元100キロの初のタイムトライアル
大会の熱が冷めないまま陸(中身は凛)、亀山、佐竹は初のタイムトライアル3000mに挑戦する。レギュラー争いをする3人にとっては、これでレギュラーが決まる訳ではないが負けられない。
この2ヶ月間は3人とも休まず練習を継続し、体も走る体へと変化していった。特に陸(中身は凛)の徹底した生活で見るからに激変している。この体でどこまで走れるか陸(中身は凛)もウズウズしていた。
会話も少なく、各自アップを済ませて、いざスタートラインに。駿は今日のレースの疲れを微塵も見せず、3人のレースを見届けにきて、スタートの合図を出した。
一斉にスタートし、序盤は誰も飛び出さず3人の集団で走る。
陸(中身は凛)「(足取りはだいぶ軽くなってる、とりあえずはイーブンペースでいく)」
亀山「(若干の余裕はあるが、飛び出す勇気が無いから一旦抑えよう)」
佐竹「はぁはぁ(2人とも余裕そうにしてるけど、メチャクチャキツい!これヤバいかも!)」
3人ともそれぞれ余裕度合いが違う状況だが、集団のまま1000mを3分50秒で通過する。
亀山「はぁはぁ(佐竹はキツそうだな……仕掛けたらイケるかも……いやまだだ!もう少し様子を見よう)」
佐竹「はぁはぁ(ヤバい……もう着いていけないかも……)」
2000mを7分40秒、この1000mのラップも3分50秒で通過。特に仕掛けていないが徐々に佐竹が遅れ始める。
亀山「はぁはぁ(佐竹が勝手に落ちたか……陸が不気味なんだよな……けどここは仕掛けていく!)」
亀山は大きなストライドで練習の時のようにグングンと加速していく。陸(中身は凛)は亀山についてはいかない。
陸(中身は凛)「(確かな走っている『鼓動』を感じる……!まだまだこの体はスピードを出せる潜在能力がある。だけど今はまだ……だから焦らず走りきる)」
ラスト1000mは特に見所もなくゴール。
1位11分20秒 亀山
2位11分30秒 陸(中身は凛)
3位12分01秒 佐竹
ゴール直後、悔しそうにしている佐竹を見て陸(中身は凛)と亀山は話しかけられなかった。
佐竹「(2ヶ月間、同じ練習をしてきたのにこんなに差がつくのか……)」
佐竹は陸の横顔を見た時、以前の重そうな面影が消えていた。亀山は肩で激しく息をしていたが、陸(中身は凛)は呼吸の乱れを最小限に抑えていることに気づいて怖くなった。
そこで駿が切り出す。
駿「3人ともよく走った。順調に走力を伸ばせているから焦らず、怪我をしないように引き続き取り組んでいこう」
励ましの言葉が佐竹にとっては心にまで届かなかった。2人ともお疲れ様としか会話をせず、すぐに帰ってしまった。
亀山「佐竹のやつ……大丈夫かな……」
陸(中身は凛)「今はそっとしておこう。1人で考えたいこともあると思うから」
亀山「それにしても陸……だいぶ痩せたように見えるけど今何キロなんだ?」
2ヶ月前からの体型の明らかな変化。誰もが疑問に思っていた。
陸(中身は凛)「実は……今は75キロになった!」
この2ヶ月間の過酷なルーティンを継続させながら少しずつ負荷に耐えられるようになり、負荷を上げてを繰り返すうちにこの1ヶ月で約14キロも痩せたのだ。
亀山「な、なんだって……!? あの100キロ近かった頃から、たった2ヶ月で25キロも削ぎ落としたのか!?どうりで速い訳だ。それに全部のラップを3分50秒で走るなんて精密機械みたいだな……」
亀山は2人に勝ったからといって油断は出来ないと感じている。
陸(中身は凛)は上機嫌で家に帰るとすぐに部屋に駆け上がり、今日の互いのレースの賞賛、報告をするために凛(中身は陸)に電話をかける。待ってましたと言わんばかりにすぐに出た。
大会の会場では2人で話せないので、互いに2人で会話できるのを待っていた。
陸(中身は凛)「もしもし!ついに3000mで12分を切ったの!お母さんの美味しくて栄養のある食事とお父さんも走るアイテムを買ってくれて、とても助かってる!陸くんのご両親には本当に感謝しているの!」
