第11話:帰還
ソウルイーターの力が使えなくなっている隼人
そんな時に瞬との対面
っく、ソウルイーターの力を使えない今、こいつに襲われたら太刀打ちできないぞ。
でもなんでこいつは俺が寝てる間に殺らなかったんだ?
「お前、今でも俺を恨んでるのか?」
「いいや、恨んでるのは、お前じゃなくて魔女狩りにだ。まぁ、あの時道連れにするのは誰でもよかったんだけどな」
予想外の返答に意表をつかれた。
でも俺も一応魔女狩りなんだが・・・
しかも誰でもいいってお前は通り魔か!
「正確に言えば、音葉と琴葉を殺した奴だ」
「!!!」
「音葉と琴葉には何も悪いこともしてないのに・・・・。ただ片桐家に生まれてきただけで殺されたってのが、許せねぇんだよ」
瞬は大きな声で叫び、壁に拳を叩きつけた。
「とりあえず落ち着け、音葉と琴葉は生きてる」
「は?それは本当か?」
瞬は興奮しているのか、俺の胸倉を思い切り掴んだ。
「あぁ、俺が逃がした。でも魔女狩り内では死んだと公表はされている」
「そうか・・・・よかった」
瞬は膝を折り、その場に座りこんだ。
「あら?隼人君目が覚めたの?ごめんねちょっと留守にさしちゃって」
その時ちょうど、井上さんと長瀬さんが帰ってきた。
「おぉ、坊主、そんな所で座り込んでどうしたんだよ」
長瀬さんは座り込んでる、瞬を片手で立ち上がらせた。
この人は一体どれほどの怪力の、持ち主なのかと疑いたくなるように軽々と。
「そういえば坊主、この前は悪かったな」
昼飯の最中に長瀬さんが口を開いた。
ってかこの人は誰に対しても、坊主って呼ぶから俺のことか瞬のことかわかりづらいんだよな。
「魔女狩りから美咲を守ってくれたんだってな。俺のかわりに」
この一言で俺に言ってることだとわかった。
「そんな、俺なんかじゃあ長瀬さんの役不足で・・・」
「お前、魔女狩りの癖に仲間と戦ったのか?」
瞬が2人に聞こえないように耳打ちをしてきた。
「そのことには触れるな」
俺は平常心を保ち、普通の声で言った。
「おい坊主、そいつに何を言ったんだ?」
「え、え・・・それは・・・」
瞬はこの後小一時間ほど長瀬さんに絡まれた。
でも決して俺が魔女狩りだとは口は割らなかった。
意外といい奴なんだな。
その後俺は瞬に外に来るように呼び出された。
「いつまで黙っとくんだ?それともこのまま真実を言わずに消えるつもりか?」
「そんなこと言う必要ないだろ」
「そうか。だが覚えておけよ。お前のせいで美咲さん達に迷惑がかかってることをな」
そう言い残して、瞬は小屋に戻っていった。
あいつなりに心配してくれてるのだろう。
俺も小屋に入ろうと足を進めた瞬間
「人だ!人がいるぞ!!」
「な・・・」
振り向いて、声の正体を確かめて、俺はうろたえた。
まだしも普通の人とか迷い人ならよかったものの、声の正体は信徒だった。
しかも今見えてるのは十数人だが、ざっと百を超えるほどの気配を感じた。
俺は急いで小屋に戻り、3人にこのことを伝えた。
「長瀬さん、井上さん、瞬、信徒にここが見つかった」
「やっぱりな。そろそろここも終わりと思ったぜ」
長瀬さんは十文字槍を手に、外に飛び出した。
俺たちも長瀬さんに乗じて外に出たが、完全に囲まれてしまっていた。
「オラオラオラ!」
長瀬さんは槍を振り回し、ジリジリと近づいてくる信徒を、俺たちから引き離した。
流石の長瀬さんも一人だったら、俺たちを守りながら戦うのはきつそうだ。
「これじゃあ捕まるのも時間の問題だな」
瞬は冷静に解説してるだけで、まったく動こうともしなかった。
まぁ、それは俺も同じなんだけどな。
「おい、あれって光明寺様直々の神兵、鬼庭様じゃねぇか?」
一人の信徒がそう言ってるのが耳に入ってきた。
もしかして本部の信徒も混じってるのか?
