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47,私の全部教えてあげる。

「少し、暑くなっちゃったわね……」


 肩に掛けていた大きなローブのようなものを、セナは脱いだ。

 その下に着ていたのは薄手のキャミソールみたいな衣服で、その細身の体には似つかわしくない、豊満な乳房が、顕わになる。

 

 「セナ様。飲み物をお持ちしましょうか」

 

 まるでずっと待機していたとばかりに、彼女の部下らしき若者が、さっとセナの傍らにやってくる。

 

 「そうね。美味しい飲み物を頂戴。私、とっても喉が渇いてしまったから」

 「すぐにお持ちいたします」

 

 その若者も絶世の美男子と呼ぶに相応しい、素晴らしい造形の整った容姿をしている。

 いや、容姿が整っているのは、なにも、この若者だけではない。

 工房で働いている鍛冶士、受付の若者、いまのような従者でさえ、すべてが美形で、女受けするような甘い容姿をしていた。

 そしてそのすべての男たちは、誰もがセナに心酔しており、彼女の為ならその命を投げ出さんばかりに、彼女に尽くそうとしているのだ。


 「あの、この工房で働かないか、というのは、どういう意味でしょうか……? 」


 従者の持ってきた冷たい飲み物をセナが飲み干すのを待って、俺はそう切り出す。

 わざとなのか、偶然そうなったのか、彼女の唇の端から、上手く口に入らなかった液体が、つうっとその首筋を垂れる。

 思わず、俺はその艶めかしい首筋を、凝視してしまう。


 「そのままの意味よ。パルサーから聞いているわ。あなた、今よりももう少し特別な武器が欲しいのでしょう? パルサーの頼みだから私が叩いてあげても良いけれど、自分で造れるようになったら、労力はずっと軽く済むじゃない。その技術が身に着くまで、私が面倒見てあげても良いわよ? 」


 ”面倒を見る“という言葉が引っかかったのか、この場に来てからずっと無表情のアニーが、さらにぐっと、顔を固くする。


 「技術が身に着くまでって……」と、同伴してくれていたセシリアが、そう切り出した。「それはどのくらいの期間なの? 涼くんはいろいろと忙しいのだけれど、そう長くは預けられないわよ? 」

 「あらそうなの? それは残念ね……。私としては、一年はこの工房に身を置いて欲しいと思っていたのだけれど……」


 そのとき、


 「い、一年!?!? 」


 という怒声が、俺の隣から発せられる。

 言うまでもなく、アニーの一声である。


 「いいい、一年だなんて、駄目です! 絶対に駄目です! こここ、こんな危険な場所に、涼さんを一年も預けるなんて、出来るはずがありません……! 」


 しかしその怒りをむしろ楽しむかのように、セナは余裕たっぷりに微笑み、

 

 「あら、どうして? 涼は冒険者なのでしょう? 確かにこの職場は火も扱う危険な場所だけれど、ここより危険な場なんて、涼は慣れっこなのじゃなくて? 」

 と、そう返す。

 「き、危険というのは、そういう意味ではありません……! 」

 「じゃあ、どういう意味なの? 」

 そう問われて、アニーはぐっと、押し黙る。すでに顔は真っ赤に染まり、耳までが熱くなっているのが、はた目にも、わかる。


 「答えられないのね……」

 と、セナはけらけらと笑い、軽くため息を吐くと、俺にこう尋ねた。

 「あなたはどうなの? 自分のことなのだから、自分で決めたら良いじゃない」



 セナのその一言で、この場にいた全員の目が、まっすぐに俺へと向けられた。

 

 

