第20話:隼人VS武田毅
「新たな支部長官に任命させてもらえると思ったら、新米神兵のお守りかよ」
武田がしぶしぶ信徒をまとめて、烏丸に報告しにいった。
「この命、お前は黙って見てろ。失敗は許されないからな」
「何を言っている。指揮官はこの俺だ。お前はただ俺の補佐役だ。それを間違えるな」
烏丸は元支部長官の武田に向かって、強気に出た。
「ここで死にたいらしいな」
「上等だ。おまえがどれほどうぬぼれてるか、教えてやる」
武田は刀を抜いて構え、烏丸は体に岩石の鎧をまとい、魔力を高めた。
「仲間割れはやめろ。今は両者同じ身分なのだから、少しは我慢したまえ」
水無月がそう言いながら現れ、仕方なく武田は剣を収め、烏丸は高めた魔力を戻した。
「何用だ水無月?この命は俺がいるから大丈夫だぜ」
武田が馴れ馴れしく水無月に言った。
「だから不安なのだ。隼人の姿が見えん。もしかしたら立ち向かってくるやもしれん」
「隼人・・・」
「そん時はこの刀で殺すまでだ」
武田は青い刀を抜き、自慢気に言った。
「それを言いに来たのだ。鬼庭隼人は絶対に殺すな。メシア様の所有物、ソウルイーターを返してもらわなければならないからな」
「っへ、要するに殺さずに連れてこればいいんだろ。面倒だな」
武田はそう言い、先に行ってしまった。
「鋭霧、1つ忠告しておくが、お前がすることは隼人と戦うことではない。魔女、氷室亜矢を殺すことだ。それを忘れるな」
「あ、はい。わかりました」
水無月はそう言い残して、去っていった。
武田には強気で出てた烏丸も、水無月にはちゃんと礼をして答えた。
「う〜寒ぃなぁ」
屋根の上でまつこと3時間、一向に烏丸達が攻めてくる気配はなかった。
「本当に今日来るのか?あいつ」
今ごろ亜矢はもう寝てるのだろう。
亜矢の部屋に目をやると、もう明かりは消えていた。
まぁ亜矢には明日香がついてるし大丈夫だろう。
「ちょっと身体を温めるついでにコーヒーでも」
入れてこようと立ち上がった瞬間、妙な気配に包まれた。
「これは・・・結界。そうか、やっと動き出すか」
この結界は大規模な戦いが予想される時に使う結界だ。
結界内にいる魔力の持たない人間は避難されるし、犠牲者を出さない時にはうってつけの結界だ。
それに例え家とかが崩壊しても、その結界を解けば、結界を張った時の状態に戻る。
「っということは、向こうにはもう俺が刃向かうってことがバレてることか」
しかも考えてるヒマはもうなさそうだ。
信徒の大群が雪崩のように押し寄せてきて、俺一人簡単に飲み込めるぐらいのスピードでやってきた。
「昔の俺ならうろたえてたかもしれないが、今はもう違う。ソウルイーターの力をみせてやる」
【サーベルレイン】
技の名の通り、俺が信徒に手のひらを向けるだけで、信徒の大群に、剣の大雨を降らした。
「ぐわ〜」
「ぎゃ〜」
色々な悲鳴の中、信徒は次々と串刺しにされていく。
でもその中に2人だけ無傷で乗り越えてきた者がいた。
烏丸と武田さんだ。
「ここからは通すわけにはいかない」
【ソウルイーター・蛇眼】
「無駄だ」
「ぐはっ」
2人の動きを止めるはずだったのが、何故かそれを無効化され、俺は武田さんに殴り飛ばされた。
俺の魔力が低かったのか?
でも低いからって負けとは限らない。
「お前はさっさと氷室亜矢を殺しにいけ。こいつは俺が抑える」
武田さんは顎で烏丸に合図を送った。
「させるか」
【ソウルイーター・デュランダル】
「さて、こいつの切れ味を確かめてみるか、妖刀、大蛇」
武田さんは腰に下げていた青い刀を抜き、俺の目の前に向けた。
「青い刀?」
俺はバックステップで距離を取り、みすみす烏丸を逃がしてしまった。
青い刀からは禍々しい妖気が漂っていて、その破壊力ぐらいは味わらなくてもわかる。
「その剣で我が妖刀を受けきれるか」
俺の剣は勇者の剣だ。
負けるはずない。
それに剣と刀がぶつかり合えば普通は刀が負ける。
「そっちこそ刃こぼれには気をつけるべきだぜ」
刀と剣がぶつかり合い、キンキンと軽い音が響きわたった。
「お前の腕はわかった」
武田さんは後ろに下がって刀を下に下ろした瞬間
【漣】
刀を下から上へ切り上げた瞬間、斬撃が俺に飛んできたのか、肩を切り裂かれた。
「次受けたら死ぬぞ」
その忠告を聞き俺は急いで、左に避けた。
【粒時雨】
すごい速さで刀を振り回した瞬間、今まで俺がいた場所の屋根がめくれ上がり、無残な物になっていた。
「あんなのくらったら、痛いじゃ済まねぇぞ」
「いやーーー」
後方から亜矢の叫び声が聞こえ、俺は振り返った。
「まずは自分の心配をしろ」
【漣】
「ぐは」
ダメだ、武田さんに背を向けたら、俺がやられちまう。
横目で亜矢の部屋を覗くと、まだ明日香が奮闘しているみたいで、まだなんとかなりそうだ。
「どうした?もうおわりか?」
俺はデュランダルを消して、魔力を高めた。
俺が魔力を高めてるのに気づかないってことは、武田さんは根本的な一般人?
