男子駅伝メンバー選考会。最後に泣いたのは
選考会の当日。残暑が残る9月中旬。それぞれがアップを終えて会話も無く、スタートラインに7人が集まる。アップだけで汗が止まらないほどの暑さだ。女子部員は少し離れた場所で見守っている。
烈華「いよいよ、男子のメンバーが決まるのね」
凛(中身は陸)「凄い緊張感……みんなに頑張ってほしい」
桃葉「見てる方が緊張しちゃうよね」
スタートラインでは誰も目を合わせずにいた。駿が少し前に出て話をする。
駿「今日の選考会で駅伝を走る6人を決める。距離は本番と同じ3000m、タイムの計測は顧問の村田先生にお願いをしている」
村田先生「今日の選考会、悔いの残らないように頑張ろう!」
緊張感がある雰囲気の中で、7人がスタートラインに整列した。ヨーイの合図で姿勢を落とす。パンっ!という音で走りだした。
先頭グループは駿と鷹斗、次いで単独走の隼人、少し後ろを犬飼、陸(中身は凛)、亀山、佐竹の4人グループで走っている。
犬飼「(今は3分20秒のイーブンペースで走るしかない。後はこいつらがどこまでついてくるか)」
亀山「(この集団で最後まで走れば、ラストスパートでまくれるはず)」
佐竹「(仕掛けるタイミングが重要だな)」
陸(中身は凛)「(最初の1000mまでは様子をみる)」
駿と鷹斗は最初の1000mを2分50秒で通過。
鷹斗「はぁはぁ(駿さん、このペースで余裕そうなのヤバいな)」
隼人は2分59秒で通過。その後、4人の集団が3分18秒で通過。
犬飼「はぁはぁ(だいたい設定通りだが、こいつら……ピッタリくっついてきやがる)」
亀山「はぁはぁ(ここまでは順調だ。集団で走っていればこちらが有利なはず)」
佐竹「はぁはぁ(どこで仕掛ければいいんだろ)」
陸(中身は凛)「はぁはぁ(3分18秒がこんなにも余裕を持って走れるなんて……これならペースを上げられる!)」
1000mを通過して陸(中身は凛)が集団から前に出て、早速仕掛けた。佐竹は迷っていたが、その仕掛けについていくしかないと思い、ついていく。
犬飼と亀山は早すぎる仕掛けに反応できず、少しずつ離されていく。
犬飼「はぁはぁ(仕掛けるのはここじゃねぇ。あれについていったら今は潰れる)」
亀山「はぁはぁ(予想外だ……佐竹はあのペースで最後までいくのは厳しいんじゃないか?)」
先頭の駿と鷹斗が2000mを通過。少しペースは落ちて、この1000mは2分58秒。隼人はほぼイーブンの3分01秒。
少し離れて、陸(中身は凛)はペースが上がり、3分15秒。佐竹が少し後ろで3分16秒。
離されていた犬飼と亀山は3分20秒。
陸(中身は凛)「はぁはぁ(……まだまだいける!)」
佐竹「はぁはぁはぁ(陸についていったの失敗したか??ヤバい……かなりキツい)」
陸(中身は凛)は更に加速し、佐竹を置いていく。
犬飼「はぁはぁはぁ(不動……まだペースを上げれるのかよ。俺はやべぇな……踏ん張りがきかねぇ)」
亀山「はぁはぁはぁ(キツいけど離れてはいない!ラスト200mになったら一気に仕掛ける!)」
駿と鷹斗は先にゴール。駿は鷹斗を引っ張るように走り、8分48秒。鷹斗は8分49秒で自己ベスト更新。
鷹斗は息を切らしながら駿にお礼を言った。
鷹斗「駿さん、引っ張ってくれてありがとうございます!自己ベストでました!」
駿「よく最後までついてきたな」
駿は鷹斗を褒めつつ後ろが気になっていた。
少し遅れて隼人が9分ちょうどでゴール。
隼人「……8分台はでなかったか」
