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63,アレンとルナ。

 ※今回はアレン目線の話です。


 

 「十四歳になったばかりの第四階級のガキが、冒険に出るだって? 」


 ギルドでクエスト受注をするなり、そう笑われる。

 笑われるのには慣れている。でも、腹は立つ。


 「なにが可笑しい。冒険者申請は正式に通ったよ」

 「第四階級はスキルが使えない。そんなことも知らんのか? 」

 「涼さんだって第四階級だ。でも、立派に冒険者をやっている」

 「あいつは特別だよ。お前は違う。痛い目見ないうちに、さっさと家に帰るんだな」

 

 頭の禿げたこのおっさんは、さっきからにやにやと薄笑いを浮かべている。こいつの鼻におもいっきりパンチを食らわしてやりたいが、もめ事を起こすのはご法度だと言われている。


 「もう、良いから、アレン、行こ」


 ルナにそう言われて、渋々その場をあとにする。


 「小僧。夢を見るのは夜だけにしときな」


 ギルドを出る時にさっきの剥げたおっさんがそう怒鳴る。どっとした笑いが、ギルドに響いた。



 ◇◇



 俺たちが行くことに決めたダンジョンはFランクの“カラクス洞窟”だ。オーヴェルニュの南西にある洞窟で、深さはそれほどではないが、複雑な地形をした癖のあるダンジョンだ。


 「おい、お前、俺より先に中に入るな! 」


 禿げたおっさんがやっといなくなったと思ったら、今度は、別の奴がダンジョンの前で声を掛けて来る。

 金髪をした若い冒険者で、年齢は俺と同じくらいだろうか。見るからに金を持った、貴族冒険者だ。


 「俺が先に着いたんだ。先に中に入ってなにが悪い」

 洞窟の入り口で、俺は金髪のこの青年にそう言い返す。あまりに頭に来て、敬語を使う気にもなれない。

 「俺はヴォルド・レインターン。レインターン家の長男だ。俺より先に行くなんて許せん」

 「お前がレインターン家の長男かどうかなんて知るもんか。順番は順番だ。先に入るぞ」

 「お前、見るからに貧乏人だが、階級を言え! 」

 「……第四階級だ」

 「第四階級? 第四階級が冒険者になんて成れるのか? ……まあいい。第二階級の俺にお前が逆らえないのは分かっているだろう。さっさと道を譲れ。……それと、一時間はなかに入るなよ。邪魔になる」


 そう言うとヴォルドはパーティーを連れて洞窟へ入った。いけ好かない奴で気に喰わないが、階級を出されれば従うしかない。クソ。


 「ルナ。一時間経ったか? 」

 「アレン。……そろそろ、だと思う」


 一時間ほど経って洞窟のなかに入る。


 「ルナ。初級ダンジョンだからといって油断するなよ」 

 「私は、油断、しない。アレンこそ、気をつけて」


 こっくりと頷き、涼さんに貰った長剣を鞘から抜く。剣はずっしりと重たいが、大丈夫だ、手にはしっかりと馴染んでいる。

  

 この洞窟は主にスライム・ムクールが棲息している。ムクールは全身が透明なゲル状の形状で、攻撃を受けると分裂する。攻撃そのものは強くはないが、厄介ではある。初級冒険者は砂や塩を携帯してスライムの粘性を下げ、そのうえで剣で攻撃して対処するのが定石だが……、


 「“アイスバインド”! 」 


 ルナが唱える氷系の魔術によって、スライム・ムクールは凍り付く。

 そこを俺が、


 「“ソードラッシュ”! 」

 

 ……あっさりと撃破する。“採取”スキルによってスライム・ムクールの核を手に入れることも忘れない。


 思っていたよりも遥かに、自分たちが冒険できていることに、驚く。

 大量発生しているスライム・ムクールは俺たちの敵ではないし、複雑な地形の洞窟に迷うこともない。

 これもすべて、スキルを与えてくれた涼さんのおかげだ。

 

 

 ◇◇


 二時間も洞窟内を探索した頃だろうか。

 洞窟内は今や深い暗闇に満ちている。目に見えるのは灯した松明の明かりと、その半径六メートルほどの周辺だけだ。


 「アレン、なにか、聞こえない? 」

 「なにかってなんだ」

 「わからない。誰か、呻いている、気がする」


 耳をそばだてる。ルナは俺よりも繊細なところがある。第六感的なものがあると言っても良い。

 確かに、「うぐぐ」と誰かが呻くような音が聞こえる。


 「あっちだ。その分岐を左手に曲がったほうだ。そこから聞こえる」

 

