物理化学部と文芸部がくっついた理由
なお生徒会室から戻ってきた桜花は、化学室の隅に配置されている物理文芸部のロッカーの中を早速物色し始めた。ロッカーはスチール製の観音開きのそれで、中は六段に分けられている。当時は高級品だったかもしれない数世代前のノートパソコンやら、こんな難しそうなもの誰が読むのだろうと思える古い専門書まで、上から四段目までは紛れもなく物理化学部の所有物のそれ。五段目には元文芸部の所有物である芥川龍之介全集が並んだ。……っておい。今までの文芸部は芥川龍之介しか古典作家を読まなかったのか?
ちなみに一番下の段は先程霜宮と俺で封印したばかりの段ボール群が並んでいる。高校生の部活動として似つかわしくないものを化学の授業で使用する教室に堂々と置いてたらダメだろう。そんな配慮を俺と霜宮で下したのだ。え、物理化学部がこっそり所有してたアニメの円盤だと? 当然封印対象の中だ。
「思ったより真面目すぎて面白くないロッカーですね。とりあえずこのロッカーの写真を残して、生徒会に届けておきますね」
ところで桜花。お前は一体何を期待していたのだ??
「そんなことよりオウ……ごっほん。嵯峨野さん? 貴女もこの物理文芸部に入部するつもりなのかしら?」
霜宮は桜花と名前呼びするのを諦め、苗字で呼ぶことを決めたようだ。それでもまだやはり不慣れなようでどこかぎこちない。というかその呼び方だと俺と被ったりしないか?
「あ、はい。わたしも生徒会の活動だけじゃ飽きちゃいますし、せっかくなので入部しようと思います。ここにはタイシくんもいて安心できますので」
「あっ、そう……」
そう桜花に返されると、霜宮は俺を相変わらず不審者を見る目で睨んでくる。ちょっと霜宮さん? 無言で『この男のどこの何が信用できるというのかしら?』という圧かけてくるの止めてくれませんかね??
「つか、部長は俺なのか? 霜宮でもいいと思うんだけど」
「でも初対面の人に部長をやっていただくのはわたしとしても気が引けますし……」
桜花はぼそぼそっと俯き加減にそう溢す傍らで、霜宮の俺に対する視線がより一層厳しさを増す。『本当は初対面じゃないのに。私から見たらこっちの方が初対面なのに』と、怒りのような嘆きを俺一人にぶつけてくるのだ。お願いだからもうこれ以上やめてあげて。桜花の言葉一つ一つが、巡り巡って俺の精神ダメージに変換されるから!!
「それで、この物理文芸部って結局何をする部活なのかしら?」
……よかった。とりあえず霜宮は物理でバトルロワイヤルするのを諦めてくれたらしい。
「えっと〜……その名の通り、物理でやりたいことをやりあえばいいんじゃないですかね?」
おおっと桜花さん? もしかしてあなたがバトルロワイヤルしたいわけじゃないですよね?
「と、とりあえず物理云々関係なく、何かしたいことすればいいんじゃないか?」
じゃないと本当に物理攻撃を防ぐ防具が必要になりそうだ。やだよそんな物騒な部活。絶対来たくないし帰宅部真っしぐら路線だ。
「というより、何故物理化学部と文芸部がくっつく必要があったのかしら?」
そう、それだ。まぁ霜宮が聞くまでもなく今更な質問ではあるけどな。
「そんなの簡単です。隣り合った教室で活動してる二つの部活を一緒に潰すより、一つの部活になってもらった方が手続き的に楽だったからです。わたしから生徒会長に提案して、一つ返事でオーケーをもらえました」
ただの手続き上の理由かよ!! つかそれって本当に簡単だったのか?
読んでくださり、ありがとうございます。
評価、感想をいただけると励みになりますので、よろしくお願いいたします。
登場人物
嵯峨野泰史: 俺。元文芸部員
霜宮朱実: 心臓に氷を宿す元物理化学部員
嵯峨野桜花: 俺の義妹。生徒会庶務
※カクヨムでも連載しています
https://kakuyomu.jp/works/822139841863405829




