文芸部と物理化学部の共通点
化学準備室にあった元文芸部の荷物は、結局三十分もかからずに全て段ボールに詰み終えた。俺と霜宮の二人がかりだったというのもさほど時間を要さなかった理由だが、その途中、霜宮に捨てられかけたラノベは何冊あったことか。都度口論となり、余計な時間を費やしてしまったのも否定できない事実だ。
何度も言う。この荷物の中に俺のラノベは一切存在しない。全て先輩たちが置いていった代物だ。俺は潔白無実に関わらず、霜宮のゴミを見るような視線を幾度となく受けてきた。正直、まじ疲れたぞ。
さて次は、これら荷物を元物理化学部の部室である化学室に並べる番だ。化学室は新設された物理文芸部の活動場所となるため、清く正しく使ってかなくてはならない。今日俺はそれを思い知らされたのだ。絶対に霜宮を刺激するような……じゃなかった、活動に不要なものは置かないようにしていくぞ!
……と心の内で決心したはずだったわけだが。
「おい。なんでここにも全くおんなじ外面したラノベが置いてあるんだ!?」
「知らないわよ! 私だってここにこんなのがあるなんて気づかなかったんだから」
さて、何が起きたかというと、俺が化学準備室で何とか霜宮の手の内から救出した『俺と五人の義妹の清純な高校生ライフ』第一巻が、物理化学部の本棚にも混ざっているではないか。思わず『あれ? 俺はもうこの本を片付けたんだっけ?』と段ボールの中を確認したのだが、やはり俺の記憶は間違いなど起こしておらず、しっかり段ボールの中に同じものが存在していた。つまり、今俺の眼の前には同じタイトルのラノベが同時に二冊。いや、これだけじゃない。よく見たら他のラノベタイトルもかなりもろ被りしているではないか!
「で、物理文芸部の活動ってラノベを投げあって物理的に殴り合う……だったか?」
「……わかったわ。私が今日見たものは全て不問にしておいてあげる。互いに何も見なかったということでよいかしら?」
「ああ、そうしておこう。その方が互いに平和というやつだな」
そもそもこれらは俺と霜宮には一切関わりのないの物だ。せっかくなので元物理化学部のラノベ群も段ボールの中に封印しておき、いずれ先輩方がここへ訪れた時に、のしつけて返してあげようと思うことにした。
どうでもいいけど、ここで一つの重大な事実が発覚したのだ。
文芸部と物理化学部は、文系と理系で互いに交わることが一切ない部活動かと思っていた。だが実際は部活動を隠れ蓑にしたオタサーであったという部分が完全合致していたわけだ。へぇ〜、そんなこともあるもんだねぇ〜。ラノベは文系理系関係なく、高校生の共通語なのだ! ……そういうことにしておこう。
「タイシくん、霜宮さん! 部屋の片付け終わりましたか?」
俺も霜宮も、既に精神力を完膚なまでに擦り減らされていた。自分の部室の片付けなんて安易にするもんじゃないなと再認識したところで、今日一番の幸せ者かもしれない桜花が生徒会室から戻ってきた。
「あの……、何かありましたか?」
「何もないな」
「ええ、何もなかったわ」
見解の一致。こいつとこんなことで意気投合するとは思わなかったけど。
「すっかり二人が仲良くなれたようでよかったです。これが共同作業の効果ってやつですね?」
断じて違う。意味を履き違えそうになるから意味深な言葉を気安く使うんじゃありません!
「それでは新部長! これから三人の活動内容を再確認しましょう。今日の議事は生徒会に報告しなきゃいけないので、わたしは議事録をとっておきますね」
え、三人? 桜花はピンク色の視線を俺にぶつけながらそんなことを宣う。
つかその視線、つまり部長は俺ってこと??
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登場人物
嵯峨野泰史: 俺。元文芸部員
霜宮朱実: 心臓に氷を宿す元物理化学部員
嵯峨野桜花: 俺の義妹。生徒会庶務
※カクヨムでも連載しています
https://kakuyomu.jp/works/822139841863405829




