2.
上陸二日目
ホテルをチェックアウトし、再び美鈴の店へと向かう。あの時は動転していて、詳しく店の中を覗いていなかった
ガヤガヤガヤ
何やら店の前が騒がしい
『これはうちのもんや!』
『そいつをよこせぇぇっ!』
ああ、主人を失った店の品物の取り合いをしている。美鈴に身寄りがあったかどうかはわからないが、財産処分が来る前にという奴だろう。あさましい
『邪魔だ、どけ』
この制服を利用して押し通る。軍人の姿に物取りの連中は少々ひるんだが、こちらが相手にしないと気にせず取り合いの続きを始めた
店のなかは、やはりがらんとしていた。室内に匂いを残すのを嫌ってか、部屋に最低限の清掃をし、血糊は残していない。
いや、問題はそこじゃない
『・・・あった』
割とものぐさな彼女ではあるが、荷物の到着予定ぐらいはメモに書き残しているはずだという目星は間違いなかったか
『・・・』
小包みがいくらか届いている。文字は中国語でわからないが、恐らく俺に美鈴が見せようと仕入れたものがあったことは間違いない
『・・・』
しかし、通常の化石類を扱うルートはいくら漁っても何も出てこなかった。わざわざ他の所に持っていく理由は無いはずだ
『それとも』
持ち歩いていなきゃならないほどの代物とでもいうのか?わからない
いや、俺の知らない流通ルートがある可能性を探るべきだな
『・・・少なくとも化石としては、扱っていない。何かの原材料・・・?』
加工品か何か、装飾品なんかも・・・どうだろう
ダダダダダ!
いきなりの銃声に身を伏せる。畜生、なんなんだよこの街は。こんな昼間っから銃撃戦やるような街だったか!?
『病心の店がやられたぞ!』
『救急車だ、救急車を呼べーっ!』
喧騒が再び聞こえてくる。どうやら、銃撃の主はどこかへ行ってしまったらしい。様子をちらりと伺ってから店を出た
『酷いな』
撃たれた店舗は酷いものだった。店舗の前のガラス瓶は跡形もなく割れ、地面には血だまり。あぁ、被害者が手当てを受けているが間に合うかどうか。止血と薬がなけれr・・・待てよ、薬?
『漢方薬・・・』
目の前で襲われたその店舗、漢方薬を中心に扱う店だった。いくつもの薬瓶が流れ弾で破壊されている。表示された名札を矢継ぎ早に見渡す
『・・・そうだ、竜骨だ!』
日本の場合、古来より発見されたサメの歯の化石を天狗の爪などといって神聖視していたりするが、中国の場合、貝化石を竜骨として漢方薬に利用していた。それを、美鈴本人の口から聞いたんだった!
『誰か、この店の関係者は居ないか!?誰か!』
まわりが騒めく、いきなり彼らにとって雲上人である帝國海軍の人間が口を出してきたのだ。驚きもする
『へ、へぇ。今ここにいますのは、優!こっちに来なさい!いいから!』
優と呼ばれた色白・・・いや、蒼白になった女性は、覚束ない足取りでこっちに来た
『大変だったね、少し聞きたいことがあるんだ』
ハンカチを手渡しつつ尋ねる
『君の店は、こんな事される覚えはあるかい?』
『そんなこと・・・そんなこと、あり得ないです!だって、うちは返品だって受け付けてるんですよ!?』
なるほど、効果が無ければ返品受け付けますというのも店の前に張り出してあった。たしかに大陸じゃ珍しいし、信頼がないと出来ない事だ
『わかった、信用しよう。では、たぶん昨日今日の出来事だと思うのだが・・・竜骨を仕入れなかったかい?』
『え・・・?』
晴明から出た言葉に彼女は明らかにうろたえた
『知っているのか!?』
『わ、私は直接は見てませんけど、師匠のぼやきで・・・』
『やれやれ、動物の骨まで一緒に持ってこられたらたまらないわ』
と、言っていた。
『間違いありません!それで、竜骨に出来る分だけ買い取ってさばいたって!』
美鈴をやった奴は、奪った化石を処分しようとしている?そして、貝化石の他にも動物化石を保持していおり、少なくともその処分はここでは出来ていない。確かな事はここまでだ。
『化石をわざわざ持っていったり、処分しようとしたり、犯人はいったい何がしたいんだ』
行動がまるで一貫していないように思える
『ありがとう、名刺をやるから、海軍病院に運んでもらいなさい』
『あ、ありがとうございます!』
医療施設の整った海軍病院なら、助かるかもしれない。情報の報酬としてはこんなものだろう
しかし、ここで情報は尽きたも同然だ。まだ竜骨について探ってみるか、それとも例の警告に使われたケネディに寄ってみるか・・・
さて、どうしたものか
とりあえず続きの投下です