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50,仲間であるあなたに。

 「それで……? なんで俺なんだよ……? 」

 

 ロジャーの建てた新しい繊維工場へ向けて歩きながら、ツルゲーネが、いかにも不服そうに、そう問うた。


 「いや、第四階級の人が大勢働くからさ。工場長をやるなら、人望のある奴がやったほうが良いと思ったんだ」

 

 その工場の工場長を誰にしたら良いか、とロジャーに問われて、俺はツルゲーネを推薦していたのだ。


 「いやな……」

 と、ツルゲーネはひとつ咳払いし、続ける。

 「ロジャーさんの工場で働かせて貰うのは良いさ。だけどな、なんで“工場長”なんだよ!? 工場で働くのは第四階級の人間ばかりじゃないんだろう!? なな、なんで、俺が、そこのトップになるんだよ!? 」


 まるで突進する猪のように興奮するツルゲーネを、どうどうと抑え、俺は言った。

 

 「お前ほど第四階級の人々に信頼されているやつはいないじゃないか。それに、街で働いた経験があるのもお前だけだ。それだけじゃない。お前は普通に、どこに行っても通用する、優秀な人材だと思うんだよ。だから、推薦したんだ」

 「……ま、まあ、そう言って貰えるのは、悪い気分ではないが……」

 「もうひとつ加えると、あの工場は、“第四階級の人間がトップをやっている”ということに、意味があると思う。この街の空気を変える為にも、そういうひとつひとつの分かりやすい変化が必要なんだよ」

 「分かりやすい変化、ね……」

 まだ口調は不服そうなものの、ツルゲーネのなかで納得の光が、すでに灯っていることが感じられる。

 「そういう重役を担えるのは、お前だけだと俺は思っている」

 そうもう一押しすると、

 「そ、そうか……? ま、まあ、俺もやらないとは言ってないわけだが……」


 と、腕組みをして街の遠景を眺め、若干得意そうになりながら、ツルゲーネは何度も頷くのだった。


 

 ◇◇


 「それにしても……」

 と、工場の敷地内に着いたときに、今度は俺からそう切り出す。

 「以前働いていた職場では、穏便に退職出来たんだよな? 」 

 「まあな」

 と、ツルゲーネは感慨深げに、髭を剃ったばかりの頬を、撫で上げる。

 「社長が第四階級に理解のある人でな。ずいぶん良くしてくれたよ。正直に言って、かなり恩義を感じている。……この話が持ち込まれたとき、社長にそのことを相談すると、あっさりと、たった一言、“行ってこい。お前ならどこへ行ってもやれる”、とそう言ってくれたんだ。俺は途中で仕事を投げ出すことになるのに、小言ひとつも言われなかった」

 「良い人に恵まれたな」

 ツルゲーネの背中にそっと手を添えてそう言うと、

 「まったくだよ。あの人には、成長させて貰えたと心からそう思っている。いつか、俺が大きくなってこの恩を返すんだ」


 ツルゲーネはそう言うと、拳を力強く握り締め、微かな笑みとともに、その拳を静かに見つめた。



 と、裏手から入った工場の表側に着いたとき、そこに大勢の人だかりが出来ていることに、俺は気がつく。

 その集団の中心にはロジャーの姿が見えるが、残りは、彼の会社の重役たちだろうか。

 総勢四十名ほどの男たちが、俺たちに気がつくとざわざわとし始め、やがて横並びになり、ついには……、



 「このたびは、素晴らしい商品を開発して下さり、ありがとうございます!! 」

 


 と、まるで何度も練習を重ねて来たかのように、声を揃えて、大声で俺にそう頭を下げた。


 その勢いと声の大きさに思わず圧倒され、ツルゲーネとともに、その場に立ち竦んでしまう。

 

 「なあ、あそこにいるあのひとって、ロジャー・バレンティンだよな」

 と、引き攣った笑みを浮かべたツルゲーネが、そう零す。

 「ああ」

 と、さすがにこの状況に引いてしまった俺も、そう頷く。

 「ロジャーさんって、……ロジャー商会のロジャーだったのか……」

 「ああ」

 と俺が繰り返すと、

 「ふざけるなよ……? 」

 と、ツルゲーネはゆっくりとこっちを向いて、言った。

 「そんな大物と関わるなら、……もっと早く言え」



 ◇◇


 工場の敷地内の案内をしてもらったあと、ロジャーとツルゲーネの三人だけで話す機会を設けて貰えた。

 「……こちらが、涼さんの旧友の、ツルゲーネさんですね? 」

 ロジャーはその屈託のない笑みで、ツルゲーネに向けて握手の手を差し出してくれる。

 「ええ、そうです。俺の一番古い友人で、信頼出来る男です」

 「涼さんがそう言うのなら、間違いないでしょう。我々としても誰を工場長にするのか決めかねておりましたから、推薦してもらって大変助かっております」

 「あ、あの……」

 と、口を開いたのは、ツルゲーネだ。

 「ほ、ほんとに俺なんかが、工場長になって良いのですか……? 俺は第四階級の人間ですし、涼と違って、特別な人間でもありませんが……」


 ロジャーはしばらく黙ってツルゲーネを見ていたが、やがて静かに微笑むと、その目を細めて、こう言うのだった。


 「むしろ頭を下げなくてはならないのは、私どもの方なのですよ、ツルゲーネさん。……私どもはここにいる涼さんと仕事をさせてもらえることを、大変に幸運なことだと考えています。……今回涼さんが発明した新繊維、また、それを使った“セーター”という商品。どちらもこの世界に存在しない、素晴らしい発明です。私どもはその新製品の発売に関われることが、まず単純にとても嬉しい」


 “そのうえで”と、ロジャーは前置きして、こう続ける。


 「……私どもはあなたたちの志を理解しております。階級という旧態依然とした制度を撤廃したい……。そのために、涼くんは様々なことにトライし、大勢を魅了し続けている。……私はこう言いたいのです。“私はあなたたちを応援します、心から。そして、その戦いに、同志として仲間に入れてくれませんか”と」


 ロジャーはにっこりと笑い、最後にこう付け足した。


 「わかりますか? ツルゲーネさん。“あなた”と、”私“は、もう仲間であり、同志なのです。……工場長はあなたで良いのか、という問いに対しては、こう答えましょう。私は、ここの工場長を、《《仲間であるあなたに》》、任せたいのです」



 ロジャーはそう言い終えると、ツルゲーネをハグし、まるで古い友人のように、その背中をめいっぱい力強く叩いた。








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