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100キロの地獄のトレーニング!駅伝に向けての第一歩

放課後の男子駅伝部の練習。ようやくメンバーが揃い、駿や犬飼、そして真壁兄弟が激しいインターバル走を繰り返す中、陸(中身は凛)は一人、グラウンドの最外周を黙々と歩いていた。


また、亀山と佐竹はゆっくりとジョギングしながら2人で話をしている。


亀山「なぁ、羽瀬さんの姿が駅伝部に全くないのだが……」


佐竹「男子と女子は練習が別々みたいだな。大丈夫。俺らにはご褒美があるから少しくらい辛くても問題無いさ!」


亀山「てかさぁ、ただ駅伝走るだけじゃくて全国目指すらしいけど……」


佐竹「俺も聞いたときは驚いたが、あの4人の練習を見ていると素人の俺でも分かるくらい、めちゃくちゃ速い。だから全国も夢じゃないと思うんだよな」


亀山「ふーん。俺らが全国かぁ……」


佐竹「今はキャプテンの作ったメニューをこなしていけば俺たちも戦力にはなれると信じてやるしかない!そう羽瀬さんのためにな!」


一方で1人別メニューをこなしている陸(中身は凛)。


陸(中身は凛)「(一歩一歩、腕もしっかりと振りながら歩く。焦りは禁物……1ヶ月で10キロ。地味な練習だけど1つずつこなせば必ずできる)」

お父さんに買ってもらった立派なウォーキングシューズに感謝をしなが淡々と歩く。


他の部員が速いスピードで練習して汗を流している周りで100kgの巨体が一点を見つめて無言で歩き続ける光景は異様だった。いつしか校内では、「駅伝部の周りに、ジャージを着た怪しいおっさんが紛れ込んで徘徊している」と噂になり、女子生徒からは「あの目つきがガチすぎて怖い」と避けられる始末。


犬飼からは「おいデブ、いつになったら走るんだよ!」と罵声が飛ぶが、陸(中身は凛)は完全に無視して60分間歩き続けた。


犬飼「おい、駿!メンバーは揃ったものの、あのオタク1号と2号、それにデブの3人が使えるとは思えないが本当に大丈夫か!?」


駿「亀山と佐竹は未知数だが、2人には俺が考えたメニューで鍛え抜き、走力上げる!今やれるのはそれだけだ」


鷹斗「俺らで貯金作れば大丈夫!そうだよな兄貴!」

自信ありげに鷹斗が言う。


隼人「まぁ……そうだな」

歯切れ悪く答える隼人。


部活が終わると、陸(中身は凛)はそのまま市民プールへと向かう。プール内では60分の水中運動。水の抵抗を利用し、膝への負担を抑えながら全身の筋肉に刺激を与える。また心肺機能も同時に鍛え上げている。その後、バスを使わず、さらに30分かけて自宅まで歩いて帰る。


帰宅は19時頃。玄関を開けると、母の作る「完璧なアスリート飯」の匂いでそそられるが、一旦我慢をし、先にお風呂にゆっくりとつかる。


風呂の後にようやく体が1番に欲している晩御飯だ。母の料理は上手でノートに記した以上の仕上がりだ。


陸(中身は凛)「(……な、なにこれ。めちゃくちゃ美味しい……!)」

メニュー通りに作られた、鶏ささみの蒸し物と玄米、具沢山の味噌汁。凛(中身)が一口食べると、不動の肉体が歓喜の声を上げた。


陸(中身は凛)「(……凛としての生活では、栄養素しか考えてなかったけど……。お母さんの作るご飯は、出汁の取り方から愛情まで、今までに食べたことがないくらい美味しい。これじゃあ、不動くんが太るのも無理ないわね。意思を強く持たないと、一瞬で食欲にのまれるわ……!)」

あまりの美味さに「おかわり」を言いそうになる自分を、鋼の精神で抑え込む。


食後には寝るまでの空いた時間にフィットネスバイクにまたがり、陸(中身は凛)は一心不乱にペダルを漕ぐ。

陸(中身は凛)「(食事は完璧。トレーニングも順調。あとは――『睡眠』ね)」


時計の針が20 時45分になると、陸(中身)はバイクを降り、ストレッチ後に布団へ入ってようやくスマホを手に取る。


陸(中身は凛)「(……不動くん、今日の報告は? ……よし、ちゃんとメニューをこなしてるわね。明日のメニューは、もう少し変えてみようかな)」


凛(中身は陸)へのアドバイスと、翌日の精密な練習計画を送信。21時、アラームをセットする前に意識が遠のく。泥のように眠り、翌朝5時には起床。朝食前に30分のフィットネスバイクの運動。そしてリュックには母の作ってくれたアスリート弁当を背負い、再び学校まで徒歩で登校する。


