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第6話

「はじめまして小林さん、C組の綾瀬 ひよりと申します 」


「ぁぅ…っ ぁ…あの…はじめまして、…小林 ゆり…です 」

(やっぱり…初対面の人の前だとだめだなぁ…私 )

顔はきっと笑えているけど、緊張してしまっている…私…

「ゆりー?、大丈夫だよっ ひよりはそんなお堅いキャラでも毒舌キャラでもないんだから♪」

灯はそう微笑みながら私の頭を軽く撫でてくれる

「あの、そんなに緊張なさらないでください 」

「ぁ…ごめんなさぃ つい初対面の人とはこうなってしまって… 」

「私もどちらかと言えばあまり人付き合いが得意なほうではありませんから、安心してください 」

そう言いながら、にこっと微笑んでくれる

その黒ぶちの眼鏡ごしに柔らかい瞳で見つめられると、ついドキッとしてしまう

そして私の顔を見ながらカーディガンで隠れていた手でそっと優しく撫でてくれた…

(はわぁ~…あったかい… )

なんでかなぁ…、こういうときは自分の身長がちっちゃくてよかったと思ってしまう

柔らかい手の平が私の頭をサーっと優しく撫でる

「手入れのされたきれいな髪ですね 」

「ありがとうございます…っ、で、でも……綾瀬さんのほうがきれいです 」

「ふふっ、ありがとうございます」

そうくすくすと笑うと灯が笑ってくれたときのように私までなぜか安心できてしまう

「あと 苗字じゃなく名前で呼んでくださって大丈夫ですよ 」

「…ぇっ、えっと… じゃぁ ひより…さん? 」

「同い年なんですから呼び捨てで構いませんよ 」

(…ぅぅ~/// )


灯はなぜかちょっと距離を置いて傍観している、あの…いつもの私をいじるときのニヤリッという笑みを浮かべて

(…灯~っっ )

「どうかなさいましたか? 」

「ぃ、いえ…っ では、ぇっと、その…よろしくお願いします …ひより// 」

「はぃ こちらこそよろしくお願いします ゆりちゃん」


「ゆり、よかったね~っ 新しいお友達ができて♪ ほら…よしよ~し」

(ぅぅ… この、ばか…っ )