 「もしかして……」

 と、俺は少し躊躇いながら、こう切り出す。

 「セナさん、俺が“普通の人間ではないこと”に、勘づいているのじゃないですか? 」と。



 “なにを言っているのかわからない”というような沈黙が、全員の身から発せられる。


 だが、そんな氷のような沈黙のなか、セナだけが、“見どころあるわね”というふうに、ゆったりと頷いている。


 「……どうしてそう思うの? 」

 「……正直、わかりません。ただ、セナさんは、俺の深いところを見抜いている、そんな気がしたんです……」

 「……深いところを、見抜いている……。あなた、面白い子ね」


 セナは再び従者からグラスを受け取り、なかの液体をぐっと飲み干すと、真っすぐに俺を見据えてこう言った。


 「あなた……、”彼方人“ね? 違う? どうもそんな気がするわ」


 まさかピンポイントで言い当てられるとは思っておらず、俺はぐっと、息を飲んでしまう。

 だが、すぐに意識を整え、覚悟を決めてこう切り出した。


 「その通りです。俺は異世界からこの世界にやってきました」

 「……そんな気がしたわ。良く話してくれたわね」

 「……なぜ俺が彼方人だと分かったのですか? 」

 「ただひたすら、勘よ。そんな気がしたの。……でもやっぱり、私の勘は正しかったわ。あなたを一目見たときから、この男の子はなにか面白いものを抱えている、そう思ったのよ。この工房で働かないかと言ったのも、その勘があったからよ」


 彼女は一呼吸置いて続けた。


「……そのうえで、改めて聞くわ。あなたが“彼方人”だというのなら、恐らく、特殊な能力をお持ちでしょう? 特別な武器を求めているのも、その特殊能力となにか関係があるのではなくって? ……私なら、その手助けがしてあげられるわ。面倒を見てあげるから、ここで技術を学んでいったら良いじゃない」


 「どう考えても、悪い話じゃないわね」

 と、再び口を開いたのは、セシリアだった。

 「セシリアさん!?!? 」

 と、アニーの悲鳴にも似た叫びが、それに続く。


 「……嬉しい提案ですが」と俺は言った。「一年というのは、俺にとっても厳しい話なんです。クエストや、別の仕事も抱えていて、とてもそんな時間は割けそうもありません……」

 「でもあなた、“彼方人”なのでしょう? あなたがどんな特殊能力を持っているかわからないけれど、私が思うに、“そんなに長くは掛からない”と思うわ。一年というのは、普通の人の場合よ」

 「あ……」と、俺は零す。

 考えてみれば、俺のチート能力を使えば、鍛冶士のスキル習得も、普通に教わるよりずっと早く終えられるはずなのだ。


 だが、そのことを知らないはずのセナが、なぜそのようなことにまで気が回せるのか。

 さっきからずっと感じていることだが、この女性は、その“勘”があまりにも突出して鋭いのではないか……。


 「……やります」

 と、俺はそう切り出した。

 「お願いします。俺に、セナさんの技術を授けてください……! お願いします! 」


 隣にいたアニーが蒼白となってぐっと息を飲むのがわかったが、それでも、俺はそう言わずにはいられない。


 「ひとつ聞いて良い? 」と切り出したのは、セシリアだった。「なぜそれほど涼くんに良くしてくれるの? 提案は私としても嬉しいけれど、あなたと涼くんは初対面じゃない。あなたにメリットがあるとも思えないわ。なぜ、それほど親切なのかしら? 」


 すると、セナはその小さな舌をちろっと出して、こう言ったのだった。


 「《《タイプなのよ》》。涼の顔、とってもタイプなの。私ね、こう見えて、好きな男の子にはとことん尽くすタイプなのよ。涼。あなたにならなにされたって許しちゃう。私の知っていること、ぜえんぶ、あなたに教えてあげるからね」


 するとアニーはそのままくらっと、血の気を失い床に膝をついてしまった。


 そしてそんなアニーをさらに追撃するように、セナはこう続けたのだった。


 「少しふたりきりで話がしたいわ。みんなごめんなさいね。涼を奥の私の部屋に連れて行くわ。……さあ、涼、どうぞ、中に入って頂戴」








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