表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/119

64,初めてのクエスト。

 「ありったけのポーションだ。持っていけ」

 「……ちょっと待て。なぜお前、アイテムボックスを使える!? 」


 ヴォルドにポーションを渡そうとするが、そう驚かれる。


 「なぜもこうもあるか。とにかく使えるんだ」


 俺は嘘をつけない。考えるのも得意じゃない。ごまかすのも下手だ。そのせいでヴォルドは困惑しているが、知ったことか。


 「ほら、持って行けよ。俺たちは洞窟の奥まで行く」

 「ここに来るまでの魔獣は殲滅して来た。多分、安全に、帰れる」

 ルナもそう頷く。

 「……ついて行って良いか」

 と、ヴォルドが言う。

 「なぜだ」

 「……このままじゃ帰れない。父さんに怒られる」

 「知るか。一度死にかけたんだ。戦力にもならん。帰れ」

 「……頼む」

 もう一度帰れと言いかけるが、ルナが制す。

 「なぜ、なの? 」

 「……強くなりたい」

 ヴォルドはそう呟く。いやいやながらやっと言ったという感じだ。

 「……俺の職業は”虫使い“だ。ご存じの通り不遇職だよ。ろくに冒険の役にも立たない。それで、父さんにも叱られた。……でも、俺は強くなりたい。自分でもやれるんだということを、証明したい。……なあ、頼む」

 ヴォルドは深々と頭を下げる。第四階級の俺たちに頭を下げる貴族なんて初めてだ。こいつ、バカか。

 「なぜ一人で倒れていたんだ」

 「……裏切られたんだ。“虫使い”の俺と冒険に出てくれる冒険者なんていない。あいつらは街のごろつきだった。金だけが欲しかったんだろう。洞窟の中腹で、いきなりおきざりにされた。……そこに魔獣が現れて、なんとか撃破出来たが、……あのざまだ」


 よほど悔しいんだろう。ヴォルドは下唇を噛みしめている。そこから、血が滲んでいる。


 「……見返したいか」

 ヴォルドが顔を上げる。「……ああ」

 「……俺もだ」と俺は言う。「俺も、第四階級の俺たちでもやれると証明したい。……その気持ちがお前にわかるか」

 ヴォルドはハッとする。微かに蒼ざめた。

 「……今なら、良くわかる」

 「じゃあついて来い。自分で証明しろ。お前にもやれるんだって言うことを」

 ヴォルドはぐっと拳を握り締める。目には涙が溜まっている。第四階級の俺にここまで言われて腹が立つんだろう。知ったことか。

 「ああ、そうする。お前に、俺にもやれるんだってことを、証明してやる……! 」

 「勝手にしろ」


 ◇◇


 洞窟内の様子が変だということには気づいていた。

 涼さんから聞いたことがある。低ランクダンジョンでも、ごく稀にレア魔獣が発生して強敵と遭遇することがあるって。冒険にはいつでも未知の危険が潜んでいて、決して油断してはならないのだと。

 

 洞窟の最奥に辿り着いたときのことだ。


 「なにかいる」とルナが言う。

 「……止まろう」

 「あれは……」とヴォルドが言う。「シャドウスコルピオンと、ポイズンクラックゴーレムだ……! 」

 「倒そう」

 「ば、バカを言え! どちらもB級魔獣だ。俺たちの手に負えるもんか! 」

 「俺たちのあとにFランクのパーティーがこの洞窟に入って来るのが見えた。放っておけばあいつらがやられる」

 「そ、そんなの……! 」

 「放って、おくと、言うの? 」と、ルナが咎める。

 「……! 」

 「俺たちでやるしかない。覚悟を決めろ」

 俺は物陰から一歩前に出た。


 俺の合図でルナが”フラッシュバースト“を唱え、眩い光が洞窟内に満ちる。数匹いたシャドウスコルピオンの足が止まる。さらにルナは”アイスシャード“を唱えてシャドウスコルピオンの身体を固定し、そこへ一気に、俺が駆け寄る。剣に炎のエンチャントを纏わせ、「”フレイムスラッシュ“」を放つ。……瞬く間に、シャドウスコーピオンの群れが粉々になる。


