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第16話

「はぁ…っ はぁ…っ 」


私は走っていた


真昼の町並みをかきわけて、女子高生が一人、全力疾走で学校へと続く道を走っていた


(いつ以来だろう…こんなに人目を気にせず全力疾走で走ったのは )

下手をすれば小学生以来かもしれない


涙が溢れ出ていたまぶたに風があたり、走りぐしゃぐしゃになった髪の毛や首筋に風が通り抜けてゆく

左手に持つ学生カバンを雑に振り、スカートの揺れを気にすることも忘れて

右手のこぶしの中にはさっきまでのメール画面のまま閉じた携帯を強く強くにぎりしめていた


「はぁ… はぁ… 」


気がつけば、私は学校の正門の前に立っていた

まだ久しぶりの全力疾走のせいで胸を締め付けるずきずきとした痛みはあるものの、足を止めるという考えは今の私には思いつかなかった


ただ前へ前へ

ただ私が私でいれる あの空間へ

確かに信じれる、あの場所へ


ちょうど今の時間は、お昼休みの真っ只中だったのか校庭にも廊下にも教室にも生徒で溢れていた

その生徒をかきわけ私が真っ先に向かおうとした場所はいつもの1年E組の教室ではなかった


真っ先に目指した場所


そう… 4階の隅の古臭い教室


ただの直感だった

でも確かな確信もあった


あそこに行けばきっと皆がいると


………

息が込み上げ、荒い呼吸で階段を駆け上がり、4階の隅の教室の扉の前へとたどり着く


相変わらずお昼休みだというのにこの階もこの教室もがらんとしていた…


「…ふぅ 」

あらためて呼吸を調え、教室のドアに手をかけた


(みんな… )


そして…

私は踏み出し、扉を開けた


ガラッ…


静かに鈍い音を震わせながらゆっくりと開いた扉

鼻に伝わる独特の匂い

相変わらずの小汚い物が積まれた物置部屋のような空間…


そして、視界を向けたその先には…


………

窓を開け、カーテンが風でふわりとなびき、真っ白い光が教室一面に降り注ぐその場所


(…っっ )

…いた


そこには二人がいた

驚くこともなく、焦ることもなく、まるで私が来ることがわかっていたかのように


そしてすぐにその二人の声は私に向かって発っせられた

「お帰りなさい ゆりちゃん」

「ゆりさん おかえりなさぃですっ 」


……

(ぁぁ…… よかった…)

ホッとした…安心した


それなのにどうしてだろう

さっきまで泣いて泣いてからからにからっぽになった瞳からは、またしても感情が溢れ出しそうになっていた

心の中で深い深い安心の一息をいれて、精一杯の声で二人に向けて答えた


「ただいま…っ ひより 有珠ちゃんっ」


窓辺に立つひより、そのすぐ横でイスに座っている有珠ちゃん、私の答えを聞いて、ただ二人はそっと笑顔を向けてくれた


けれど…やはり、灯の姿だけはそこにはどこにも見当たらなかった…

(やっぱり…)


そこからは、またいつものように戻り、いや…いつもと変わらない三人だった


「ゆりちゃん 髪の毛 大変なことになっていますよ?」

「ぁ…ぅん 走ってたから 」

窓に映るボサボサの髪をした私の顔

でもよかった


鏡に映る私は、もう、ちゃんと笑えていたから…


そして、光に照らされたひよりの微笑みはあのメール以上に私に安心の気持ちを与えてくれた

「ゆりさんっ これから午後の授業は出るんですかー?」

「ぅーん… どうしようかな…」

正直まだ授業を受けるほどの気力はなかった

授業を受ければ一つ前のからっぽの席をいやでも一時間も見続けなければいけなくなる…

それが…今の私には痛いほどきついものなのだから


(灯… )

