第22話:隼人VS烏丸鋭霧(後編)
ピンチの時に隼人を救った魔力の化身。
その正体は・・・・
そいつはフェンリルを片手で持ち上げ、めんどくさそうに俺を見ていた。
「おいお前、隼人との一騎打ちに邪魔をするな」
烏丸にそう言われたそいつは、フェンリルを烏丸に投げつけた。
「人間?」
俺の魔力の化身は、人の姿をしていて、長身で肩まで伸びる黒髪、ジーンズにTシャツをカジュアルな格好をして登場した。
でも人の姿をした魔力の化身など聞いた事がない。
いや、むしろありえないはず。
「実際に存在してるのだから信じるしかないじゃん。それに僕は特別」
そうか特別かぁ・・・・・
ん?喋った?今喋ったよな?しかも俺の考えてることに口出ししてきやがった。
「何をうろたえてるんだよ。君は僕。僕は君だよ。君の考えてることなど僕の頭に嫌でも入って来る」
テレパシーみたいなものか?
言い方からして弱そうだが使い道はありそうだ。
「1つ言っておくが、僕は君の魔力の化身はじゃないよ。どっちかというとソウルイーターの化身かな」
どう違うのかはいまいち分からないが、これで俺らの優勢だ。
「一気に決めるぜ。お前の得意技を一発ぶち放ってやれ」
「あ〜それは無理」
はぁ?なんでだよ?まさかそういう技は持っていないとか?
「ううん、ソウルイーターには僕を呼び出す力は充分にあったけど、君が未熟なせいで、不完全なんだ」
やっぱ呼び出すにはまだ早かったって事か。
まぁ、戦力にはなるだろうし、いないよりはマシだな。
こうもしてるうちに烏丸のフェンリルは復活し、こっちに敵意を剥き出しにしてやがる。
「ノア、お前は何ができる?」
「あいつを倒せる」
充分すぎる答えが帰ってきた。
「でもめんどくさい。僕は弱い者いじめは趣味じゃないんだ」
また何を言い出すかと思えば、めんどくさいだと。
お前は俺の剣になるんじゃなかったのかよ。
「夜は眠いから嫌だ」
子供みたいなこと言うな。烏丸を倒せるんじゃなかったのか?
俺のテレパシーも虚しくノアは他所の民家に入って行った。
「ははは、せっかくの助っ人も意味なかったな」
あぁ、呼び損だったぜ。
こうなりゃ俺一人で烏丸とその化身を・・・ってフェンリルの姿が見えない。
後ろか?
俺はすぐさま横に転がりフェンリルの突きを紙一重でかわした。
「油断したな隼人」
【ブレイクヴァン】
烏丸が両手を地面に当てた瞬間、地面は強い光を放ち、地をつたりながら、俺に近づいてきた。
その光は俺の目の前で止まり、光の中から土で出来た巨人の両手が現れ、俺をわしづかみした。
巨人の腕にフェンリルが飛び乗り、俺を見つめてきた。
「さぁ隼人。早くどうにかしないと死んじまうぞ?それともここで果てるか?」
こんな所で死ぬわけにはいかない。
死ぬ気もさらさらない。でも俺にはこの現状を打破する力はもう残ってない。
光喜に亜矢のことを頼んどけばよかったな。
ノアも俺のこと本当に見捨てやがって、助ける気があるならそろそろ出てこいよ。
「これは君が仕掛けた戦いだろ?すぐ誰かを頼るのはどうかと思うよ」
テレパシでノアの声が頭に入ってきた。
今の状況がわかってるなら助けに来てくれてもいいだろう。
まぁ運が悪かったってことか。
「なんだ?もう諦めたのか?」
あぁ、身動きできない状態でどうしろっていうんだよ。
「俺の負けだ一思いにやってくれ」
そう言うと烏丸はしばらく沈黙し、舌打ちをした。
「・・・・・・・っち、フェンリル、お前の最強の技で隼人を葬ってやれ」
フェンリルは空高く飛び上がり、頭の角を俺に目掛けて急降下してきた。
【ホーリーシールド】
俺の頭上に白い盾が広がり、フェンリルの攻撃を受け止めた。
一体誰が・・・
「隼人、大丈夫?」
亜矢、何でこんな所に・・・
「今すぐ離れろ。ここにいたら危ない」
「嫌、隼人が危険な目に会ってるのにどうして私だけ逃げないといけないのよ」
亜矢は必死に、俺をわしづかみにしている、巨人の手を外そうとしている。
すると、急に巨人の手も消え、フェンリルの攻撃も収まった。
これも亜矢の力なのか?いや、違う。烏丸自ら消したんだ。
「苦戦してるのか?俺も一緒に戦ってやるからさっさと終わらそうぜ」
武田・・・さん、がどうしてここに。
光喜や梓ちゃん達は負けたのか?
