氷の中の炎とネズミの失言
それはまるで、ヘビに睨まれたネズミのような状況だった。
前から思ってたのだけど、ヘビってどうやって自分と同じくらいのネズミを捕食するのだろう。俺はその光景を見たことがないからわからないが、ネズミからしてみたら『ふっ。食えるものなら食ってみな』と考えてたりしないのだろうか。もちろん今の俺にそんなネズミほどの余裕は一ミリもないわけだが。
……で、なんの話だっけ? あぁ桜花のことか。
「さっきも話した通りで、俺の母親が桜花を養子に迎えたんだよ。も、もちろん互いの部屋は別々だし、特に咎められるようなことはしてないつもりだけどな。まぁ向こうはどう考えてるかわからないけど」
「それって、いつの話?」
「いつ……?」
はて。想定してなかった質問が急に飛んできたので、思わず一瞬思考が停止した。
「一緒に暮らし始めたのがいつかって話か? それなら、先月の話だな」
「先月……。あ、そう。ならいいわ」
一体何がいいのだろう。まるで一人で完全に納得したような態度に逆に俺のほうが拍子抜けだ。むしろ俺のほうが納得できっこない。俺だって桜花の話は母親からおよその話しか聞いていない。実の両親と一緒に暮らせなくなり、いろいろあり精神的に疲れてたようで、中学にはほとんど通ってなかったらしい。
そんな不登校女子がどうして地域で最難関の進学校に学年トップの成績で入学してしまうのか。桜花の奇想天外ぶりには実に頭が痛いわけだが、紛れもない事実であるため受け入れるしかない。
「なぁ。あいつ……桜花って、中学の頃からめっちゃ頭が良かったのか?」
霜宮は話の用が済んだのか片付けを再開していたため、今度は俺から質問をした。
「それはつまり、例の入学式の新入生代表挨拶の話を聞いてるのかしら?」
「あ、ああ。最初は入試でトップだった桜花に話が来たんだけど、中学にほとんど通ってなかった人が挨拶するのはどうなんだって話になって、辞退させてもらったんだ」
「つまり、やはり私の上には桜花しかいなかったってわけね。まぁ当然だわ」
はて、一体何を納得しているのだろう。確かに桜花を相手にしたらそう開き直るしかないか。
「で、二位は俺だったんだけど『新入生の挨拶って女子生徒のほうが良くない?』という教師たちの謎のジャッジが下されたらしくて、三位だった霜宮さんに……って、おい。なんでそんな怖い顔してるんだ!?」
俺の話もまだ途中だと思ったが、気づくと何故か霜宮の形相が鬼に変わっていた。慌てて話を中断せざるを得なくなったわけだが、その氷を宿した瞳って、紅く燃やすこともできるんだな。さすがは元物理化学部。物理法則ってやつを完全に無視してやがる。
「私が三位……。二位じゃなくて、三位…………」
「怒るとこってまさかのそこ!??」
あ、こいつ、自分が入試で二位だと思ってたのか。何だか申し訳ないこと言ってしまったな。でもそれで俺に当たり散らすのは紛れもなくお門違いだと思うんだがどうかな!?
読んでくださり、ありがとうございます。
評価、感想をいただけると励みになりますので、よろしくお願いいたします。
登場人物
嵯峨野泰史: 俺。元文芸部員
霜宮朱実: 心臓に氷を宿す元物理化学部員
嵯峨野桜花: 俺の義妹。生徒会庶務
※カクヨムでも連載しています
https://kakuyomu.jp/works/822139841863405829




