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凛と陸。それぞれの夜

凛(中身は陸)「……あ、あの……不動です。そちら、大丈夫でしょうか……?』」


陸(中身は凛)「不動くん! ちょっと、この体どうなってるのよ! 食べても食べても満たされないし、今すぐ何かを胃に流し込みたくて、体が震えてるわよ!」


凛(中身は陸)「……すみません、僕の体がだらしなくて……。えっと、もし本当に限界でしたら……机の左の引き出し、奥の底板を外してください。僕の非常食があるんです……」

凛は指示通りに引き出しの奥を探る。そこには不自然に数冊の男性向け週刊誌が詰め込まれていた。


陸(中身は凛)「……っ、不潔! 私にこんなものを見ろって言うの!?」


凛(中身は陸)「……あ、いえ、それはカモフラージュなんです。母さんは僕がその本を隠してるって思えば、それ以上は奥を探らないので……。すみません……」


陸(中身は凛)「いや、あのお母さんなら食べ物を隠す意味無いと思うけど……」


陸(中身は凛)が嫌々ながらそのカモフラージュをどけると、そこには小さな木箱が嵌め込まれていた。しかし、おかしい。その箱のサイズに対して、中から出てくる物の量が明らかに「物理法則」を無視していた。


陸(中身は凛)「……ちょっと、なによこれ。……チョコ、ポテチ、またチョコ……えっ、まだ出てくるの!? 箱のサイズよりも多いわよ!?」


小さなスペースから、出るわ出るわ、業務用サイズのチョコバーや特大袋のスナック菓子。明らかに箱の容積を超えた量が、雪崩のように床へ溢れ出した。


陸(中身は凛)「……不動くん、あなたのお母さん、リビングであんなに食べさせてくれてたじゃない。なのに、なんでさらにこんな……箱より多い量を隠し持ってるのよ!?」


凛(中身は陸)「……えへへ、詰め込みの技術には自信があるんです。……それに、食事は食事、おやつは別腹……というか。……不安なんです、常に何かが口に入っていないと……」


凛は溢れかえったお菓子の山を、冷徹な目で見下ろした。


陸(中身は凛)「呆れた。どうりでこの体に……っそんなことより不動くん。それよりも重要な話があるじゃない!!私達の体が入れ替わってどうやって戻すかよ!一生この体のままなんて絶対イヤッ!!!」


凛(中身は陸)「す、すみません!」


陸(中身は凛)「私達がぶつかって意識を失ったときに夢を見たんだけど、このバラバラの器で駅伝で全国大会に行く。みたいなことを誰かが言ってなかった?」


凛(中身は陸)「そういえば言ってました!……僕の体はまともに走ったこともないですし……無理ですよ。僕は運動からも逃げた人間です。凛さんのような完璧な体を使いこなせる自信もないです。……だから他の方法は無いか探しませんか?」


陸(中身は凛)「それはそうね。この体で走るのは非現実すぎるわ!明日直接会って状況を整理しましょう」


凛(中身は陸)「そ、そうですよね! そうしましょう!」


陸(中身は凛)「じゃあ朝6時に山の麓公園に集合で!」


凛(中身は陸)「分かりました!宜しくお願いします!」


陸(中身は凛)「あと、その体に指一本でも不浄な真似をしたら許さないわよ」


凛(中身は陸)「ヒィッ!?」

既に風呂を済ませていた凛(中身は陸)は冷や汗をかく。


深夜の羽瀬家。凛(中身は陸)が、陸(中身は凛)との密談を終えてスマホを置くと、ドアが静かにノックされた。返事をする前に、隙のない動作でドアが開く。


そこに立っていたのは、兄・羽瀬 駿だった。

駿「……凛。誰と電話していた。こんな時間に夜更かしはコンディションに響く。今は大事な時期だ、早く寝なさい」


駿の声には一切の無駄がなく、妹のプライバシーよりも「体調管理」を最優先する冷たさがあった。凛(中身は陸)は緊張のあまり、つい陸特有の丁寧すぎる言葉が出てしまう。


凛(中身は陸)「あ、は、はい……! わかりました、お兄様」


駿「…………っ。……お兄様?」


駿の眉が、怪訝そうにピクリと動いた。普段の凛なら絶対に口にしない、芝居がかった呼び方。駿は数秒間、無言で妹の顔を凝視した。


駿「……やはり、昼間に頭を打った影響が残っているようだな。……だが悪くない。たまには、そういうのも」

駿はそれだけ言うと、妹の返事も待たずにドアを閉めた。


凛(中身は陸)「(駿くんはけっこうシスコンなんだな)」


ようやく一人になった。


凛(中身は陸)「そういえば今日、僕の体は誰が保健室に運んでくれたんだろう」


一方不動家では陸(中身は凛)が夜空を眺めていた。


陸(中身は凛)「明日起きたら体が戻ってますように!明日起きたら体が戻ってますように!」

何度も何度もお願いをして眠りについた。


ジリリリッ!

早朝5時。けたたましいアラームが鳴り響く。


陸(中身は凛)「…………夢じゃ、なかった」

窓から差し込む朝日は、残酷なほど鮮明に、汚い部屋と、自分の醜い贅肉を照らし出していた。

読んでいただきありがとうございます!多くの方々に読んでいただき大変光栄です!

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