いや、それは多分ない。
今でも梓ちゃんたちがいた場所からすごい音が響いてるし、戦塵もすごい舞っている。
「陽河兄弟はどうしたんだ?」
烏丸が武田さんに聞いた。
「幹部会が戦ってくれている。あいつらが参戦してくるのは例外だったらしいからな」
やばいな、例え光喜達でも水無月さんたちが相手だとやばいんじゃないのか?
それに悠夜もまだ戦える状態じゃないはず。
「仲間が心配か?だったらその女を置いてけばそれで全ては終わる」
武田さんが俺を説得してるようだが、そんな受け入れるはずがない。
「交渉決裂だな。じゃあさっさと決めさせてもらう。その女の魔法使いとしての力が開眼しかけみたいだからな」
そう言うと、赤い刀紅桜と青い刀大蛇を抜き、構えた。
【漣火】
紅桜と大蛇をすごい速さでぶつけ合って火花を散らせながら、斬撃を飛ばしてきた。
「隼人ここは任せて」
【ホーリーシールド】
その技は・・・・
もしかしてさっき助けてくれたのは亜矢だったのか?
「亜矢、お前その技」
「ん?気づいたら使ってたの。隼人を助けたくて必死だったから・・・・」
その心はありがたいんだけど、まだ早すぎる。
まだ開眼したての亜矢の魔力じゃあ、武田さんの攻撃を全て防ぎきれない。
その証拠に亜矢が今出してる白い盾は、既にひび割れてきている。
こうなったら、少し不安だが、亜矢が耐えている間に、俺は武田さんを倒す。
「亜矢、もう少し耐えててくれ」
守りの盾から俺は回り込んで、横から武田さんに突撃した。
やはり武田さんは亜矢を殺すことしか考えてないようだ。
「隙あり!ソウルイーター・デュランダル」
っと叫んだ瞬間、武田さんは地面から出てきた土の壁に覆われた。
「っち烏丸か」
そのとき大きな音で何かが割れる音がした。
亜矢の盾が割れる音だ。
俺はすぐさま武田さんの目の前に立ちはだかり、亜矢を庇おうとしたが、土の壁に覆われていた。
「おい、烏丸!四方とも囲ったら攻撃できねぇだろ」
「すいません」
武田さんは土の壁を壊し、傷だらけで出てきた。
大よそ、自分の斬撃が土の壁に跳ね返されて、自爆したって所だろう。
でも烏丸がこんなミスするはずが・・・・
とにかく俺は座り込んでいる、亜矢の所へ向かい、立ち上がらした。
「私は大丈夫だよ。自分の身くらい自分で守らなきゃね」
亜矢は笑顔でそう言ったが、もうすでに魔力が尽きかけてるのはわかる。
これが最後だ。一気に2人を倒せる技、それは・・・・
「やめといたほうがいいよ。冥怖でしょ。」
またこいつか。
口出しばっかりするなら、一緒に戦えよ。
「しんどいから嫌だ。ともかくやめときなよ。そんな状態で使ったら暴発するのは目に見えてるし」
確かにこの前使った時も同じ状況だったな。
【津波】
考えてるヒマはなさそうだ。
武田さんは漣より一回り大きい斬撃を飛ばしてきた。
俺らにはもう防ぐ術はない。
「だとしたら避けるだけだ。亜矢、こっちだ」
亜矢を引っ張ろうとしても全く動かず、武田さんのほうを見ていた。
「隼人は私が守るの」
「やめろ。そんな状態で魔法なんか使ったら亜矢の命が危ないだろ」
しかし亜矢は俺の言葉など全く聞く耳持たずで、白い盾を目の前に張りめぐらせた。
「おもしろい。お前の非力さを教えてやる」
【大津波】
「でか」
ついつい口に漏らしてしまうほどの、でかい斬撃を繰り出してきた。
しかも近くにある周辺の民家も一瞬にして切り裂いていった。
ノアがいるはずの民家とともに・・・
しかしこの技は漣とか津波とは違い、連続で出せる技じゃないらしく、一回防げばそれで終わりだ。
でも亜矢の盾はもうボロボロだ。その一回を防げるかも怪しい所だ。
「だったら冥府以外で使える技と言ったらアレしかないだろ」
【ソウルイーター・ブラッドシールド】
自分の血で亜矢の盾をのヒビを補強した。
これでなんとか持ちこたえればいいんだが・・・・
俺は血の出しすぎでその場に倒れこんでしまった。
武田さんの大津波と亜矢のホーリーシールドがぶつかりあった時、すごい風圧に襲われた。
気圧の変化か何かか?