そんな半分、灯の企みに近いような形で、…私には新しい友達ができた

綾瀬 ひより 私の二人目の友達

話してみると第一印象より優しい人で本当に素敵な人だった


「ひよりはお昼ご飯はお弁当なんだね」

お昼ご飯中、いつもなら窓側の席の前後で灯とだけ合わせる私の席…

でも今日はひよりの座る席ともくっついている私の席…、それがどうしようもなく私にはうれしかった

「はぃ いつも私はお弁当にしていますよ」

「…もしかして、自分で…作ったりしてるの? 」

「はぃ もちろんそうですが、それがどうかなさいましたか? 」

「ぃやー… だって私も灯もお弁当とか…作れない側だし…、ね? 灯 」

「なっ!、失礼なっ、ゆりはともかく私は…普通にめっちゃ得意だからっ」

「…でもいつも、買い弁じゃん、しかもパンじゃん…、お弁当とか…見たことないじゃん…」

「違うのっ、ただそれは……これが好きなだけだからっ」

そう言って手に持っていたパンをぐいっと強調する

…抹茶いちごメロンパン…

私たちの学校の前にあるコンビニでしか売ってないと噂される幻のパン…、そして…全校生徒中、灯しか買わない幻のパン…

「あ そのパン… 」

ふと自分のお弁当を食べていたひよりが呟く

「ひより…このパン知ってるの? 」

「はい 誰も買っているところを見たことがなかったんですけど、いたんですね 」

また、その柔らかい笑顔で微笑む

「…なっ!、ひよりまで…っ、全く二人とも…失礼だぞ、抹茶いちごメロンパンにっ、……普通においしんだからっ 」

「これだけの人がいて、一人しか買わないパンを世間ではおいしいとは言わないんだよ?、…たぶん 」

「……ゆりだって、ちっちゃいじゃんっ 」

「いやっ、全然今の話と関係ないから…っ、無理矢理いじろうとするのやめようね灯 」

「…ふふっ お二人は本当に仲良しなんですね、見ている私までまで楽しいです 」

灯とそんなことで言い合ってると今度はひよりにまたくすくすと笑われてしまった


…なんだか、私の日常は、少しだけ賑やかになった


お昼休みも終わり、ひよりは自分のクラスに戻った


……………

5時間目も6時間目とも今日も無事に一日が終わった放課後

今週は私たちが教室の掃除当番だというのに…

誰かさんは掃除が始まってすぐに…「トイレに行ってくる~っ」…と笑顔でそう言い残して、二度と教室には帰ってこなかった…

そう、…灯…

(はぁ… また灯に騙された…)


時計を見ると…もう4時、やっと教室の掃除が終わって、ぅーんっ、と伸びをしながら窓ごしに外を見る

もう日が落ちかけていて教室がオレンジ色に照らされ始めている

こんな時間になってもまだまだ暑い今日は、半袖の今も少し汗ばむくらい…

ほかに用事もなかった私は教室を出て生徒玄関に行く

上履きからローファーに履きかえていたときだった…


「ゆりちゃん! 」

ふと、後ろから名前が呼ばれる、直ぐさま振り返ると

…紺色のカーディガン…黒髪…

…ひよりだった

私が振り向いたからか、ひよりは、あっ! という顔をしてこっちに手を振ってくれている

その手を振っているときにカーディガンの袖に見え隠れしている指先がちょっと可愛い…

こっちのほうから見ると本当にひよりが少し地味っぽい文化系女子に見える…


「ひよりさん…、じゃなかった…ひより、今帰り…? 」

「はぃ 図書室に本を返却しに行っていたらこんなに遅くなってしまいました」

「そうだったんだ」


……………

…まだ灯がいないと少しだけぎこちない二人になってしまう…

「ゆりちゃん? 」

「はぃ… っ 」

「今から一緒に帰りませんか? 」

私もちょうど言いたかったことを先に言われてしまう

「ぁ…はぃっ 私も今それ…言おうと思ってました 」


秋の夕暮れどき、川沿いの道をゆっくり歩く二人…

ひよりの家へ続く道、私の家はこっちではないけれど、ひよりとただ一緒に帰ってみたかった、…ただそれだけの理由で途中まで一緒に帰ることにした

この川沿いの道を灯以外の人と歩くのは何年ぶりだろう


たまに首筋を通り抜けていくそよ風が気持ちいい

小さな古いベンチを見つけてそこに一緒に座る私とひより


「今日は …何て言うか、ありがとうございました 」

自分でも、どこのありがとうかも分からないありがとうをひよりに言ってしまう…

「いえ、こちらこそ ありがとうございました 」

…それでも、ひよりからのありがとうは幸せな気持ちになった

「風が気持ちいいね…っ」

「はぃ そうですね 」

…まったりした時間が流れる


「ゆりちゃん? ひとつだけ…質問してもいいかな? 」

「ぁ、はぃっ どうぞっ 」


「その体温…どうしたんですか…? 」


っ………!??

………………

………


(っ…ど、どうして…っ!? )


……分からなぃ…

どうして…どこで…?

灯には今まで何にも言われなかったのに…、どうしてひよりには一発でばれたの…?


(!!っ そうだった…‘灯には’…っ)

すっかり忘れていた、灯がそういう子だということを…


(当たり前だ、普通の人が私に触れたらどういうことになるか…)

馬鹿だった…うかつだった…


昨日確かめた通り魔とのことも、ひよりという新しい友達ができたということで私はすっかり有頂天になってしまっていた…

…どうしよう…

「…ぁ あのね… ひより…これは… 」


………………

………


私は…どうすれば…っ

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