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第15話

-9月5日-(金)-


全てが無意味と思えたこんな私の世界でも、また無造作に残酷に…日常というモノは繰り返し、昨日が笑っていようが泣いて過ごしていようが、世界の日常は平等に時と共に流れてゆく


「…ん… 」

新学期が始まって初の週末、金曜日

霞む目でまた今日という日に起きてしまった

ぼんやり起きた始めの意識の中でやはり最初に思うことは昨日のこと


灯が警察に私のことを言ってしまってはいないか

灯とは…もう友達としては会うことはできないのではないだろうか

ひよりと有珠ちゃんをあの場に置き去りにし、…二人とも怒っているのではないだろうか


昨日のことを一つ考えただけで、過度な不安は頭の中で何千という心配事を無限とも思えるほど書き立て作り立ててしまう


(どうして…私なのかな… )

心の中で独り言のように呟いた

二度目の生を受け、その代償とでも言うような二つの深い痛みを背負わされ

たった一人の親友も、新しくできた友達にさえも枷となって立ち塞がり

今でさえも生き返った自分の…生きている意味が分からない


ふと昨日、ベットの隅に置いた携帯の時計の表示を見る


…9時30分

とっくに授業が始まっている時間だ

(そっか…)

私はいわゆるずる休みをしてしまった

「はぁ… もう今日はいいや」

ふて腐れるように、風邪をひいたときのようなだるい身体でベットから起き上がり、虚ろな目でリビングへと向かう


やることなんてない

テレビも見たくない


軽い欝状態だった…


この一週間、本当に長かった気がする

出会って…驚いて笑って呆れて泣いて…離れて

思い出をさかのぼるようにこの一週間を振り返る


そうやって、ただぼんやりとソファーに座っていたときだった


ヴーッ… ヴーッ… ヴーッ…

(…?? )

パジャマのポケットに入れてあった携帯のマナーモードが鳴る

カチッと携帯を開く


-着信メール2件-


「…?? 」

携帯の受信ボックスを開き、誰からのメールか確認する

(…?? )

そこに表示されていたのは


-未読メール-

綾瀬 ひより 3件

桜月 有珠 3件


(ひより…? 有珠ちゃん? )

私が気がついていなかっただけで、受信時間を見るに私がさっき起きる前からメールは送られていたようだった


「ひより…有珠ちゃん…」

二人のメールを一番最初に送られてきた下のほうのメールから恐る恐る読み始める


-本文-

「ゆりちゃん 昨日の一件は本当に申し訳ありませんでした…

今は大丈夫でしょうか?

灯ちゃんのことも心配ですが、私はゆりちゃんのことも心配です

私と有珠ちゃんは今でもお二人を変わらず大好きでいますよ   ひより 」


「ゆりさん、昨日は有珠がまぐろのこと…なにも知らないくせに灯さんの前で言っちゃって

本当にごめんなさぃ

でも、有珠は…こんなこと言ったら怒られちゃうかもだけど、ゆりさんも灯さんのこともずっとずっとだいすきです 」


「…ぁ…ひより…有珠ちゃん…」


…………

なんでだろう…


どうしてだろう、この胸の奥からこれほどまでに溢れ出しそうになる気持ちは


まだ一人ぼっちじゃなかったんだ

そう思えたこと

嫌われてなど…いなかった…

それどころか、私みたいな気持ち悪い子になんかに心配もしれくれて…まだ友達でいてくれて


それは私の閉ざそうとしていた心に強く強く語りかけ

その本当に数列の短い文章は

今の私には、どんな言葉より優しく思え

どんなものよりも温かくて


そう…、それだけ…ただそれだけなのに

さりげなくでもなく、大袈裟でもなく


奥底から、滲み出るほどまでに溢れてきた

自分でも原因不明な感情に声にならなぃ…


「グスッ…はぁ……っ 」

ひよりがどんな想いでこれ書いたのかとか、有珠ちゃんがどんなに悔いた想いでこのメールを送ったのかとか…

それを考えただけでもう…涙が溢れ出しそうになっている自分がいた


「…ごめんね…」

電気も付けない白黒の部屋、ソファーの片すみでたった二通のちっぽけな短文メールに君から…君たちから貰った優しさの言葉が心に染みて…っ

なんて、ちっぽけなものだろう…たった二つのメールでここまで喉が震えるとは


画面がぐじゅぐじゅに鮮やかに染まる瞳で残りの4件のメールも見る


-本文-

「ゆりちゃん 学校…来れそうにないのでしたら、無理に来なくても大丈夫ですからね?

ただ、誰かに頼れそうな余裕があればですが、そのときはいつでも私たちに頼っていただいてかまいませんからね?   ひより 」


「ゆりさん、大丈夫ですか…?、有珠なんかでよければ、…その…頼ったり愚痴でもわがままでも全然大丈夫ですっ

これはまた有珠のわがままなんですけど…

またいつか、有珠とひよりさんと…それに灯さんとゆりさんと、4人であの教室で笑いたいです

わがまま…ごめんなさぃ 」


どう…説明していいのか分からない

…泣きながらも少々混乱していた

涙が止まらなくなった

優しさが嬉しかった


-本文-

「ゆりちゃん、返信…できそうにないほど辛いのでしょうか…?

メール、ゆりちゃんも辛いと思いますので、今日はこれで最後にしようと思います

ただ最後に

私たちはまだ灯ちゃんよりはゆりちゃんには浅い友達の関係かもしれません

ですが、それでも、私たちは確かな仲間ですからね?   ひより 」


「ゆりさん…本当に大丈夫ですか?

朝から、ずっと心配です…

今日、一時間目の授業は生物でした

ゆりさん、覚えてますか?

有珠のことをゆりさんに救っていただいた、あのときの机に座っています

落書きもまだ全然残っているままです

メール…返せそうにないなら、あの机でも…大丈夫ですから

今度は有珠ががんばりますから」


「…っ…ひくっ…ぅぅ ひより…っ 有珠ちゃん…」

切なくて…もう本当に切なくて

その画面に映るメールの文章を両手で胸の奥いっぱいにぎゅっと抱きしめた

(ありがとう… ひより 有珠ちゃん… )


…………

………


いつまでも涙が止まらない自分に困っていた

泣いている理由だって自分でもよくわからなくて


もう駄目だった

耐えられなかった


死にそうになっていたんだ

ただ、うれしいくて…切なくて…っ

胸を掻きむしりたくなるくらい本当に切なくて…っ

でも、それでも

この嬉しさだけはごまかせなかった

誰もこの家にいるわけでもないのに、必死に一人…私は声を押し殺してぽろぽろと泣いた


………

……


それから、どのくらいの時間泣いていたのか分からない

やっと涙が治まった頃にはきっと私はひどい顔をしていたんだと思う

でも…それでも


行かなくちゃ…

    …いけない場所がある


(…このままじゃ…終われないよ )


私は制服に着替え、この衝動ありったけの力で家から飛び出した


…向かうべき

     場所を目指して

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