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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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虫を食べる女

掲載日:2026/01/19

 彼女はこおろぎを食べる。


 シャッターが半分以上、下りたような瞳の奥は、深く黒い。閉まり切らない隙間から、室内の微かな灯りが漏れている。シャッターを開けると、そこは四角い倉庫だった。中はしんとした薄暗さに沈んでいた。床はコンクリート、天井や壁は鉄板だ。鉄板の外側をコンクリートで覆っているのだと想像した。天井の骨組みから丸い白熱灯が吊るされている。蛾が一つ触れるたびに豆電球は小さく揺れて、部屋の隅の暗がりが小さく明かされ、また小さく暗く戻る。繰り返す。


 ここには何もない――俺はそう思った。


 外は夜で、倉庫の外観はラブホテルのような、洋画で目にするモーテルのようだった。統一性のない複数の看板の縁を、赤や青や緑の原色のライトが彩っている。一部壊れており、火花が散っていた。


 彼女の笑顔は常に満開なようで、俺はそこに素晴らしさを感じているようだ。

 ふと日常における無意識の、微笑みの止まる瞬間というものがあって、気配というか、何か感じるものがあって、俺は彼女へ振り向いた。じっと、人間サイズのこおろぎがこちらを睨んでいた。悪意は感じない、どころか感情すら感じない。無機質な視線だ。ただし瞳の奥は虚無なんかじゃない。しっかりと何かがあり、気配を感じる。俺の中にはしっかりと、彼女への愛おしさが溢れている。

 これは彼女の性質なのだ、そう直感した。

 ということは、どういうことなのか? 倉庫の中には何もない、豆電球のみだ。だがそんなはずはない。そんなはずはないと、俺はシャッターを背に倉庫内を見渡した。すると豆電球が照らせない部屋の隅の暗がりに、何かあるような気がした。足が動かない。俺は目を細め、あるであろう何かを見ようとする。見えなかった。別の隅に扉のようなものを見つけた。そこで妄想は終わる。

 その扉の先にはおそらく、「彼女」がある。ただ、その扉は初めはなかったような気がした。現れたのだ、俺が部屋に踏み入った以降に。

 煌々とした外観の倉庫、外は常に閑静な夜だ。俺は彼女というものが分からず、惹かれる理由が分からず、もう随分と長く一緒にいる。


「おいしいよ? 食べる?」


 彼女はこおろぎの佃煮を箸で差し出した。


「……うん」


 俺は口を開けた。食べさせてもらいながら、彼女を見つめ、咀嚼する。


 満開の笑顔の奥、夜の薄暗い倉庫の中で、俺は今日も彼女を探す。

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