「一瞬で決めさせてもらう」
【ソウルイーター・バースト】
自分中心に風が渦を巻き、俺の体は紫に輝きだした。
武田さんは、身の危険を感じたのか、刀を構え、俺から全く目を離さなかった。
でも遅い。
俺は一瞬で武田さんの背後に回り、両手で吹き飛ばし、追い討ちをかけるように屋根に叩きつけた。
武田さんは屋根と2階を貫通したが、瞬時に受身をとられて姿を消した。
「やばい、見失ったら厄介だ」
俺も突き抜けた床から、一階に降り、武田さんを追った。
流石に一般の民家であって狭い。
こんな所で襲われたらひとたまりもないだろう。
有り得ないと思うけどまさかこれを狙っていたとか?
そう思いながら、探していると・・・
「決着を急いだな」
急に天井から現れ、構える隙もなく
【桜吹雪】
な・・・・赤い刀?
今まで持っていた青い刀ではなく赤い刀で、武田さんは回転しながら、俺を何度も切り裂いた。
「ぐはぁ・・・・」
俺は地に倒れこみ、紫のオーラも消え、荒れた呼吸を戻そうとした。
「2つ目の妖刀、紅桜だ。見ろ、お前の飛び散った血は桜の如く」
「はぁはぁ・・・・」
あの刀に毒でも塗られていたのか、俺の五感はだんだん麻痺してきて、武田さんが言ってることさえも聞き取れなくなってきた。
しかも目まで霞んできて、とても戦える状態ではない。
「最後にもう一花咲かせてやる」
このままだとやばい。
手か足のどっちかさえ動いてくれれば・・・・
「死ね」
【ソウルイーター・ブラッドシールド】
「ふん、まだ刃向かうきか」
適当にブラッドシールドを発動したけど、なんとか防ぐことができたようだ。
でもピンチなのは変わりない。
「誰だお前は・・・」
ん?誰か来たのか?
武田さんが知らないってことは、向こうの味方ではなさそうだ
「隼人、そんな所で寝とる場合か?」
誰かに揺すられている。
一体誰が・・・・って麻痺していた五感が元に戻ってきた。
治癒魔法の使い者か?
体の自由もきき、俺は目を開けて助けてくれた奴を確かめた。
「悠夜、それに梓ちゃんも。どうしてお前がこんな所に」
俺の目の前には距離をとり膝を折っている武田さんと、ポケットに手を突っ込んだ悠夜、それと俺の横で治癒魔法を当ててくれた梓ちゃんがいた。
「光喜が昼お前の所に行っただろ?それで様子が変っていうから、最後に来たらこれだ。空気が淀んでるじゃねぇか」
「だからって俺を助ける必要なんかお前にはないだろ」
「助けた覚えはない。敵が魔女狩りだったから、消しにきただけだ。光喜と竜は烏丸の所にいる。おまえはそっちにいけ」
悠夜はそう言い残し、武田さんに突っ込んだ。
「お前がかの3大魔法使い、陽河か。おもしろい、おまえをメシア様の手土産にしてくれる」
武田さんは立ち上がり、腰に掛けてあった小刀に手をかけた。
「そんな小刀で止めれると思うなよ」
悠夜はあらゆる体技の連携で、武田さんを休ませる間もなく攻撃しつづけた。
「っへ」
その途中武田さんが不敵に笑い、悠夜はバックステップで距離をとった。
「っぐ・・・・」
悠夜の右肩には、小刀が刺さっており、悠夜はその小刀を抜き捨て、手で止血した。
「【マインドブレイカー】これでお前はただの人間だ」
武田さんはそう言い、ゆっくりと悠夜に近づいていった。
「悠夜、あとは俺が」
俺が前に飛び出そうとしたとき、梓ちゃんに服を引っ張られた。
「ダメ」
「え?」
「隼人、お前はさっさと、烏丸の所へ行って来い。こいつは俺が倒す」
そんなこと言っても、悠夜の右肩からは止まることなく血があふれ出ていて、とても戦える状態ではない。
それにさっきの武田さんの言葉もきになる。
ただの人間ってどういうことだ。
考えている間に武田さんは、悠夜の前に立ち、青い刀大蛇を振り上げていた。
「死ね、小者が」
そう叫びながら刀を振り下ろし、悠夜はそれに微動だにしなかった。
「なに・・・」
「梓ちゃん!」
悠夜を助けるため、梓ちゃんが素手で、しかも片手で刀を受け止めていた。
「ただの人間とはそういうことか。呪術も妖術も使えねぇ、しかも反射神経なども衰えている。これは厄介だ」
悠夜がノンキに立ち上がり
「隼人、逃げるぞ」
「はぁ?」
梓ちゃんを置いて逃げれるわけはない。
本人は武田さんの刀を握り閉めたまま動かない。
「梓は大丈夫だ。もう一人のほうを心配しろ」
確かに、亜矢のほうもこのまま放っておくわけにはいかない。
「じゃあ俺は亜矢の所へ行って来るが、悠夜は?」
「俺はしばらく高見の見物とさせてもらうぜ。今はあいつのせいで、全く力がでないからな」
「そうか、まだそこらへんに信徒がいるかもしれないから気をつけろよ」
悠夜にそう忠告して、亜矢の所へ向かった。