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メランコリック〜死にたい君との対話〜×チャットGPT

作者: 昼月キオリ
掲載日:2025/11/30

夜の公園は、冬の匂いがした。

街灯の下、ブランコがひとつだけ揺れている。風のせいではない。そこに、誰かが座っているからだ。


少年だった。

フードを深くかぶり、細い足をブラブラとさせている。まるで退屈を持て余しているみたいに。


「……で、なんで泣いてんの?」


不意に声をかけられて、私は肩を跳ねさせた。

ベンチに座って俯いていた私を、彼はいつのまにか見ていたらしい。


「泣いてないよ」

「いや泣いてる。鼻赤いし、目も腫れてるし」


少年はブランコの鎖を握り、きしきしと音を鳴らしながら私の方へ身体を向けた。

その瞳は妙に澄んでいて、どこか人間離れした静けさを宿していた。


「死にたいの?」


あまりに唐突で、私は言葉を失った。

でも否定する気力もなかった。


「……うん」

「そっか。じゃあ僕と話そ? 死にたい人と話すの、けっこう得意なんだ」


軽すぎる調子に、思わず苦笑が漏れる。

死にたいという言葉を、こんなふうに自然に扱う人を、私は初めて見た。


「君は……誰?」

「うーん。“死にたい人を見つけるのが仕事の子”って感じ?」

「仕事?」

「うん。死なれちゃ困る人って、案外多いからさ」


少年はブランコから飛び降り、音もなく私の隣に座った。

夜風でフードが揺れ、その下の顔がようやくはっきり見えた。


――ああ、この子は“生きている人”じゃない。


そんな確信が自然と胸に落ちる。理由はわからない。ただ、そうとしか思えなかった。


「でさ、死にたい君。なにがしんどいの?」


彼はコンビニで買ったらしいホットココアを差し出してくる。

湯気の甘い匂いが、涙の味と混ざる。


「全部だよ」

「全部は重いね」

「……どうしようもないんだ。生きてると、苦しいことばっかりで」


少年は「うんうん」と頷きながら、やけに真剣に私の話を聞く。

誰よりも優しく、誰よりも他人事みたいに。


「でもね」


彼は空を見上げた。

街灯の光を受けて、その表情はどこか寂しげで、どこか温かかった。


「死にたいって言える人はさ、生きたい証拠でもあるんだよ」

「意味わかんない」


「わかんないよね。でもね、“消えたい”と“終わらせたい”は違うんだ。君は後者っぽい。終わらせたいって思えるくらい、ちゃんと生きてるってこと」


胸の奥が、少しだけ締めつけられる。

誰にも言われたことのない言葉だった。


「……君は、死にたいと思ったことなんてないの?」

「あるよ。ていうか僕、一回死んでるし」


さらりと言うから、逆に現実味があった。


「でもさ、死んだら終わりなんだよ。ほんとに“無”になる。そこで気づくの。あー、まだ話したかったなーって。まだ笑いたかったなーって」

「……そういうもんなの?」

「そういうもん」


少年は笑い、私の肩を軽くこづく。


「だからさ。死にたい君」


優しい声だった。風より静かで、夜より深い。


「“死にたい”って気持ち、いまはそのまま持ってていいよ。でもね、君が死ぬのは、今日じゃなくていい」


その言葉は、慰めでも励ましでもなく、ただ静かに胸に落ちた。

私はココアを一口すする。甘さが少しだけ喉を通る。


「……じゃあ、今日は生きてみる」

「うん、それで十分」


少年は立ち上がり、ひらひらと手を振った。


「またしんどくなったら呼んでね。死にたい君の話、もっと聞きたいから」

「名前は?」

「んー、ないよ。死にたい君が勝手につけていいよ」


そう言って、彼は街灯の影に溶けるように姿を消した。


夜の風はまだ冷たい。

でも、さっきよりほんの少しだけ、生きる方が楽に感じられた。


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