 ルナが頷く。


 分岐を左に折れたところに蹲っていたのは、このダンジョンに入るときに俺たちを怒鳴ったヴォルド・レインターンだった。ヴォルドは額に汗を浮かべて地面に突っ伏し、その腹からは真っ赤な血が垂れている。


 「ヴォルド! なにがあった」

 「……お前らか」

 「血が出ているじゃないか。仲間はどうした」

 「……」

 ヴォルドはなにも答えない。

 「……怪我をしているのは腹だけか? ……ルナ、“ヒール”掛けてやれ」


 だが、ヴォルドは首を振った。

 

 「……うせろ、第四階級のクズども。お前らに助けられるくらいなら、自分から死んでやる」

 

 なにがこうまで俺たちを恨ませるのか、その目は真っ赤に燃え滾っている。クソ。


 「知ったことか」と、俺は言う。「お前が俺たちをどう思うかなんて知ったことか。ルナ。構わずヒールを掛けてやれ。行け」


 「“ヒール”」


 ルナの掛けたヒールで、ヴォルドの腹は徐々に傷が塞がっていく。完全には癒えないだろう。だが、致命傷ではなくなるはずだ。


 「余計なことをしやがって」

 

 ヴォルドは地面に手を付いたまま、そう憎まれ口を叩く。顔色はさっきよりは良くなっている。


 ……だが、安心はできない。さっきから、洞窟の暗闇の奥からなにかの羽ばたく音が近づいて来るのが聞こえる。しかも、一体や二体ではない。やがて、そのざわめきは俺たちの持つ松明の明かりのなかに入って来た。

 

 「……バイトバットだ」ヴォルドが呟く。

 「……ルナ、“ライトフラッシュ”だ」

 「“ライトフラッシュ”? 光系魔術師の術だぞ。……その女は治癒士じゃないのか? 」

 ヴォルドは心底驚いたと言いたげに、突っ伏したまま、仰け反る。


 「“ライトフラッシュ”! 」


 ルナがそう唱えると、眩い光が洞窟の奥にまで届いた。辺りは真っ白になり、天井辺りを跳び回っていたバイトバットが、ばたばたと地面に落ちる。バイトバットが眩暈を起こすのは一瞬のことだ。すぐに倒さなければ、狂暴化してこっちに襲い掛かって来る。涼さんからそう教わった。


 「“スパイラルスラッシュ”! 」


 この一撃で、数匹のバイトバットの命が奪える。


 「ルナ、残りのバイトバットは”フロストスフィア“で凍り付かせろ! 」

 「うん、わかった。……“フロストスフィア”!! 」


 ルナの魔術で凍り付いたバイトバットに、俺は背中から抜いた弓矢を構える。


 「“スプレッドショット”! 」

 

 空中で矢が分裂し、散弾銃のように辺り一面を貫く。凍り付いていたバイトバットは、すべて粉々に打ち砕かれた。


 「……これで、全部か」

 数十匹はいたバイトバットは、残らず目の前から消え去った。やった、と思う。連携も上手く取れていた。

 ルナに頷き掛けると、ルナも自信を感じさせる表情で、頷く。俺たち兄妹は、やれる。


 「……ど、どうなっている……?? 」

 と、ヴォルドが呻いた。

 「どうなっているって、なにがだ」

 「……さっき女が唱えたのは氷系魔術師の魔術だ……。それに、その前には光系魔術も……! 」

 「ルナは両方使えるんだよ」

 「馬鹿な!? そんな話、聞いたこともない……! 」

 「あるんだからしょうがないだろう」

 「そ、それに、お前もだ……! なぜ剣士のスキルと、弓士のスキルが両方使えるんだ??? 」

 「使えるもんは使えるんだ。仕方ないだろう」

 「な、なんだ、そりゃあ??? 」

 「なんだとはなんだ。そういうものなんだ。諦めろ」

 「お、お前、いったい、何者なんだ……?? 」

 「俺か、俺はアレンだ。こっちはルナ。ふたりとも第四階級の冒険者だ」


 「だ、第四階級の、冒険者ぁ……?? 」

 ヴォルドはそう呻くと、意味がわからないと言いたげに首を振った。












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