陸(中身は凛)はラスト400mで3段階目のスパートをかけて後ろとの差をどんどんと広げていく。
陸(中身は凛)「はぁはぁ(最後のスパートで押し切る!)」
村田先生「あんなに太っていた不動くんがこんなにも痩せて速くなるなんて信じられない……」
村田先生は陸(中身は凛)のこれまでの変化を殆ど見ていなかったから、こんなに痩せて、こんなに速くなってるのが信じられなかった。
佐竹は前を走る陸(中身は凛)との差が広がり、後ろを走っている亀山と犬飼にも迫られきた。ラスト400mで佐竹も粘りを見せて亀山と犬飼は佐竹を抜くに抜けない。
佐竹「はぁはぁはぁ(ここで抜かれたら俺は抜き返せない……この前の位置は絶対に死守する!)」
犬飼「はぁはぁはぁ(抜かせねぇ……亀山もそろそろ仕掛けてきそうなのに……)」
亀山「はぁはぁはぁ(かなりキツいけど……この展開ならいける!)」
ラスト200mで佐竹が最後の力を振り絞りスパートをかける。亀山もそれに合わせて得意のラストスパートをして犬飼を抜き去り佐竹を追い抜こうとしていた。
犬飼「はぁはぁはぁ(踏ん張りがきかない……クソっ……俺はここまでか……『負け癖がついてる』ムカつくが、こんな時に不動に言われたことを思いだしちまっている。負け犬……だと?ふざけんな!俺は負け犬なんかじゃねぇ!!!俺は粘りの犬飼だぁ!!!)」
桃葉から貰った言葉を思いだし、殻を破ったかのように犬飼はスパートをかける。がむしゃらに腕を振り、顎も上がり、鬼の形相で決してカッコいい走りとは言い難いが、その走りで一度は抜かされた亀山にラスト100mで追いつく。
亀山「はぁはぁはぁ(犬飼くん、息を吹き返した!?けどこのラストスパートでは絶対に負けない!!!)」
佐竹も粘りを見せて少しだけ2人の前を走る。
佐竹「はぁはぁはぁ(師匠のお陰でラスト粘れている!!!俺の足!!!最後まで逃げ切ってくれぇー!!!)」
犬飼「はぁはぁはぁ(泥臭くったっていい!俺には才能が無いから、もがいもがいて、限界まで体を追い込んで出し切るしかねぇんだ!うぉりゃあぁ!!!)」
犬飼は肺が焼けるくらい呼吸を追い込み血の味がしていた。地面を叩きつけるような荒々しい足音。それはもう、ブレーキをかけていた臆病な犬飼の走りではなかった。
佐竹も不整地を走っていた成果が出て、足腰が強くなり大幅なペースダウンはせずに粘りに粘っている。
亀山は高い身長を生かして大きなストライドで追い込んでいる。
前を走っていた陸(中身は凛)はラストスパートで押し切り9分45秒でゴール。すぐさま後ろを振り返り、3人の走りを見る。
陸(中身は凛)のゴールの直後、3人がゴール目前で最後のダッシュをしてほぼ横並びになっている。
最後は3人の横並びが少し崩れてゴール。
出し切った3人はその場に倒れ込んだ。
離れて見ていた女子には誰が勝ったかが分からない。
烈華「誰が勝ったの?」
凛(中身は陸)「こっからだと分からなかった……それにしても、みんな凄い走りだったね」
桃葉「あれ?誰か泣いてる?」
倒れ込んだ1人が顔を上げられずに泣いてる。悔し涙か、それとも出し切った安堵か。その泣いている声は静まり返ったグラウンドに痛いほど響いていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます!毎日読んで下さる方が増えるのが本当に嬉しいです!もうすぐ本番の駅伝も始まりますので引き続き読んで頂けますと幸いです!




