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氷の槍と殺意を抱く女子の誤解

「ちょっと桜花(おうか)。それ本気で言ってるの?」

 桜花はきょとんとした顔で、女子生徒の呆れた声をやり過ごしていた。一瞬聞こえていないのかとも思ったが、ふと共に過ごしてきたここ一ヶ月の桜花のことを思い返す。これは聞こえていないのではない。ただ自分の興味のないものに蓋をして、その場をのらりくらりしているだけだ。仮にたった一言の言葉で表現するなら、無頓着(むとんちゃく)。桜花はたまに俺に対してもやっていた。恐らく本人は無自覚なのだろうが。


 とはいえ、桜花の反応云々以前に、一つ気になることもあった。

「お前、もしかして桜花と知り合いなのか?」

 名前呼び。母の話によると、桜花は中学校にほとんど通っていなかったと聞いている。それでも下の名前で呼んでいるって、つまり桜花と彼女はどこかで知り合いなのではと。

「そういう貴方だって桜花のこと名前呼びじゃない。貴方(あなた)、何様なの?」

「いや、俺は……」

 何様って別に俺様(おれさま)な態度を取った記憶はない。が、弁解より先に彼女が次の言葉を放つ。

「もしかして……桜花のことを狙ってる? 高校入学早々手当り次第女子をそういう目で見てくるとか、つくづく気持ち悪いわ」

 氷の槍のような視線が殺意を含んで飛んでくる。何も事情は知らないとは言え、怖い怖い。

「その前に少しは話を聞いてくれ。こいつは一応俺の妹だ」

「は? 貴方何言ってんの。だって桜花の兄さんはとうの昔に……」

「タイシくんはわたしのお兄ちゃんで合ってると思いますよ?」

 おい桜花。救いの手を差し伸べてくれるのは助かるが、そこはどうして疑問形?


 この女子は何かを言いかけた気もしたけど、妙な勘違いをされたまま話が進んでしまっても困る。とりあえず言い訳にもならない事実を先にこの女子に伝えておこうと思ったんだ。

「俺の母親が桜花を養子に迎えたんだよ。そんでこいつより俺の方が十日ほど誕生日が早かったから、俺が義理の兄で、こっちは俺の義理の妹ってわけ」

「えっ…………まぁそういうこともあるかもしれないし、ないかもしれないわね」

 どこかあっけらかんな顔が返ってくる。頼むから最初から素直に事実を認めてほしい。

 どうにか誤解なく何とか事情を理解してもらえたらしいが、もしこの女子が桜花の中学の頃の知り合いだというのなら、俺と知り合っておくのも後々ややこしい事態にも対処できるかもしれない。こんな面倒な俺と桜花の複雑な関係は、二人だけの秘密としておく方がリスクありと思うわけだ。

 てか、この女子。結局名前は何だったっけ?


「とりあえず話がまとまってよかったです。というわけでタイシくんはとっとと文芸部の荷物もまとめて、ここから出ていってください。廃部の書類をまとめたいので、今日中に片付けてほしいです!」

「待て待て。頼むから話の流れをもう一度最初から整理させてくれ!!」

 で、桜花は桜花で、結局何しに来たんだ? 内容からして生徒会の仕事だというのはわかったが、まるで俺が邪魔だと言わんばかりな態度で邪険(じゃけん)にする必要もなくないか?

 てゆか高校入学して仮入部期間も終わったばかりの部活が突然の廃部とかどういうことだ? んな話、先輩から一ミリも聞いてないんだけどな。


読んでくださり、ありがとうございます。

評価、感想をいただけると励みになりますので、よろしくお願いいたします。


登場人物

嵯峨野泰史: 俺。元文芸部員

霜宮朱実: 心臓に氷を宿す元物理化学部員

嵯峨野桜花: 俺の義妹。生徒会庶務



※カクヨムでも連載しています

https://kakuyomu.jp/works/822139841863405829


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