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女子駅伝部の美少女エースと体重100キロの巨漢帰宅部の体が入れ替わった

中学3年生の春、不動ふどう りくは、部活には入っておらず、情熱は深夜アニメとゲームと食事に注ぐオタク系ぐうたら中学生。陸は放課後に裏山のベンチで特注の「三段重ねデカ盛り弁当」を胃袋に流し込んでいた。米と揚げ物の重みが、100kgの巨体にはよく似合う。


一方、女子駅伝部のエース・中学3年生の羽瀬はせ りんは、誰もが羨む走り才能を持ちながら、その瞳は常に虚空を見つめていた。何かに怯えるように、ただ機械的に足を動かす彼女の孤独は、誰にも触れさせない聖域のようだった。


石碑の裏で大きな弁当を食べている陸と、虚ろな表情で走っていた凛が、韋駄天の石碑の前で激突する。二人の魂は、古びた石碑の光に飲み込まれた。


意識が遠のく中、二人の脳裏に、同じ夢が再生されていた。 そこは、無限に続くかのような白い一本道。

凛「……どこ、ここ?」

陸「うわっ、何だこの道、一本道でゴールが見えねぇ!」

二人の背後から、低く、しかし荘厳な声が響き渡る。 『歩みを止めた者よ、歩むことを恐れた者よ。汝ら、その『うつわ』をたがえてしまった。元のうつわに戻りたければ、互いに駅伝で全国大会の出場を決めよ。……さもなくば、その姿は永遠に戻らぬ。これが汝らに与えられた『宿命の襷』である』

声が消えると同時に、二人の意識は深い闇の中へと引きずり込まれていった。


保健室にて、

「……ん……」 意識が浮上した瞬間、陸(中身は凛)の視界に飛び込んできたのは、保健室の天井と、自分を冷徹に見下ろす男子駅伝部のキャプテンで凛の双子の兄・羽瀬 駿はせしゅんの姿だった。 凛は、いつものように助けを求め、口を開く。


「……お兄ちゃん」


しかし、その口から漏れたのは、自分の記憶にある透明感のある声ではなく、地底から響くような野太い濁声だごえだった。


駿「…………っ!?」

駿は一瞬、眉を不快そうに寄せる。100kgの巨漢が放った甘えた声に、露骨な拒絶の視線を向けた。


駿「その呼び方は気持ち悪いから辞めてくれないか。……凛は隣で寝ている。君が混乱しているのは分かるが、不愉快な冗談は慎んでほしい」

駿の声には相手を貶める意図はないが、言葉のナイフのような鋭さがあった。凛は、自分の声の異変と、胸を圧迫する異様な肉の重みに、ようやく気づいた。

陸(中身は凛)「え……? あ、何……これ、私の、声? 手が……グローブみたい。お腹が……嘘、嘘でしょ!?」


布団を跳ね除けると、そこには美少女の面影など微塵もない、100kgの少年のたるみきった肉体が横たわっていた。パニックに陥り、自分の巨大な腹をブルンブルンと揺らしながら触りまくる。


陸(中身は凛)「……ダメ。落ち着きなさい、凛。……これは夢よ。きっと石碑にぶつかって、変な夢を見てるだけ。……そう、もう一回寝たら戻るわ。絶対戻る」


凛はぎゅっと目を瞑り、深呼吸を繰り返した。10秒、20秒。冷静になれ、これは幻覚よ。そう言い聞かせて、ゆっくりと目を開ける。 しかし、目の前にあるのは、やっぱり太い、毛の生えた自分の指先だった。

陸(中身は凛)「(……夢じゃない……! 戻ってない……!こんなことありえるの??)」


駿「不動。怪我がないなら、もう帰ってくれ。妹の凛もそろそろ起きるころだ。ぶつかったのは悪かった。俺から妹によく言っておく」

駿は最後に冷たくそう言い残すと、隣のベッドのカーテンを開け、眠っている自分の体(凛)のそばへ移動した。 本当は自分の体がどうなっているか、自分の目ですぐに確かめたかった。けれど、兄のあの氷のような視線の前では、一秒だってこの場に留まることはできなかった。


泣きそうになりながら陸(中身は凛)は震える手で、不動が持っていたカバンを漁り、学生証を見つけた。 「……住所は、ここ……?」 見覚えのない住所。凛はフラフラと保健室を出た。廊下の窓に映る、自分の「巨体」を見るたびに吐き気がした。


校門を出て歩き始めた瞬間、凛はさらに戦慄した。

陸(中身は凛)「……っ! なに、これ……足が上がらない。一歩踏むだけで、地面に吸い込まれそう……」


羽のように軽かった自慢の脚はどこにもない。一歩歩くたびに、膝にズシンと衝撃が走り、太ももの肉同士が擦れて熱を帯びる。ほんの数メートルの坂道で、肺が潰れそうなほど息が切れた。 これまで彼女が駅伝で戦ってきた「重圧」とは全く質の違う、物理的な「重力」という名の暴力。


