隠しキャラ的存在