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46,とっても可愛い顔しているわね。

 

 セナの工房があると言われる西の港地区に足を踏み入れたのは、翌日の朝早く、陽も上り出して間もない時刻のことだった。

 俺の子守り役としてセシリアが同行してくれると言い、なぜか、アニーまでもが来ると言い出し、俺たちは三人で工房に行くことになっていた。

 時刻があまりにも早いのは、若くして天才鍛冶士と言われ、多忙を極めるセナに合わせてのことなのだが……、


 「……涼くん、どういうことなの? アニーさん、ずいぶん機嫌が悪そうじゃない……」


 俺たちのやや後方を歩くアニーを、俺はさっと、振り返る。

 昨日会ったときと同様、アニーは完全な無表情に徹しており、着いた時から一言も口を利いていない。


 「……俺も良くわからないんですよ。昨日からずっとあんな調子で……」


 もう一度後ろを振り返ると、アニーは真っ直ぐ俺を睨みつけている。

 顔が凄まじく美人であるだけに、無表情に徹セナれると、余計に怖い。

 “氷の聖女”と綽名されていたのも、頷ける冷酷さだった。



 ◇◇



 セナの工房に着いたのは、歩き出してニ十分ほど経ったときのことだった。

 港に面した工房は入り口の扉が取り払われ、なかからは、まだ早朝だというのに、若き鍛冶士たちが必死に鉄を叩く音が、すでにけたたましく鳴り響いている。


 セナに会いたいという話は通してあったから、入り口で若い鍛冶士に取次いで貰い、汗水垂らして小槌を振り下ろす若い鍛冶士たちの横を通り抜けて、俺たちはなかに進んで行った。


 「お待ちしていました。あなたが、涼さんですね」


 と、最奥の部屋でそう言ったのは、想像していたのとはまったく違う、いかにも清楚な佇まいの、ひとりの美少女だった。


 「あ、あなたが、セナさん、ですか……?? 」

 「そうよ。私がセナ。……いろんな噂があるから、想像していた感じとは少し違っていた、そんな感じかしら……? 」


 想像していた感じとは少し違うと言うが、彼女の姿は、想像とはあまりにもかけ離れていた。

 男好き、男勝り、幾人もの男を囲い、気に入った男には自分から熱烈にアピールをする、そんな噂の数々を耳にして俺が造り上げたのは、筋肉粒々、金髪で豪胆、口も荒い“強い女”というイメージだった。


 だが、今俺の目の前にいるのは、肉体仕事とは無縁そうな、華奢で、まるで貴族の箱入り娘のような、真っ白い肌をしたか弱い細身の女性だったのだ。


 「そうですね……。正直、もっと強そうな女性をイメージしていたというか……」

 クスっと、セナが口元に指を当てて、笑う。 

 「良く言われるわ。もっと豪胆そうなイメージだったって。……きっと、よほど悪い噂が巷では囁かれているのでしょうね。でも、実物の私はこのようなものですよ。どう? 少し、がっかりした? 」


 セナはそう言って優しそうに微笑んだ。

 「い、いえ、そんなことは……! 」と、咄嗟に俺は、そう弁解する。

 それに、“がっかりする”というよりも、むしろ俺は、この驚きのギャップに、強い好感を抱いていた。


 筋肉粒々だと思っていた彼女は、見るからにおしとやかで、長く豊かな青い髪を肩まで垂らし、顔も文句のつけようがなく美人。そして、清楚で、真面目そうなのだ。

 

 そのとき……、俺はふと、あることに気がつく。


 最初に会った時から感じていたが、セナは、その雰囲気が、アニーにそっくりなのだ、ということに。


 もかしたら、“だからこそ”、アニーはこんなにも、不機嫌なのか……!?


 と、唐突に、俺はそう思った。


 自分のキャラが被っているから、アニーは、俺がセナに会うことを嫌がっている……? 


 そう思ってアニーを見遣ると、待ち合わせ場所に来た時よりもさらに、アニーは不機嫌そうに怒りを募らせている。

 ゴゴゴゴゴゴと、彼女の背後から、恐ろしい地響きが聞こえてきそうなほどだ……。


 そのとき、「ふふっ」という笑い声を立て、まるでなにかを察したように、セナがこんなことを口にした。


 「……噂は噂。根も歯もないものもたくさんあるわ。……でもね、噂のなかにも一粒の真実は混ざっているものよ。……私の場合はね、私が“生粋の男好き”だということ。そこだけは間違いない、真実よ」


 おい、待て、やめてくれ……! と言いたくなるほど、俺の隣で、アニーの不機嫌が激しくなってゆく。


 「ここにいる若い鍛冶士たちもね、私の気に入った男の子しか集めていないの。私はね、ほんとうに、心から、男の子がだあいすきなの。……そのことを隠す気もないわ」


 そう言うとセナは、清楚風の見た目にそぐわない、色気たっぷりの目をして舌なめずりをして見せた。


 もはや爆発しそうなほど、アニーの身体からは、ひとつの熱気の柱が立ち昇っている。

 アニーのなかでは、今や、俺がセナと喋っていることすらもが、憎悪の対象になっていそうなほどだ……。

 

 そして、まるでそんなアニーをからかうように、セナはさらにこう続けた。


 「……そのうえで言うわ。涼くん、だっけ? あなた、とっても可愛い顔をしているわね。どう? うちの工房で働く気はない? 」


 


 





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