『陸くん』と言われてドクン、と凛の心臓が跳ねた。自分の名前なのに、彼女の声で呼ばれると、まるで魔法にかけられたような気分になる。
凛(中身は陸)「(陸くん?初めて名前で呼んでくれた)2人が協力してくれて何よりだよ!」
嬉しそうに話す、陸(中身は凛)を見て凛(中身は陸)も嬉しくなる。
陸(中身は凛)は、自分の練習内容、食事、生活を含めて徹底したことで、陸の元々の「ポテンシャル」が噛み合い始めたことに、確かな手応えを感じていた。
凛(中身は陸)「凛さん!今日のレース!やれたよ!流石、アスリートの体だね!」
陸(中身は凛)「もう……凄すぎて鳥肌がたった!私が切れなかった4分30秒を大幅に上回る4分26秒。立派な走りだった!陸くん……あれは私には出来なかった走りなの」
凛(中身は陸)「そうなの?寧ろいつもはもっとダイナミックに走ってると思ってた」
凛(中身は陸)にとっては意外な答えだった。
陸(中身は凛)「陸くんには言ってなかったけど、私のレーススタイルは序盤はペースを抑えて後半からペースを上げる。周りからロングスパートの鬼と呼ばれていたけど、本当は前半から突っ込んで失速するのが怖いだけだったんだ……」
凛(中身は陸)「(長く走ってると先入観みたいなものができてしまうものなのかな……)凛さんのスタイルは知らなかったけど、僕ができたということは凛さんなら絶対にできるはず!」
陸(中身は凛)は何か考えているのか、少し間が空いて話し始める。
凛(中身は陸)「仮に体が戻ったとしても、今日の陸くんのような走りができるかは、正直不安はある。前半からいける何か確証があったの?あれば教えてほしいの」
本人にとっては悩みだったことを中身が入れ替わり、2ヶ月で自分を越えてしまったことに困惑もしていた。
凛(中身は陸)「大会の少し前の練習でインターバルをやっている際に一本目に68秒で走ってみて、ニ本目と三本目は72秒で走れたから、前半飛ばしてもイケるかもって思った!それだけだよ!」
意外とシンプルな理由だったが今までの凛はインターバルでも前半から飛ばしていく!という走りは怖くてほとんどやったことが無かった。
陸(中身は凛)「陸くんなりに色々考えて練習をしていたんだね。プールにも頻繁に通い、フォームの調整にも取り組んだことで速いペースにも耐えられるようになったのも要因ね。本当に凄いよ陸くん。そして女子駅伝部も立て直してくれてありがとう。とても感謝してる」
素直に凛から褒められたことがなかったので思わず嬉しくなった。
凛(中身は陸)「凛さんはいつも感謝の気持ちを常に持っているんだね。よくテレビとかでトップアスリートがメダルを取ると感謝の気持ちを言ってるけど、以前の僕はその意味が分からなかった。でも、本気で物事に取り組むことで周りの支えを感じ、感謝の気持ちが芽生えることが分かった。教えてくれて、ありがとう!凛さん」
凛のアスリートの肉体に入った陸の精神も以前とは比べものにならないくらいに成長していた。
そこへ凛(中身は陸)の部屋をノックする音がする。
駿「凛!ご飯ができたから行くぞ!」
凛(中身は陸)「今行く!……それじゃあまたね凛さん!」
陸(中身は凛)「うん。またね!」
2人とも、もう少し話していたい気持ちもあったが、駿に勘繰られそうなので急いで電話を切る。
駿「凛……今日の大会、良い走りだった。優勝おめでとう」
駿は凛のことをジッと見つめて何を言われるか心配したが、褒めてくれたことにホッとして、あらためて嬉しさが込み上げてきた。
凛(中身は陸)「ありがとう!お兄ちゃんも優勝おめでとう!速くてカッコよかったよ!」
満面の笑みの妹を見て、駿は満足げな表情をしていた。
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