規則正しい生活、栄養満点の食事、十分な睡眠時間の確保。陸(中身は凛)の徹底した自己管理は、少しずつ、そして確実に「不動陸」という肉体の構造を作り変えようとしていた。


ルーティン開始から2週間。陸(中身は凛)の肉体には、深刻な疲労が蓄積していた。 当初の「やってやる」という高揚感は少しだけ薄れ、今は朝起きるたびに全身を襲う鉛のような重だるさと戦う毎日だ。それでも体の変化は少しずつ感じている。


陸(中身は凛)「(……足の裏が痛い。ふくらはぎもパンパン。不動くんのこの重い肉体を支えるだけで、体全体が悲鳴を上げてる……でも始めた頃よりも明らかに軽くなっているのは分かる!)」


空腹感にも変化があった。胃が小さくなったのか、以前のような「暴走する食欲」は収まりつつある。


陸(中身は凛)「(食べたいと思う衝動が少しずつ無くなってきてるのが分かる……。空腹時にはタンパク質を意識したお母さん手作りおやつのおかげで空腹感もコントロールできるようになっている!)」


メンタルの強さと計画と準備、周りの助けがあり、肉体の本能をねじ伏せることができていた。


今日からトレーニングを一段階上げる。陸(中身は凛)はカバンから、一足のシューズを取り出した。

犬飼「……おい。なんだ、その靴!?豚に真珠、デブに厚底シューズってか?」

バカにするように犬飼が言う。


部員たちが注視する中、陸(中身は凛)が履いたのは、厚底シューズだった。 これまでは足を守るためにクッション性のみが重視したウォーキング用だったが、いよいよ「走るための武器」を投入する。


陸(中身は凛)「(ウォーキングで足の強度は上げた。心肺機能も最低限のベースはできた。……今日から、第2フェーズに移るわ)」


この巨体が厚底シューズの特性をうまく使いながら、弾むように走り出した。ゆっくりではあるがフォームが綺麗だ。5分走り、5分歩く。それを正確に何回も繰り返す。 最初から一気に走ると足への負担があるからラン&ウォークで慣らしていく。


陸(中身は凛)が走りだして、周囲が注目していた。不審なオッサンが歩きだした!と周りの生徒が騒然とする中、陸(中身は凛)の意識は自分の内側にだけ向いていた。


陸(中身は凛)「(重い……でも、走れる。一歩ごとに脂肪が揺れるけど……でも……走れるって楽しい!少しずつ、この体が『自分のもの』になっていく感覚がする……!お父さん、厚底シューズを買ってくれてありがとう!)」


汗が滝のように流れ、視界がかすむ。それでも陸(中身は凛)は、決めた時間をキッチリと走る。 この地道な積み重ねの先にしかゴールが無いからだ。凛の魂が、不動の肉体を通して激しく鼓動を打っていた。


こうしてトレーニング開始から一ヶ月。

部活を終えた部室内。


陸(中身は凛)の上下の運動着は、一ヶ月前にはパンパンだったが今では少し余裕ができ、首回りも驚くほどすっきりしている。他人が見ても、彼が過ごした地獄のような一ヶ月は明らかだった。


部員全員が集まる中、陸(中身は凛)が進み出て部室の中央にある体重計に足をかけようとしたその時、駿が静かに制止した。

駿「……その必要はない」


陸(中身は凛)「……えっ? 」


駿「数字を確認するまでもない。この一ヶ月、不動が誰よりも早く来て、誰よりも長く動いていたのは全員が知っている。結果も大事だが、俺がそれ以上に重視するのはプロセスだ。不動が積み上げた日々こそが、何よりの証明だ」


駿はまっすぐに陸(中身は凛)の目を見つめ、力強く告げた。


陸(中身は凛)「ありがとう、駿くん。でもこれは自分で決めたこと」

そう言って体重計に乗る。


そこに表示されていたのは

89.1kg

目標をクリアしていた。


鷹斗「スゴっ!あんな体からここまでなるなんて!改めてよろしく!不動先輩!」


隼人「まだ重そうだけど……よろしく」


犬飼「……チッ。ま、一ヶ月続けた根性だけは認めてやるよ。けどな、俺はまだ納得してねぇからな。走れるようになったからって、俺たちの足を引っ張るようなら容赦しねぇぞ、このデブ」

