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プロローグ


あなたはこの本のタイトルをふざけていると思ったでしょうか?


ファンタジーではありません、バトルではありません。

ゆるゆる・ハチャメチャラブコメディでもありません、エッチなハーレム要素は皆無です。


これは一ヶ月の、高校生達のひと夏の物語です。


戦火に包まれた街の中で、最後まで起承転結の転だけを求め続けた、それはそれは壮絶な、弱者の反撃の物語です。


青空、入道雲、夕焼け、屋上、自転車――


これを読み終わったときには、きっとそれらの残り香を与えられる、タイトルのギャップを差し上げられることを信じています。


まずは、プロローグから始めさせていただきます。


-去年-8月16日- 夏-


物語の始まりは、去年、平凡な六人の中学三年生が挫折に散った時期。

そしてその中の〝少女〟にさかのぼる。


やがてそれらが、私達の高校生の夏をこれ以上ないほど走らせる理由になるとは〝少女〟の一度目の生涯では予想もしていなかった。


それは今でも決して忘れられない、来年の夏に繋がる悲劇のことだ。


***


夏休み、兄と一緒に海水浴に来ていた。

空は夏らしく晴れ渡り、ジリジリするほどの日差しが素肌に注ぎ込んでいた、そんな日。


私は海に来るのが久しぶりで、子どものように羽目を外してきっていた。


けれども、そんな無邪気な思い出になるばすだったこの日、無縁のように思えたそれは唐突にやってくるのだった。


大体の予想通りの結果だ。

私は海で遭難し、


……死んだ


――そう、本当にいとも簡単に、猶予もなく私は溺れ死んだ。


確か死体になったのは夕暮れ過ぎだった。

あれだけ日中は賑やかだった海や砂浜も人がまばらになって、兄も帰りの準備をしているのが見えた。


つまりそれを眺める本人はまだ海の中で遊んでいた。


貸し切りの海は気持ちよく、私は人目を気にせずゆったりと浸っていた。


けれどもしばらくして、徐々にその状況は変わり始める、そしてそれは、日没と共にはっきりと強調されるのだった。


ようやく置かれた立場を意識したとき、私はすでに遠い海の中に一人ぼっちになっていた。


……焦った、それからどのくらいの時間が経ったのだろうか。


必死に手をかきあげて泳いでも兄のいるところには辿り着けず、それどころか、もはやどっちに泳げばいいのかも分からない静寂の中にいた。


もがくほどに最悪の結末が頭をよぎり、へばりつく大量の水からは容赦無く死に直結した恐怖が送り込まれてきた。


日も落ちかけ、辺りはしんと静まり返り、今か今かと狩りを待つ波が息を潜めてざわめいていた、その孤独に瀕死の少女が一人。


鼻や口の穴からは酸素がブクブクと抜け落ち、残された体力も力尽き、とうとう意識がもうろうとなりかける。


そしてついに、ゆっくりと……波に揺られながら沈んでいく私の身体。

水の刺す冷たさも、最後には何も感じなかった。


あのとき、確かに失った命はあったはずだった、紛れも無くそこで私は死体になったんだ。


しかし、ここからが本題で、そこで私の人生は幕を閉じなかった。


十四歳の救難信号を受けた、ある奇っ怪なる怪異なモノによって――


それは偶然だったのか、必然だったのか。

あの瞬間、一筋の光さえ届かない深海に沈んでいく死体目がけて、海の底から猛スピードで近づいてくる〝何か〟があった。


形を一瞬だけ捉えられたそれは、人でも魚でも動物でもない、ましてや死神でもない、まさに〝何か〟だった。


結局、そこで私は目を閉じてしまった。


次に私が目を覚ましたのは病院のベットの上だった。


死んだと確信していた自分がなぜまだ生きているのか、初めは全く理解出来ず、夢を見ているようなぼやけた感覚だけがあった。

どうして助かったのか、なぜあの海の底から生還出来たのか、そして最後に見たアレは一体なんだったのか?


ただそれでも、まだかすかにぼやける視界の先に家族の泣き顔とも笑顔とも言えぬ表情を見たとき、本当に助かったんだと、その瞬間、私も自然と涙が溢れてきた。


しかしこれは二度目の命の代償なのだろうか、私にはしばらくして二つの変化が生じた。


事故から数週間後のある日。

夏も終わり、退院した私は何事もなかったかのように普段の生活に戻っていた。

当たり前の授業、ふと外に意識を向ければ微かに秋の匂いを感じれるような季節。

とある朝、私は寝起きから気分が悪くて、ふと体温計で体温を計ったときのことだった。

入院中の検査では何の異常もなかったはずの私の身体に、何の前触れもなく変化が訪れた。


これが、私の変化の一つ目。


〝体温が普通の人間では考えられないほど低い身体になっていたこと〟


普通の人間の体温は低くても三十五度前後が普通である。しかし私の身体は三十度が平熱の身体になっていた、何回何十回と計っても結果は同じ。


ただ、だからといって自分で感じる身体の異変もなく、病気や害もなく、常人と同様に汗だってちゃんとかいた。

むやみに人や友達に触られなければ特に問題はない。

学校生活でも支障はないと、この時はそう思っていた。


二つ目は〝まぐろの存在〟


体温の変化に気がついて間もない時期に、もう一つの変化は起きた。


夕方、学校から帰ってきたその日、私の部屋にあるはずのないものが横たわっていたのだ。

普通にはないもの、普通の人間なら絶対驚くもの。きっと私も昔なら、それを見て腰を抜かすほどの衝撃だったはずだった。


しかし私には、目の前のそれを見ても、どうしても動じない理由があった。

なぜなら率直に、私がそれを見るのが初対面ではなかったから。


あの事故の日、海の底から私を助けてくれた人でもない魚でもない動物でもない〝何か〟


一瞬だけ見れたその姿、まさにそれこそが、今、紛れもなく目の前に横たわっている不気味なこれだったのだから。

そして、その正体は〝まぐろ〟

世間ではそう呼ばれる、ただの魚。

しかしこれは命の恩人であり、私からすればただの魚なわけがなかった


ただどうしてか、切羽詰まった当時の私には、横たわるこの化け物を今すぐ隠さなければならない、という感情でしか身体を動かすことが出来なかった。


それはまるで、死体を隠す子供のように……


小さめとはいえ自分の百五十六センチの小柄な身長と同じ大きさ程の剥き出しのまぐろを、家族が帰ってくる前に隠蔽する。

ありったけの浅知恵を絞り、まずは胴体にバスタオルを覆い被せた。

次に両端を紐でぎゅっと縛り、尾が剥き出しの状態にも関わらず、最後には自分の部屋の押し入れの中に無理やりしまい込んだ。


今冷静に考えてみればおかしな話だけど、押し込んむときに優に百キロ以上はするであろうまぐろを、私が片手で掴むことが出来たことは、やはり普通の魚ではありえないことだったのだろう。


〝体温とまぐろ〟


この二つが、今、私の二度目の命とともに得てしまった二つの代償。


-現在-


そして一年後に繋がり、高校生になった私はつい昨日高一の夏休みを終え、今日からまた、普通の子とは少し違う新学期を迎えようとしていた。


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