 問題はポイズンクラックゴーレムだ。このゴーレムはこの空洞一帯に濃度の濃い毒素をばら撒いている。まずはこの毒素をどうにかしなくちゃいけない。


 「ルナ、“ウィンドブレード”だ! 」

 ルナが頷く。「“ウィンドブレード”! 」


 この広い窪み一帯の空気が、一気に循環する。次第に濃くなっていた霧が、一瞬ではあるが、晴れ渡る。


 「“ビュリフィケーションオーラ”! 」


 これは涼さんから貰ったスキルのひとつで、本来は生活職の人々が使うものだ。

 空気清浄を目的としたスキルだから、冒険にはあまり役立たない。それを一か八か使ったのだが、……効果ありだ。霧の奥に隠れていたゴーレムの姿が、くっきりと見える。


 その隙を俺は見逃さない。即座に背中の弓を取り、矢を引いた。


 「“ブレイクショット”! 」


 ゴーレムは必ず胸の中心に核がある。そこをピンポイントで撃ち抜けば、動きは止まる。……見事に真ん中を打ち抜いたはずだが、動きは止まらない。俺は立て続けに弓を放つ。


 「“ブレイクショット”、”ブレイクショット“! 」


 七発も撃ったところで、激しい眩暈を覚える。

 涼さんが心配していたバックフラッシュだ。本来適性のないスキルを多用したせいで、身体が悲鳴を上げている。だが……、ここで撃つのをやめたら、このパーティーは全滅してしまう。


 俺は弓を捨て、再び剣を抜く。激しい眩暈で足元はおぼつかないが、なんとかゴーレムに近寄る。

 ゴーレムも必死だ。核を打ち抜かれた固くなった動きで、大きく振りかぶり、その拳を俺に振り下ろす。


 ……と、そのとき、


 「“ライトニングランス”」


 と、ルナの声が聞こえ、光の槍が背後から飛んでくる。そして、ゴーレムの核にヒットする。

 再び動きを止めたゴーレムに、俺は最後に一撃を加える。……もう力は残っていないから、最も初歩的なこのスキルだ。


 「“ソードスラッシュ”! 」


 自分でも、驚くほど弱々しい攻撃だった。

 だが、死にかけのゴーレムを倒すのには充分だったようだ。

 

 膝をついていたゴーレムは、ゆっくりとその頭を地面につけ、突然岩同士の連結を失い、粉々に崩れた。


 俺もまた剣を地面に突き立て、それでも自分の身体を支えられず、地面に突っ伏す。

 限界だ。


 今にも気を失いそうになりながら、ルナのほうを振り返る。

 ……とそのとき、天井付近に蠢くものを見つける。生き残っていたシャドウスコーピオンだ。”絶対に油断するな“と涼さんに口を酸っぱく言われていたのに。今、俺たちは、完全に油断している。こういうときこそ最も危険なのだと、何度も言われたのに。


 「ルナ……! 」

 

 と、かろうじて声を絞り出したそのとき、……想像もしていないことが起こった。

 

 ヴォルドが天井の魔獣に気づき、……ルナを突き飛ばしたのだ。そして今ヴォルドの身体にシャドウスコーピオンが降って来る。


 「毒針の召喚ヴァイパースティング


 という声が聞こえたのはそのときのことだ。


 いつの間にかヴォルドの周囲に凄まじい数の蜜蜂が飛んでいる。ぶんぶんと、羽音がうるさい。

 そしてその膨大な蜜蜂が、一斉にシャドウスコーピオンに遅いかかかる。



 数百匹の蜜蜂に襲い掛かられ、シャドウスコーピオンはあっという間に粉々に打ち砕かれた。

 まるで、深い影がひとつの命を食いつくしたかのようだ。恐ろしいスキルだ。


 