周りに少し笑いが起きながら鷹斗が突っ込む。


鷹斗「犬飼先輩は本当に素直じゃないっすね!」


駿「よくやった不動……だがここはゴールじゃない。ようやくスタートラインに立っただけだ。……行くぞ!俺たちと一緒に全国へ」


陸(中身は凛)の瞳に、不意に熱いものが込み上げた。


陸(中身は凛)「(……お兄ちゃん。私……認められたんだ。不動くんのこの体で、ちゃんとお兄ちゃんの仲間に……)」

一ヶ月の慣れない体でトレーニングをして、今までにないキツさとつらさがあったが一つの目標をクリアでき、安堵し、少し涙腺がゆるむ。


鼻を少しだけすする陸(中身は凛)を見て、亀山と佐竹も小さく頷く。


陸(中身は凛)「(よし……第1フェーズ終了。次は90キロから、本格的な競技体型への改造ね。お兄ちゃんの言ってた通り、こっからが本当にスタート。まだまだホッとしてられない……!)」


部活の帰り道。オレンジ色に染まった河川敷を、陸(中身は凛)と亀山、佐竹の三人は歩いていた。陸の目標達成の興奮がまだ冷めやらぬ中、亀山と佐竹が足を止め、川面に向かって大きく息を吸い込んだ。


亀山「っしゃああああ! 陸の正式入部だあああ! 待ってろよ全国ーーー!!」


佐竹「俺だって……走るぞーーー!! 全国に行って目覚ましボイス貰うぞーーー!!」


2人も1ヶ月間、慣れない環境で、慣れない走る練習をやりきって達成感に満ち溢れて、陸の正式入部を喜んでいた。


二人の叫びにつられるように、陸(中身は凛)も一歩前に出る。かつての凛なら絶対にしない、泥臭く、しかし熱い衝動が胸を突き上げていた。


陸(中身は凛)「よっしゃああああ! 絶対に、絶対に全国に行くぞーーー!!」


三人の声が夕闇に消えていく。その光景は、凛がこれまでエリートとして歩んできた道にはなかった、どこか青臭くて眩しい「青春」そのものだった。また、2人が喜んでくれているのが嬉しかった。


叫び疲れて座り込んだ三人に、ふと静寂が訪れる。陸(中身は凛)は、川の流れを見つめながら、引き締まった自分の拳を握りしめた。


陸(中身は凛)「……亀山、佐竹、駅伝のメンバーは6人だ」

その言葉に、2人の表情が引き締まる。


亀山「駿くん、犬飼くん、それに真壁兄弟。この4人はほぼ確定。……残る枠は2つ。でも、僕たちは3人いる」


佐竹「……ああ。俺たちのうち、一人は必ず補欠になる。走れないんだ」

さっきまでのどんちゃん騒ぎが嘘のように、シビアな現実が突きつけられる。仲間として支え合ってきたが、ここからは同じ椅子を奪い合う敵でもあるのだ。


亀山「……ねえ、2人とも約束しよう。俺たちは仲間だけど、ここからは手加減なしのライバルだ。誰が選ばれても、誰が外れても……逆恨みも文句もなし。選ばれた奴を全力で応援する。……それでいいよね?」


亀山の言葉に、佐竹が「当たり前だ」と力強く拳を突き出した。陸(中身は凛)も、二人の瞳に宿る真剣な光を見て、微かに微笑む。


陸(中身は凛)「あぁ!文句なんて言わせないわよ……じゃなくて、言わないよ。僕が、二人とも抜き去って選ばれてみせるから」


三人は、夕焼けの中で静かに拳を合わせる。それは、単なる仲良しグループが「戦う集団チーム」へと変わった瞬間だった。


陸(中身は凛)「(……いい顔。不動くんの身の周りには良い人ばかり。本当に恵まれているわね)」

凛は心の中で、仲間との繋がりを嬉しく思いながら、自分を褒めてくれた駿のことを思い出して、素直に走ってて良かったと思っていた。不動の肉体は、全国大会という高い壁に向かって、力強く一歩を踏み出した。


帰宅後、部屋に戻り、電話が鳴る。

凛(中身は陸)「凛さん……緊急事態です……」

ここまで読んでいただきありがとうございます!一気に話は進めて、他よりも長くなっていました。引き続き宜しくお願いします!

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