第19話:決戦前
メシアに烏丸と共に亜矢を殺す命が下り、隼人はその命に反し、烏丸を止めることを決意した。
さて、実際烏丸を迎え撃つと言ってもこういうことは未経験でなにをすればいいかわからない。
何か、罠でも張ろうと思っても、そう簡単に住宅街に張れるわけがない。
しかもこっちは俺だけで向こうは何人連れてくるかもわからねぇ。
もしかしたら、信徒を引き連れてくるかもしれないし、烏丸一人で乗り込んでくるかもしれねぇ。
俺のほかに烏丸に違う補佐がついたとしても、多分朝霧先輩が妥当な所だろう。
だったら朝霧先輩もどっちかと言うと俺の意見に賛成なんだから見逃してくれるかも・・・
「いや、そういう甘い考えは捨てるべきだな」
俺はそのまま何も思い浮かばないまま朝を迎えた。
「ダメだ。何も思いうかばねぇ」
もう日は昇りきって、お昼過ぎだ。
このまま何もせず夜になっちまったら、せっかくの時間も無駄になっちまう。
まず、亜矢にこのことを・・・・いや、そんなこと言っても不安にさせるだけだし、第一信じないだろう。
誰かいれば意見の出し合いとかできるのだが。
「仲間がいないって不便なもんだなぁ」
考えてばっかだと能率が悪いと判断し、俺はかなり遅い昼食をとることにした。
その昼食の準備中に家の呼び鈴が鳴った。
「一体誰だよ?」
今日は平日だから亜矢じゃないのは確かだ。
だとすると・・・信徒がもう俺を狙いに?
いや、その前にまだ行動は起こしてないから、メシア様に気づかれていないはずだ。
そう考えてるうちも呼び鈴は止まらない。
ってか連打するやつは俺の知ってる中ではそう多くない。
「はいはい、いまでますよ」
そう言いながらドアを開けた。
「やっぱりいた」
呼び鈴を連打してたのは光喜だった。
「どうした?今日は光喜一人だけか?悠夜はどうしたんだよ?」
「ん?今日は悠夜いないよ。昨日のうちに別れを済ましたんでしょ?」
あ〜そういえばそんなことも言ってたな。
「それにしてもよく俺が家にいるってわかったな」
「うん。悠夜がね、『俺との一戦を交えた次の日に学校などいけるはずがない』って」
そういうことね。でも傷はさほど深くなかったし、寝たらほとんど治っちまったけどな。
「まぁ立ち話もなんだから、急ぐ必要がないんだったらあがっていけよ」
「ううん、悠夜に黙って出てきたから、早く戻らなくちゃいけないんだ」
「そうか、っで何の用だ」
「うん、隼人が魔女狩りでも俺は隼人といつまでも友達だから。
悠夜は昨日あんなこと言ってたけど、多分本気じゃないから」
いや、あいつはマジで昨日俺を殺す気だったぞ。
「何かあったらいつでも相談してよ。あ、でも引越し先教えれないからそれは無理か」
笑いながら光喜は言った。
「ありがとう。なぁ光喜ちょっと話があるんだけど」
悠夜には期待してないけど、光喜も一緒だと烏丸を止めれるかも。
俺は一瞬そう思い、光喜にそのことを話そうとしたけど、
「いや、やっぱりなんでもない。俺も光喜とはずっと友達だからな」
「うん。じゃあ悠夜に見つかったらうるさいから行くね」
「あぁ」
光喜は走って帰っていき、俺はその姿が見えなくなるまで見送った。
「よかったんですか?」
「な!」
俺の背後から明日香が話し掛けてきた。
「明日香、なんでここにいるんだよ。俺は今から魔女狩りを抜けるんだぞ。そんな奴と一緒にいたら」
「勘違いしないで下さい。私は魔女狩りに組したのではなく、隼人様、あなたに組したのです」
『あなたには鬼庭君と一緒に行動して、真の魔女狩りを見てほしいの』
そういえば北条さんはそう言ってたっけ。
今ごろ北条さんは何してるのか?
