僕は透明人間
ちょっと暗めです。
僕は透明人間だ。
皆には僕の姿は見えないし、声も聞こえないから会話や意思疎通ができない。
僕が見えないのは人間だけらしくて、猫や犬、鳩には僕の存在が分かる。だから猫は好きで、野良猫とかによく餌をやっていた。
誰にも気づかれないのは寂しいけれど、仕方ない。
僕は透明人間なのだからー。
そんなある日、僕は声をかけられた。
「あの、ゆうきくん!」
人けのない廊下を歩いていると、突然僕の名前を呼ばれた。驚いて、ぱっと振り返る。
そこにはクラスメイトの花園さんがいた。
他の人のことではないかとも思ったが、周りには彼女と僕以外の人間はいない。
「え…ひょっとして、僕に話しかけてる…?」
「うん、ゆうきくん…あの…」
彼女はなにやらもじもじと恥ずかしそうにしていた。僕は僕で、話しかけられるとは思わずに呆然としていた。
だって僕は透明人間なんだ。
皆には視えない。聞こえない。
なのに、どうして…。
「ごめんなさい!」
すると、彼女は勢いよく頭を下げて謝った。
「ほんとにごめん…」
「え?な、なんであやまるの…?」
訳が分からない。僕が見えたと思ったら、急に謝りだした。
「だって、あたし最低だ…関わったら自分がいじめられるからって…」
「君を無視しちゃった」
彼女の言葉に、僕を保っていた何かがぽろりと崩れだした。胸がぎゅっと締め付けられて痛くなる。
ああそうだ本当はわかってた。
僕は透明人間なんかじゃない。
ある日、突然クラスの皆にはぶられて、いじめの対象になったんだ。
本当は皆に僕の姿は見えていたはずなのに、見えていないかのように。
僕の声も聞こえてるはずなのに、何も返さない。
まるで僕がそこにいないかのようにするから、僕も僕が透明なのだとー。
いや、ちょっとちがう。
ただ、無視される毎日が辛くて、自分が透明人間であるふりをして、傷つかないようにしてただけだ。
でも、彼女は僕に話しかけてくれた。
「なんで…」
「ごめんね、ほんとにごめん。辛かったよね」
そう言う彼女の手は小刻みに震えていた。
「私もう、絶対に君のこと無視しないから…」
目頭が熱くなって、涙がボロボロ溢れ出した。おさえたいのに、それはどんどん溢れて、嗚咽までこみ上げてきた。
「もう大丈夫だよ」
彼女は泣きそうになりながら笑った。
僕は透明人間じゃなくなった。
お読みいただき、ありがとうございました!