 「ヴォルド……。助かった。妹をありがとう」

 突っ伏したままそう言うが、ヴォルドはなにも言わない。シャドウスコーピオンの針を食らったせいで、立ち上がれないようだ。ルナもさすがにバックフラッシュ気味で、眩暈を起こしている。


 ……数分経ってルナが快復し、俺に”ヒール“を掛けてくれる。続けてヴォルドにも”ヒール“を掛けるが、完全には快復しない。

 俺とルナは熱を持ち始めたヴォルドの身体を担いで、生まれて初めて入ったダンジョンを出て行った。



 ◇◇


 「目を覚ましたか。クエストは終わりだ。クリアした」

 「……アレンか。俺は、どうなったんだ」

 ベッドの上で目を覚ましたヴォルドがそう言った。

 「自分が術を唱えたのを覚えていないのか」

 「……今やっと、思い出せた。あんなに上手く虫を召喚出来たのは初めてだ」

 「礼を言う。妹を助けてくれて感謝している」 

 「……礼を言うのはこっちだ。お前がいなければ俺は生きて戻ってこれなかった」

 「じゃあおあいこだな。互いに貸しはなしだ」

 ヴォルドは頷き、しばらく考えごとをした後で言った。

 「……すごかった。あれだけたくさんのスキルを使って、しかも、連携も上手く取れていた。あんな冒険者は見たことがない。お前らは本当に強い。……すごいよ」

 「まだまだだ。途中バックフラッシュも起こしてしまった。でもまあ、初めての冒険にしては上出来だったと思う」

 「初めての冒険!? 嘘だろう……?? 」

 「本当だ。冒険者登録したのも昨日のことだ」

 「初めての冒険であれだけ動けるのか?? お前ら、天才じゃないか……?? 」

 「いや、まだまだだ。俺なんて全然だ」

 俺は涼さんのことを思い浮かべる。冒険者としても、人間としても、俺はあの人の足元にも及ばない。

 だが、よほどショックだったのか、ヴォルドは絶句している。さすがに少し気分が良い。


 「……なあ、頼みがある」

 ヴォルドが思わぬことを口にしたのは、そのときのことだ。

 「なんだ」

 「……俺を、お前らのパーティーに加えてくれないか」

 「なぜだ」

 「……俺は痛感したんだ。自分がいかに弱かったかを。冒険者としての力量だけじゃない。人間的にも、俺は本当に弱いやつだった」

 俺は黙っている。口を挟むのは、野暮だ。

 「……でも、お前らと一緒にいて、少しだけ自分が強くなれた気がした。あのとき、お前らのようになりたいと思って、初めて勇気を出せたんだ」

 「あの動きは勇敢だったと俺も思う」

 ヴォルドが頷く。「連れて行ってくれ。頼む……!」

 俺は少し考えてから言った。

 「……俺たちは第四階級だぞ。そのことがわかっているのか」

 「関係ない」ヴォルドは即答した。「あの制度はクソだ。俺はそう思う」

 「じゃあ俺たちは対等だ。それで良いか」

 「それで良い」

 「じゃあお前は仲間だ。ヴォルド。どんなときも俺たちは助け合うんだ。分かったか」

 「誓おう。アレン。……俺たちは仲間だ」


 第二階級の冒険者どもなんてずっとクソだと思って来た。

 貴族もみんなクソだと思って来た。

 でも、今回のことで分かったこともある。 

 クソだらけのなかにも話が分かる奴はいるし、この世界は俺たちの手で変えられるということだ。

 そしてそれを教えてくれたのは、涼さんだ。


 「行くぞ、ヴォルド。妹が酒場で待ってる」

 「酒場? なぜ酒場なんだ」

 「歓迎会だ。お前がパーティーに加わりたいと言い出すと思ってた」

 「アレン……!」

 「悪いが、今日はお前のおごりだ。俺たちは金がない。第四階級だからな」

 「俺の歓迎会なのにか?」

 

 ヴォルドは涙ぐんだ目端を拭い、この日初めて笑った。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