心の中で呟くように、叫ぶように滲み出たこの世界中たった一人の親友の名前…


「そうですかぁ…」

「ぁ… ぇっと ごめんね… 有珠ちゃんっ 」

せっかく仲直りできたのに、また不器用な自分が表で邪魔をする


「そうですね では それならっ」

ひよりが思いついたように手をポンッっとついた

「「…?? 」」

私も有珠ちゃんも何事かと首を傾げる


「それならっ 今日は無断早退してしまいましょうっ♪ 」


………

……


「「ぇ……っ!? 」」

笑顔のままひよりはその表情とは真逆のことを簡単に言ってのけた


「な、な、なに言ってるのひよりっ??」

「ですから 三人とも今日はこれで終わりです♪ 」

「いやいやっ 笑顔で普通に言ってのけないでよっ その前にひよりってそういうキャラじゃないよね? 」

「そうですか? 確かにそんなことしたことなんて今まで全くありませんでしたが」


「というより 有珠ちゃんのほうだって授業… 」


「有珠は… 」

「ぅん 」


「有珠も… 今日は終わりですっ 」


………

「ぇーーっっ」

「有珠ちゃんっ 有珠ちゃんもそういうことするタイプじゃないよねっ?」

「そうですけど… …あの教室…にいるくらぃ ならお二人と一緒にいたぃです 」


「…ぁ 」

…教室… 有珠ちゃんの痛み…


「ぅん…ありがとう ひより 有珠ちゃん… 」

「友達なんですから 気にしないでください 」

「エヘヘー そうですよっ 」


友達…


「ぅん …ありがとぅ 」

少しの罪悪感はあったものの、今のこの二人には勝てそうにもなかった


お昼休みが終わるころ、私たち三人は初めて学校から無断で早退した

私の場合はまだ学校に来てすらいないことになっているはずだけど


ひよりと有珠ちゃんはいったん教室からカバンやらを取りに戻って、私だけ先に正門の前で待っていた


(それにしても )

手を天高く空にかざせば、真っ青な昼下がりの空と陽気が体を温める

9月とはいえ、本当にまだ夏の匂いが残る季節だった

そのまま両手を広げおもいっきり、ぅーんっと伸びをする

(気持ちぃぃー )


「お待たせしましたーっ」

そんなことを思っていると

先に有珠ちゃん

「お待たせしました 」

その10秒後にひよりも


…よくよく思えば、こんな昼間から女子高生が三人歩いていたら、それだけで今ただでさえ警察の街の警備がすごいのに、大丈夫なのだろうか…


「さて どこに行きましょう 」

「ぁ… ぇっと 駅前とかはごめん… 」

「ゆりさん 大丈夫ですっ 駅前以外にも多分 遊べる場所はありますよっ 」

私の退いた声をすぐにフォローするように有珠ちゃんが言う


「では コンビニに立ち寄ってもいいでしょうか? 」

「コンビニ?? 」

「はい コンビニです」

「有珠はいいですにゃー 」

「私も大丈夫 」


とは言え、学校の前のコンビニに行くのは5分もかからなかった

自動ドアが開き、ひよりは真っ先に本棚に歩いていった

「よかったー まだ一冊残っていました 」

ひよりが手にしていた本…


「ジャンプ?? 」

「はい ジャンプですよ 金曜日だったので もうないと思っていたのですが 一冊だけ残っていてよかったです 」

「ひよりって意外とこうゆう少年誌とか漫画読むの?」

「少年誌はジャンプだけですが 漫画は全般ですね こういうジャンプ系から萌え系まで」


「そ、そうなんだ…」

前に言ってた同人誌というのは冗談ではなかったらしぃ…

「とくにジャンプはBL要素の宝庫ですね」

「へ、へぇー …」

…端から見れば清楚で真面目そうな少女を、誰が無断早退してBL要素と語りながらジャンプを読んでいたと思うだろうか…


「あれ? 有珠ちゃんは? 」

「にゃぁにゃぁ~っ 」

(ぁ… いた )

後ろから有珠ちゃんの声が聞こえる

(というか どういう合図なんだろう…)

有珠ちゃんは小さなお菓子棚のところでなせが屈んでいた


「どうしたの有珠ちゃん?」

「これー 」

…??

有珠ちゃんが指した方向を見る

「…っ 有珠ちゃんっ!?」

驚いた…っ

なぜなら、有珠ちゃんはその手に入りきらないほどの量のチロルチョコとチュッパチャップスを箱買いしようとしていたからである


「あ、有珠ちゃんっっ さすがにちょっと買いすぎだと思うよっ 」

「でも…… 」

そう言うと、ふいに有珠ちゃんは自分のカバンを開けた


………

……

もはや私の常識は通用しないのだろうか…


有珠ちゃんが開けたその学生カバンの中には…


お菓子…

お菓子…


ついでに、お菓子…

隅を見ると、やっぱりお菓子…

と思いきや、奥のほうも残念……お菓子


カバンびっしりにお菓子が入っているっ!?

というか、お菓子しか入っていない!?


「…あ、有珠ちゃん… こ、これ 教科書とかは?? 」

「ここです 」


…あった

本当に隅に現代国語の教科書の、「現」と書かれている本らしきものがぎりぎり確認できた


お菓子に埋もれている…


(有珠ちゃんって…)

その幼い見た目と喋り方以上に、さらに子供っぽいところを発見してしまった気がする…

謎が一番多いのは、きっとこの子かも…


……

………

…………



そんな昼間からの遊びも、本屋さんに行ったり、CDショップに行ったり、雑貨屋さんに行ったり、あの川沿いのベンチでアイスやらお菓子を食べたり


駅前に行けない分、まるで中学生の帰り道のような遊びしかできなかったけれど


でも、それでも…


本当に今日という日が楽しかったっ


(ありがとう ひより 有珠ちゃん )


涙で起きた今日を、幸せな思い出で眠れたことに、ただ二人の友達への感謝と

…唯一の一人の親友への不安を思いながら、今日は眠りについた…



コンビニで見た、抹茶いちごメロンパンだけが…どうしてか、私の心を震わせた…

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