こういうときにいてくれたら、頼みやすかったんだが
「隼人様?」
っとそんなこと考えていられなかったな。
明日香がいるってことは、俺一人じゃないってことだ。
しかも明日香は諜報部員だ。
情報さえあればなんとか・・・・
「明日香、烏丸の行動を調べてくれ。あとできれば今の魔女狩りの動きも頼む」
「わかりました」
そう言い残して、明日香は消えた。
「今思えば今日はずっと亜矢の側にいたほうがよかったか?」
亜矢は今学校、夜に狙うと情報があるが、それがデマだと今ごろ・・・・
「亜矢!」
俺は急いで家を飛び出した、瞬間誰かとぶつかった。
「きゃ」
「あ、すいませ、って亜矢、お前学校はどうしたんだよ?」
「早退。隼人が休みって聞いて、昨日何かあったんじゃないか、心配したんだよ」
そういえば、昨日のあの件から会ってなかったしな。
「それに、昨日家に行っても留守だったみたいだし」
「あ〜もう寝てた」
バレバレの言い訳をして、その場を凌いだ。
「まぁ元気みたいで一安心だよ。」
そう言いながら家に入り、スーパーから買ってきた野菜などを冷蔵庫にしまっていた。
「そんな物買ってきてどうするんだ?俺、料理できないぞ」
「ん?私が作ってあげるよ。どうせ隼人ロクな物食べてないんでしょ」
「あ、あ、ありがとう」
急に動揺してしまい、まともに亜矢の顔が見れなくなってしまい、俺は礼だけ言い自分の部屋にかけこんだ。
やべえなぁ、急に意識しだしたじゃねぇか。
こういうことは月に一回ぐらいしてくれて、もう慣れたと思ったんだがな。
俺は布団に仰向けに倒れこみ、心を落ち着かせた。
「隼人様、今戻りました」
真っ暗な部屋に明日香の声が聞こえてきた。
ん?寝ちまったのか。
俺は部屋の電気を点け、明日香の前に立った。
「どうだった」
「はい、未だ隼人様の行動にメシア様共々気づいていません」
っということは、烏丸は一人で俺と戦うつもりか。
「でも、烏丸鋭霧には100人の信徒ともう一人の補佐として武田毅が派遣されました」
な!武田さんが・・・・
武田さんといえば元支部長官で、実力は幹部会の人たちに遅れをとらないすごい人だ。(11話参照)
そんな人も一緒だとは、やっぱり最初から無駄だったのか。
「隼人様、私も共に戦わせていただきます」
「明日香・・・・」
その気持ちは嬉しいんだが、明日香は悪魔で諜報部員だ。
戦闘スキルは北条さんとの戦いで充分とは言えないが、大体はわかる。
スピードはそこそこだが、戦闘スキルはもしかしたら、信徒以下だ。
そんな子を戦わせるわけにはいかない。
「お前は隠れとけ。俺と一緒に無駄に死ぬ必要はない」
「死ぬつもりなのですか?」
つい口にしてしまったけど、多分そうだろう。
いくら俺でも烏丸と武田さん2人相手に勝てるはずがないしな。
「嫌です。隼人様だけ危ない目に合わせるわけにはいきません」
こいつがこれほどまで頑固だとはな。
「わかった。でもお前は死ぬな。俺が死んだら北条さんの所へ戻れ。それだけは約束してもらう」
「・・・・わかりました」
しばらく考えた後、納得のいかない顔で明日香は承諾した。
さて、下ではいい臭いもしてきたし、亜矢はご飯の支度は済んだのだろうか?
「おぉ、今日は中華か」
食卓には酢豚、マーボー豆腐、チンジャーロース、その他いろいろのおかずが並んでいた。
「お口に合うかわからないけどね」
亜矢はエプロンを外して、椅子にかけた。
いや、亜矢の料理の腕は確かだ。
俺が保証する。
「それじゃあ覚めないうちに食べようか」
「お?家で親が待ってるんじゃないのか?」
いつもは作るだけ作って帰るのだが、どういう風の吹き回しだ。
「そのつもりだったんだけどね。今日は一緒に食べようかなぁって思って。それに・・・・」
「それに?」
「何か嫌な予感がするの。このまま別れたら、もう隼人と会えないような気がして」
まさか魔法使いの血がそう感じさせてるのか?
「おかしいよね?でもわかっちゃうの。何でか知らないけど、私には見えるの」
見える?もしかして未来が見えるとか?
そういう魔法使いがいるとも聞くが、亜矢がそういう種類の魔法使いかどうかわからない。
でも俺がしてやれることは、
「気にしすぎだ。ほら早く食おうぜ」
「う、うん」
亜矢を不安にさせないことだ。
「それじゃあ明日、学校でね」
「あぁ」
そう言って亜矢と家の前で別れた。
「明日香」
「なんでしょうか?」
「今日は常に亜矢の側にいてほしい」
「それでは、共に戦えないじゃないですか」
「お前には、俺が仕留め損ねた信徒を、亜矢の所へ向かう前に撃破してほしい。できるだけ烏丸と武田さんは俺が食い止める」
「わかりました」
そう言って、明日香は闇に消えた。
「よし、亜矢のために俺はこんな所で死ぬわけにはいかねぇ」
気合を入れなおし、俺は自分の屋根の上に陣取った。
ここなら、どこから攻めてきても1発でわかるからな。
さぁ、次回いよいよ出会い編での最終決戦が始まる。