「隼人君・・・・?」
井上さんが俺の顔を窺ってきた。
こりゃバレるのも時間の問題だぞ。
「あ〜ウザってぇ!おっさんどいてろ!!」
【ヒューマノイドボム】
瞬が長瀬さんを後ろに下がらせ、俺の話をしていた信徒の方に人の模型をいくつも飛ばし、爆発させた。
「お前、魔法使いか・・・・」
長瀬さんは驚きを隠せないほど、びっくりしている。
「そこから逃げろ!ここは俺一人で充分だ!」
でも2人とも足がすくんでいるのか、いっこうに動かない。
「鬼庭!さっさとそいつらを連れていけ」
瞬は他の信徒にも、さっきと同じ技で爆撃しながら叫んだ。
「あ、あぁ。必ずまた合流するからな」
俺はそう言い残し、井上さんを担ぎ、長瀬さんと一緒に、瞬が作ってくれた逃げ道に逃げ込んだ。
「はぁはぁ、ここまでくれば」
俺は井上さんをちょうどいい切りカブに座らせた。
その後は瞬が帰ってくるまで、俺たちは黙りっぱなしで長い沈黙が続いた。
「あ・・・」
一番最初に口を開いたのは井上さんだ。
その対角線上には瞬がいた。
「大丈夫?いま手当てするから」
井上さんはさっきまで自分が座ってた切りカブに瞬を座らせ、治癒魔法をあてはじめた。
かなりの激戦だったのだろうか、瞬の服はボロボロになっていた。
「おい、鬼庭。本部の信徒を率いてるのは相馬和だ。知りあいだろ?」
瞬がいきなり俺にそう言い驚いた。
そうか。相馬さんが俺を探しに・・・
「出て行く前にちゃんと説明ぐらいはしとけよ」
そうだな。出て行く前にちゃんと俺が魔女狩りだと説明するのが筋ってもんだな。
俺は瞬の言葉で決心し、2人に俺が魔女狩りであることを打ち明けた。
「薄々気が付いていました」
「まぁ、坊主はそこらの魔女狩りとは違うし、放っておいても大丈夫だろ」
2人の薄い反応に少しばかり驚かされた。
やっぱり、2人ともさっきの信徒の言葉を耳にしてたのか。
「じゃあ2人にこれ以上迷惑かけるわけにはいかないので俺、行きますね」
そう言って、3人に背を向けてさっきの小屋の方へ歩き出した。
「坊主!これだけは覚えとけ。次に会う時は敵同士だ」
俺にとって長瀬さんのその一言はすごい重かった。
俺はさっき逃げてきた道を戻り、魔女狩りと合流しようと試みた。
「さっきの奴がいたぞ!」
「は?」
俺は瞬く間に信徒に囲まれてた。向こうは殺す気満々だ。
おいおい、まさかこういう展開が待ってるとはな。まぁそっちからかかってきたら自己防衛だよな?
そう都合よく介錯した俺は、向かってくる信徒を次から次へと殴り倒していった。
流石にソウルイーターの力抜きじゃあきつすぎるぞこれ。
「どけお前ら!」
体力の限界がきそうになった時、一人の男が信徒を掻き分けて現れた。
その男は黒のズボンとコートに、茶色のマント、赤髪で肩まで伸ばしていて後ろにくくっていた。
左の腰には名刀っぽい刀を一本、背中に2本クロスさせて計3本の刀を背負っている。
あと、左右の腰に小刀が2本づつぶら下がっていた。
「裏切り者が再び戻ってくるとはいい度胸じゃねぇか」
男は左の腰にぶら下がっている刀を抜き、俺に向けてきた。
「誰だ、お前?見ない顔だが・・・・」
「っふ、俺のことを知らないか。無知の神兵だな。いいだろう冥土の土産に教えてやる。武田毅だ」
な!!!噂だけはよく耳にする名前だ。
血、血、血、武田毅の声を聞くところ全て血の色に染まる。
女、子供、老人、全てに平等に華麗な剣技を持って制する。
残忍、凶暴、悪辣、卑怯、およその悪の形容すべて当たる男。
最恐にして最強の男。
血の滴る音の中に生き、骨の折れる音を好み、血の叫びの中で微笑む。
なのに今までの死者は0。魔女狩り内で最も危険な男
幹部会並みの実力を持つが、支部長官を務めている、と聞く。
こんな奴に狙われたら・・・
プス
体の中に冷たい物が入り込んできた感触。
見ると刀で胸をつらぬかれていた。
「ぐはっ」
剣はすぐに抜かれ、俺は血を吐き跪いた。
「隼人君!!」
カン
金属が交わる音と共に相馬さんの声が聞こえた。
「案ずるな。急所は外してあるし、臓器にも傷はつけてない」
武田はそう言いながら、血のついた刀を舐めた。
「どうして隼人君を刺したんですか?」
「こいつは井上美咲と一緒にいた。理由はそれで充分じゃねぇか」
「だからって、痛っ・・・・」
相馬さんが喋っている途中に、武田は相馬さんの右腕に小刀を突き刺した。
「ごちゃごちゃうるせぇぞ。二度と剣を持てねぇ腕にしてやろうか?」
武田はそう言いながら、小刀で右腕をえぐった。
やめろっ!
叫びたくても俺は胸を貫かれていて、声も出ない。
ただうずくまるしか・・・・
「毅、これ以上勝手をすると、あなたを反逆者とみなすわよ」
えぐりつづける毅の腕を押さえながら、安井さんが言った。
安井さんも一緒に来てたのか。
そう安心していると・・・・
「おもしろい。上等じゃねぇかぁ」
は?本当に反逆者になるつもりか?
「それやったらここで死んでもらおか?」
「や、大和・・・・っち」
武田は光明寺さんの姿を見ると、舌打ちをして、自分の信徒を引き連れて去っていった。
「隼人も見つかったし、さっさと帰るで。和と隼人の手当てもせなあかんしな」
光明寺さんの指揮で信徒らは一斉に退却し、俺たちはのんびり電車で本部まで戻った。
俺は疲れ果て途中寝てしまい、本部に着くまで目を覚まさなかった。
「あ〜、よく寝た」
魔女狩り本部の医務室のベッドの上で目を覚ました。
傷は痛みもないし、すっかり癒えているらしい。
俺は伸びをして、皆のいる所に向かった。
ってか今日は何曜日だ?
外はまだ明るいし、もし平日だったら皆は今ごろ学校だな。
「よう隼人。ご苦労だったな」
どうやら今日は日曜日のようだ。
朝霧先輩が後ろから俺の肩に手を回してきた。
「朝霧先輩も元気そうで」
「まぁな。ってかメシア様がお前を呼んでたぞ。行ってこいよ」
俺は朝霧先輩に背を押され、メシア様の所へ向かった。
一体何の用だろう?
まさかソウルイーターの力を失ったことに気づかれたのか?
考えても仕方ないし、行くか。