陸(中身は凛)「(……信じられない。体が入れ替わったなんて。こんな体で生きるなんて絶対イヤ!!)」

汗だくになり、何度も立ち止まりながら、凛は学生証の住所を頼りに、見知らぬ「不動家」への道を辿っていった。 空には、何も知らない夕焼けが、赤々と広がっていた。


凛(中身は陸)も遅れて目を覚ます。

「……ん」

 鼻を突く消毒液の匂い。遠くで聞こえる部活動の掛け声。 重い瞼を持ち上げると、そこは放課後の保健室だった。

(……倒れたんだっけ、僕。食事中に、誰かとぶつかって……)

 ぼんやりした頭で体を起こそうとした瞬間、視界の端に「誰か」がいることに気づいて心臓が跳ねた。

「……気がついたか。無理に動くなよ、凛」

 ベッドの脇の丸椅子に座っていたのは、双子の兄、羽瀬駿だった。 端正な顔立ちに、心配そうに寄せられた眉。学校中の女子が憧れる「完璧な人間」が、今はただの兄の顔をして僕を覗き込んでいる。

凛(中身は陸)「駿くん?」

駿「なんだその呼び方は?よっぽど強く頭を強く打ったのか?」


 駿がふっと立ち上がり、凛(中身は陸)の額に、大きな手をそっと置いた。 熱を測るその動作はあまりに自然で、同時にあまりに優しすぎて、全身に鳥肌が立った。


凛(中身は陸)「(近い!顔が近すぎる……!っていうか、今の声、僕の声じゃない!?)」


 慌てて自分の喉を触る。指先に触れる感触は、驚くほど細くて滑らかだった。 視線を下ろすと、そこには自分の体のかたちとはちがう「膨らみ」と、短いスポーツタイツから伸びる、白くてしなやかな脚。体中を自分で触る。


駿「……凛? どうした、顔が赤いぞ。まだ熱があるのか」


凛(中身は陸)「い、いや! なんでもない! ちょっと、あの、鏡!」


駿の腕をすり抜け、壁際の全身鏡に飛びついた。 そこに映っていたのは、陸が三年間ずっと遠くから眺めていた女子駅伝部の羽瀬凛その人だった。


凛(中身は陸)「嘘だろ…………」


駿 「鏡見て絶望するほど酷い顔じゃないだろ。ほら、もう時間だ。美月さんが心配してる。今日は一緒に帰るぞ」


駿が凛(中身は陸)の肩に、凛の通学カバンをひょいと掛けた。


凛(中身は陸)「(……帰る?この姿で?凛さんの家に?)そうだ!えぇと!不動くんはどうなったの?」


駿「あいつは先に起きて帰らせた。特に怪我もしてなさそだし大丈夫だろう」


凛(中身は陸)「(僕がこの体ということは凛さんが僕の体で帰ったということなのかな。大丈夫かな)」


駿「……歩けるか?」

あまりの優しさに照れてしまう凛(中身は陸)。


隣を歩く駿の横顔は、沈みゆく太陽の光を浴びて、どこか寂しげに見えた。 中身が陸であるとは当然、駿は知らない。 この完璧に見える兄が、家へ帰る道すがら、何度も何度も言葉を飲み込んでいた。


駿「……なぁ、凛。お前、さっき『駿くん』って呼んだよな」


凛(中身は陸)「えっ、あ、いや、それは……」


駿「……悪くない。たまには、そういうのも」

駿は前を向いたまま、少しだけ照れくさそうに笑った。 その笑顔が、クールなキャラとは裏腹にギャップがあった。凛(中身は陸)は本当のことを言い出せないまま、オレンジ色の並木道を歩き続けた。


羽瀬家の玄関先。 凛(中身は陸)はドアノブを握る手が小刻みに震えるのを止められなかった。あの学校で有名な美男美女の双子の家に来て緊張しているのである。


駿「……どうした、凛。鍵、忘れたのか?」


凛(中身は陸)「あ、いや……ちょっと、立ちくらみが」


駿 「ったく、今日は本当に変だぞ」


駿が凛(中身は陸)の肩を軽くポンとたたいて、先にドアを開ける。 家の中から漂ってきたのは、出汁の利いた優しい夕飯の匂いだった。


駿「ただいま戻りました、美月さん」


美月「お帰りなさい、駿くん。凛さんも、大丈夫? 保健室にいたって聞いたけど……」


奥から現れたのは、エプロン姿の女性、羽瀬美月さんだった。 月明かりのように穏やかな笑顔。だけど、その声にはどこか「余所余所しい丁寧さ」が混じっている。  


凛(中身は陸)「(……これが、凛さんのお母さん。……いや、本当のお母さんではないのかな)」


駿が「美月さん」と呼び、彼女が駿を「駿くん」と呼ぶ。 同じ屋根の下にいるのに、透明なガラスの壁があるような、不思議な家族の形。


凛(中身は陸)「……ただいま、戻りました」

陸が凛の声でそう言うと、美月さんは少しだけ驚いたように目を見開いた。いつもはもっと、ツンケンした態度なのだろうか。


美月「……ええ、お帰りなさい、凛さん、お風呂が沸いているから入ってきたら?」


凛(中身は陸)「お、お風呂!?」


羽瀬家の脱衣所。 凛(中身は陸)はドキドキして立ち尽くしていた。

意を決して、ブラウスのボタンに指をかけた。

 

ここまで読んでいただきありがとうございました。たくさんの方々に読んでいただけると幸いです!

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