でもそれはすぐに収まり、亜矢の盾もまだ砕けてはいなかった。
「まだ耐えるか。ならこれでどうだ」
【雨津波】
見た目は津波とは変わらないが一体・・・
「痛っ」
上から刃物のような物が落ちてきた感じがした。
ヤバイ!!!上からも斬撃が・・・
亜矢の盾で防げるのは正面だけ。
「逃げろ!亜矢」
しかし、俺の声は亜矢には届かず、空から来る斬撃は容赦なく、亜矢に降り注いだ。
「やめろ、やめてくれ・・・・」
渾身の力で立ち上がり、急いで亜矢の元に駆け寄り、亜矢に覆い被さった。
亜矢の盾は既に砕けれていて、前方と上からの斬撃が止め処なく俺たちを襲った。
武田さんの攻撃が止んだ後、俺は亜矢に呼びかけた。
「亜矢」
でも返事はなく、ただグッタリしているだけ。
揺すってもただ人形のように、動くことはなかった。
手には生暖かい水溜りができているのがわかる。
信じたくない俺は、亜矢から離れることができなかった。
離せば今にもこのぬくもりが消えてしまいそうで怖かった。
どうして・・・・どうして亜矢がこんな目に。
魔法使いの何が悪い?
魔法使いだと何故殺される?
魔法使い全てが悪いわけじゃないはずだ。
魔法使いの中で魔法を悪用するのはごく一部のはずだ。
それをどうして・・・・
「は・・・や・・と」
「亜矢?」
俺は顔を上げ、亜矢を見つめた。
「ごめんね・・。私、隼人の足手まといになっちゃったね・・・・でも私」
「亜矢、もういい喋るな」
血を吐きながら、必死に何かを伝えようとしていたが、俺は聞こうとしなかった。
「亜矢ちゃん?」
「烏丸くん」
烏丸は俺らの前に立ち、膝を折った。
「隼人、お前は亜矢ちゃんを助けるんじゃなかったのかよ。なんでこんな目に合わしてるんだよ」
烏丸が俺の肩に手をかけ、必死に訴えかけてきた。
お前らがやったんだろ。俺にそんなこと言うな。
「よかった。いつもの烏丸君だ」
亜矢が弱弱しい声で言った。
あぁ?いつものってこいつはいつもそうだろ。
俺は烏丸の方に目をやると、烏丸は涙を流していた。
男として情けないほどの号泣していた。
「俺はお前が何とかしてくれると信じてこの任務を受けた。お前なら亜矢を逃がしきれると信じてた。なのに・・・」
烏丸・・・・
確かに思い当たるふしは所々ある。
俺を殺そうとした時の舌打ち、亜矢がやられる前に、土の壁を武田さんの目の前に張ったり。
しかもこいつはいつでも俺を殺せるタイミングがあったはずなのに殺さなかった。
お前も亜矢のことを・・・
「ぐはっ」
いきなり烏丸の肩から刀が飛び出してきた。
赤い刀、紅桜だ。
「任務完了直前で寝返るとは、おろかな奴だ」
武田さんはそう言いながら、烏丸の肩に突き刺さっている刀をグリグリ回した。
「ぐわぁ」
「やめろ、そんなことしたら使い物にならなくなるだろ」
俺は武田さんに殴りかかったが、軽く避けられた。
まぁ、烏丸の肩から刀が抜かれただけでもヨシとするか。
でも俺と烏丸だけで、勝てるかどうか・・・・
その時、崩れた民家からフラフラと誰か歩いてきた。
「僕の休息を妨げたのは誰?」
ノアだ。ってか休息してたのか。
「なんだお前?ここはお前見たいな奴が来てもいい場所じゅわ・・・・」
武田さんが話してる最中にも関わらず、ノアは有無を言わず殴り飛ばした。
しかも避ける隙も与えないほどの速さで。
「ノアそいつはお前に任せる。烏丸、一緒に亜矢を運ぶぞ」
「おぉ」
久しぶりに烏丸の息がピッタリあった。
亜矢の息はまだある。
病院に連れて行けばなんとか・・・・
きる所がなかったので、中途半端ですけどここで一息入れたいと思います。